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ビッグファイブテストは西洋以外の国だと使えないかもしれない?説


こないだ、「日本人向けビッグファイブテスト」みたいな話をブロマガで書いたんですよ。このブログでは、信頼性が高い性格テストの代表例として「ビッグファイブ」ってのをたびたび紹介してるんですが、その日本人向けバージョンを取り上げたわけです。ビッグファイブがよくわからない方は、「5分で自分の正しい性格を把握する簡易版ビッグファイブテスト」をご参照ください。

 

 

で、ビッグファイブのテストがたくさんある中で、なぜ日本人向けバージョンを紹介したかと言いますと、

 

  • 既存のビッグファイブテストが、西洋人向けに開発されているから

 

ってのがあるからです。これは、学問の世界では「weird問題」として知られるもので、一流の心理学ジャーナルに掲載された論文の参加者の96%は、アメリカ、イギリス、ドイツ、オーストラリアといった西洋の先進国に住む人たちばっかりなんですよ。つまり、いま私たちが知っている心理学の知見は「西洋(Western)、高学歴(Educated)、工業化(Industrialized)、富裕(Rich)、民主的(Democratic)」な人を対象に得られたものでして、これらの頭文字を取って「weird(ウィアード)」と呼んでるわけですね。

 

 

当然ながら、この問題は日本人にも当てはまりまして、西洋の文化から得られた知見がアジアの人間にも通じるのかってのは、いまいち判断しづらいんですよね。実際のところ、この問題については、近年になってパリ経済学院などのチームが、おもしろい検証(R)をしてくれております。

 

 

これは、weird以外の23カ国で実施されたオンライン調査や、現地の言語で実施された先行研究のデータを調べたもので、「果たしてビッグファイブの考え方はインドやブラジル、離島の人々の行動特性にも当てはまるのか?」って問題を調べてくれたんですね。残念ながら日本はふくまれていないんですが、西洋じゃない文化でビッグファイブがどこまで通じるかを調べたデータとして貴重でしょう。

 

 

でもって、その分析結果をひとことでまとめると、

 

  • これらの国では、ビッグファイブのテストは信頼できない!

 

みたいになります。どうやら、weird以外の国では、ビッグファイブテストの結果と、そこから予想される行動がマッチしないらしいんですな。うーん、おそろしい。

 

 

では、なぜこのような現象が起きたのかと言いますと、だいたい以下のような原因が想定されてます。

 

  • 同意バイアス:weird以外の国では、「当てはまらない」よりも「当てはまる」という答えを、できるだけ選ぼうとするバイアスを持っている。そのため、例えば「物事が整理された状態が好きだ」と「私は不注意だ」という似た特性を尋ねる質問に対し、どちらにも「自分に当てはまる」と答えやすい。これは文化の違いによるのかもしれないし、たんに性格テストに慣れていないからかもしれない。

 

 

  • 翻訳の問題:いまのビッグファイブは、weirdの国の考え方に沿って問題が作られている。例えば、weirdの国では「時間を守る」という概念を非常に大事にするが、weird以外の国では、それよりも出来事事態を大事にする傾向が大きい。このような差を考慮せずに、スレートに翻訳しても、うまく答えられない可能性はめっちゃ高くなる。また、weirdの国は、高学歴の中流階級やリベラルな人ばかりが実験に参加しやすいため、このあたりの思想の違いも、性格テストの結果に影響するのだと考えられる。

    さらに言えば、そもそも現行のビッグファイブが、「英単語」の性格特性を分類した生まれた概念なので、非英語圏の感覚にはフィットしない可能性が大きい。

 

  • 一貫性の問題:オンラインの自己テストではなく、インタビュアーを介したテストの場合、面接官が異なっただけでも参加者の答えが大きく変わる現象が確認された。これは、インタビュアーとのコミュニケーションの質が、参加者の答えに影響したものと考えられる(weirdの国では、このような現象はあまり見られない)。

 

 

ってことで、いずれも納得の理由ではないでしょうか。もっとも、この研究は、世界の中低所得国を対象にしたものなので、果たして日本にどこまで通用するのかはまだ謎なんですが、西洋との文化の違いや、非英語圏であることによる感覚の差は十分に当てはまるので、やはり「ある程度の誤差は出るだろうなー」とは思いますね。

 

 

まー、これと似たような話は「才能の地図」でも取り上げていて、「ストレングスファインダー」や「VIAーIS」みたいなテストってのも、やはりweirdの国で生まれて、weirdの国で検証されたものなんで、どうしてもアジア圏には当てはまらないところが出てきたりするんですよねー。たたき台として使うならアリですが、あくまで西洋の価値観で作られたものだってのは、頭の隅に入れておきたいところです。

 

 

 

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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