なぜネットでケンカが絶えないのか?エコーチェンバーの新たな視点
「エコーチェンバー」の議論が再燃しつつある昨今でございます。簡単に言うと、
- SNSなどでは、ユーザーが「自分と似た意見の人たち」だけでフォローとフォロワーを固める。
- そのせいで、ネットでは自分と異なる意見を聞く機会が減る。
- 結果として、意見が極端に偏る。
- 意見が違うユーザーと争いが起きやすくなる!
みたいな話です。この現象により、SNSユーザーが極端な意見にわかれやすくなり、「なんかネットで今日もケンカが起きてるなー」みたいな印象になるんだよーって考え方ですね。
実際、日本でもアメリカでも、右と左がお互いを「嫌悪」し合う感情的な対立が目立ってまして、単なる政策意見の違いを超えて、感情的に罵り合う姿はよく見かけるところです。その原因として、エコーチェンバーってのは、長らく定説のように扱われてきたんですな。
が、近年の研究では、実は「エコーチェンバーの考え方って間違ってない?」って意見の方が増えてきたりしております。詳しくは「ネットでやたらとケンカする人が多いのはなぜなんだろう?の科学」に書いた通りですが、多くの調査によれば、実際にはSNSでは異なる意見に触れる機会が多いので、オンラインでの意見交換ってのは、極端な偏りをもたらすわけじゃないって見解のほうが多いんですよね。
ついでに、エコーチェンバーを批判する人たちってのは、「もっと異なる意見に触れようぜ!」って主張をすることが多いんだけど、データを見てると「異なる意見に接触するとむしろ対立が激化する!」ってケースもよく報告されてたりするんですよ。難しいもんですね。
では、エコーチェンバー仮説でネットのケンカを説明できないなら、実際には何が問題なのかってことで、そこらへんを掘り下げたデータ(R)が出ておりました。
これは理論モデルとシミュレーションを中心にした研究で、仮想の人たち(エージェント)を作り、それぞれに「固定の政治的立場」と「変わりやすい意見」を設定。これを、「近所の人(ローカル)」や「SNSで出会う人(広域)」と意見交換をした場合をシミュレーションし、エージェントの対立が激化するのかをチェックしたんですよ。
その結果なにがわかったかと言いますと、
- ネットのケンカは、「エコーチェンバー」じゃなくて「ソーティング」が原因で起きている!
みたいな感じになります。
ソーティングってのは、異なる意見や文化的な違いが「特定の政党や政治的立場」によって整理されちゃって、社会が二分化される現象のことです。
たとえば、かつての社会では「地元のチームを応援する!」「地元の寄り合いに参加する!」みたいに、政治的な意見が違う人たちでも仲良くやれるための仕組みがたくさんありまして、そのおかげで意見の違いがあっても、一定の信頼関係を保つことが可能だったじゃないですか。要するに、これまでは、地域やコミュニティ内での多様な意見交換が、社会の安定に寄与してきたわけですな。政治的な意見が違っても、「同じ出身地だから!」ってだけで嫌悪感がやわらぐみたいな感じっすね。
ところが、現在ではコミュニティが崩壊している上に、SNSなどが地理的にも社会的にも離れた人々をつなげちゃうので、これまで接触することのなかった異なる背景を持つ人々と交流する機会が増加。一見すると、これは多様性を広げるための良い仕組みに思えちゃうんだけど、たいていの人ってのは「似た者」に親近感を抱き、「異なる者」に対して不信感を持つ心理を持っているので、SNS上で異なる意見や背景を持つ人々にたくさん触れちゃうと、意見が変わるどころか「自己の立場にもっとしがみつくぞ!」って気持ちになってしまうんですな。
さらに、SNS上のアルゴリズムは、ユーザーがより長くプラットフォームに滞在するよう設計されているため、対立が激化するようなコンテンツが優先的に表示される傾向もあったりするからさぁ大変。全体が二極化し、「私たち vs 彼ら」のケンカがいよいよ激化するんだよーって話であります。
つまり、SNSみたいなデジタルメディアってのは、エコーチェンバーとして機能しているのではなく、「分極マシーン」として作用しているって考え方ですね。広域的な交流では「同じ意見を持つ人々」との結束が強まり、「異なる意見を持つ人々」との溝が深まるわけですな。
というと、「それって、結局はエコーチェンバーと似たような考え方では?」って気になる人もいそうですが、両者の違いをざっくり説明してみると、
- エコーチェンバー:SNSでは異なる意見を避けて、自分と同じ意見を持つ人とだけ交流する「閉じた空間」が形成されちゃう!この結果、意見がどんどん極端になり、対立が深まるのだ!って考え方。
- ソーティング:SNSは異なる意見の人との接触を増やしている!しかし、そのせいでみんな似た者同士で強く結びつき、異なる立場の人を敵視するようになる!って考え方。
みたいになります。要するに、エコーチェンバーが「多様性からの孤立」によってケンカが起きるとみなすのに対し、ソーティングでは「多様性との接触」によってケンカが起きるとみなすんですな。そう考えると、いたずらに「多様な意見に触れよう!」と主張しても、無益なケンカを増やすだけの方向に働いちゃうんでしょうな。いやー、人間はややこしいもんですな。
ソーティングの発想が正しいのであれば、この問題を抑える方法は「ローカルなつながりを強化する!」ってことになるんでしょうな。SNSのアルゴリズム的にも、広域的な交流を進めるだけじゃなくて、地域や職場などのローカルなコミュニティを重視するデザインが重要になりましょう。「仲間を大事にする!」って感情は、ヒトの根本ですからねぇ。