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「20代は人生のどん底なんだから、メンタルケアに注力しようぜ!」という本を読んだ話

 


20代の治療(The Twentysomething Treatment)」って本を読みました。著者のメグ・ジェイ先生は若年成人のメンタルヘルスを専門とする発達臨床心理学者で、ヴァージニア大学で教えていらっしゃいます。日本でも「人生は20代で決まる」「逆境に生きる子たち」などが翻訳されていて、心理学好きには有名な先生じゃないかと。

 

で、本書の内容も、メグ・ジェイ先生お得意の「20代の問題」をまとめたもので、20代のメンタルが悪化しやすい理由や、20代の幸福度が低い理由を教えてくれております。また、ここで述べられる知見は、私のようなオッサンがメンタルヘルスを考える際にも有用ですんで、読んでおいて損はないかと思った次第です。

 

ではいつもどおり、本書から勉強になったポイントを見てみましょうー。

 

  • たいていの人は、20代でメンタルヘルスが最も悪化する。どの国で行われた調査でも、若者の50%が不安、40%が抑うつ、30%が自殺願望、20%が薬物使用の問題を報告している。それにもかかわらず、多くの人は20代の葛藤を矮小化し、たんに「若者は弱い」ぐらいに考えてしまう。

 

 

  • 人のメンタルヘルスの変化を追いかけると、J字型の曲線を形成する。平均して、小児期から青年期にかけて幸福度は低下し、20代で最低レベルになったあと、それから数十年で上昇していく。その理由はまだはっきりしないが、20代は、パートナーを探せるかどうか、親になれるかどうか、良い職業に就けるかどうか、持ち家を持てるかどうか、経済的に自立できるかどうかなど、人生の大きな選択にさらされるケースが多いため、約10年間を不確かな気持ちで過ごさねばならないのが原因だと思われる。

 

 

  • しかし、一般的には、20代のことを「子供や住宅ローンの責任もないし、仕事もプレッシャーも少なくていいねぇ」ぐらいに思われがちである。ところが、実際には、20代は外部の安全な基盤を得られない時期であり、これを無視し続けるのは難しい。外側の環境が落ち着いていないのに、内側を落ち着けさせるのは不可能に近い。

 

 

  • さらに、現代の20代は、メンタルヘルスの問題で過剰投薬や過剰診断を受けやすい。若年成人の約4人に1人は、メンタルの処方薬を服用されており、そのせいで感情の麻痺、楽しみや意欲の低下、体重増加、性的問題、依存性といった問題にさいなまれることが多い。特に抗不安薬の使用は2000年以降倍増しており、過剰摂取に関してはオピオイドに次いで多い。さらに、ベンゾ系薬剤は依存性があるため、ごく短期間しか使用すべきではない。薬物療法は時に有用であり必要であるが、20代の若者には、薬だけでなくスキルがより必要である。

 

 

  • その他、20代には、以下のような傾向が見られる。

    • 20代は人生で最も不確実な時期であり、脳は不確実性を否定的に解釈するため、自然と幸福度は低下する。

    • 20代の若者は35歳までに9つの異なる仕事に就き、そのほとんどが経済的に苦労している。

    • 20代は人生で最も孤独な時期であり、20代の50%は親しい友人がおらず、50%は独身である。

    • 20代の脳は、高齢者よりも破滅的な思考をしやすく、ネガティブな感情を抱きやすい。

    • 若年成人の93%はどこかの時点で失恋を経験し、そのせいで鬱になるケースが多い。

    • 20代の50%以上は、生きがいを見出していない。

    • 20代は否定的な感情の悪影響を受けやすいので、若者に対して「今の若者は弱い」「今の若者は昔より甘えている」などと無責任に指摘すると、若者のアイデンティティや自己意識の形成に、絶望や無力感を植え付けてしまうことになる。

 

 

  • これらのデータのとおり、20代は精神的にどん底になりやすいが、逆に言えば転機でもある。20代で幸福が下降線をたどった後、それから気分は上昇に転じやすい時期なので、そう思っておけば少しは楽になる。これは非現実的な楽観主義ではなく、成人の発達に関する複数の研究によって裏付けられた見解である。年齢を重ねるにつれて人生は向上し、心の健康も向上する。

 

 

  • また、いままだ20代だとしても、幸福度を上げることはできる。心理療法の効果を調べた研究によれば、患者が改善した原因のうち15%は治療の体験からもたらされ、15%はプラセボ効果からもたらされ、40%は治療室の外で起きた体験からもたらされる。言い換えれば、もちろんセラピーの体験も重要だが、メンタルヘルスを改善する原因の大半は、職場、家庭、学校、町、国、そして人間関係のなかから発生するという意味になる。

    私たちのメンタルヘルスを改善するのに役立つ要因には、以下のようなものがある。

    • 仕事のスキルが上達する。あるいは、仕事でより大きな成果を残す。

    • ネガティブな方向でなく、より合理的に、あるいは楽観的に考える方法を学ぶ。

    • 社会性を身につけ、友人を作る方法を学ぶ。

    • 恋愛の仕方を学ぶ。

    • エクササイズする方法を学ぶ。

    • ポルノに頼らずセックスする方法を学ぶ。

    • 決断の仕方を学ぶ。

    • 絶望よりも目的と意味を選ぶ方法を学ぶ。

 

 

  • 以上の方法は難しいようだが、実際には、料理の仕方を学ぶことでさえ、私たちのメンタルヘルスは大きく改善する。全体的に見れば、私たちが人生をより良いものにしようとしているときに、私たちのメンタルヘルスは最も向上しやすくなる

 

 

  • この事実は、20代に希望を与え、不安や憂鬱を感じづらくなる。希望を持った人は、将来に向かって努力する傾向が強くなるからである。そのため、メグ・ジェイ先生は、すべてのクライアントに「もし20代が人生で最高の年になったら、それは何かが間違っているのかもしれない。通常、人生は先に進むほど良くなることが多い」と言っている。

 

 

  • もっとも、現代の良い兆候としては、近年の若者は、メンタルヘルスについてオープンに語り、他人に助けを求めることをよしとする風潮が生まれつつある点である。この風潮に従って20代でメンタルをケアすれば、あとは年齢を重ねるにつれて、人はより幸せで健康になっていく可能性が高い。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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