ネットでやたらとケンカする人が多いのはなぜなんだろう?の科学
ネットを見てると、政治のケンカがめちゃくちゃ起きてるじゃないですか。いまの政権が良いか悪いかで罵り合ったり、インフルエンサーの政治的な発言に罵倒が集まったりとか、そんなやつですな。
ネットでケンカが起きやすい理由はいくつか言われてますが、よく指摘されるのが「ネットが政治的な二極化を引き起こすのでは?」みたいな意見です。簡単に言いますと、
- ネットではユーザーの趣味嗜好をアルゴリズムが学んでくれるので、自分が見たい情報しか目に入らなくなる
- ついでに、ネットユーザーも自分と意見が近い相手をフォローするので、いよいよ自分に都合がよい情報しか目に入らなくなる
- 「自分の意見は正しい!」という見解が強くなり、これが二極化につながる
みたいな話ですね。いわゆる「フィルターバブル」と「エコーチェンバー」ってやつでして、どちらも「確かにありそうだよなー」とか思うわけです。
で、そんな状況のなかで、ネットで政治のケンカが起きやすい理由を深堀りしたデータが2つ出てたので、簡単にチェックしておきましょう。
まず最初のデータ(R)は、SNSに関する76の研究をまとめたメタ分析で、44万人以上の被験者のデータを解析したうえで、「みんなSNSのおかげで政治にくわしくなれてるの?」という問題を調べてくれたものです。SNSには政治に関するニュースや意見が大量に飛び交ってますが、そのおかげで私たちはちゃんと政治の知識を得ることができているのか、と。
分析の結果について、研究チームの意見はこんな感じになりました。
ソーシャルメディアは政治的知識にほとんど寄与していない。
ということで、Facebook、Twitter、その他のSNSをいくら使おうが、たいていの人は、まともな政治的知識を身につけているわけじゃなかったらしい。まぁネットの知識って断片的だから、いくら大量の情報に触れようが体系だった知識にならないってのは、なんとなく想像がつきますな。これは政治的な知識のほかにも言えそうな話ですねぇ。
でもって、もうひとつの研究(R)はアムステルダム大学によるもので、こちらは「なぜネットでは政治の二極化が起きやすいのか?」を調べてくれています。ネットの「フィルターバブル」と「エコーチェンバー」は実在するのかってことですね。
めちゃくちゃ数学的な文献なので詳細は避けますが、この研究は、TwitterやFacebookなどから利用者のデータを集め、これらに自然言語処理やソーシャルネットワーク分析を行って相互作用をチェックしたものになります。ざっくり言えば、ビッグデータをもとにしたコンピュータシミュレーションっすね。
その結果、なにがわかったかと言いますと、おおよそ以下のような感じです。
- ネットで政治バトルが多いのは、エコーチェンバーやフィルターバブルのせいではない
- 現実には、SNS上で起きる論争が、多くの人をますます極端な立場に追いやっている
データを見てみると、ネット上の人が「同じ意見の人たちが集まる」ことによる意見の偏りは確認されなかったんだそうな。その代わりに、ネットで何が起きているのかと言いますと、
- ネットでは自分の意見と異なる人たちがガンガンに目に入る
- ネットは議論がしやすいので、どんどんケンカが発生する
- ケンカのせいで、ますます異なる意見への憎悪が募る
みたいな感じです。実際には、ネットは自分と異なる意見に接する機会を増やすことのほうが多く、それが極端な意見を生み出しているのではないか、という考え方っすね。言われてみれば、こっちのほうが、流れとしては自然な気がしますな。
著者いわく、
デジタルメディアを、単に合理的な審議や政治的議論の場としてではなく、社会的アイデンティティ形成の場、味方との連帯やアウトグループとの差異を象徴的に示す場として捉え直す必要がある。
デジタル・メディアは、対立する思想からわれわれを隔離するのではなく、逆に、われわれを国家的な政治戦争に投げ込み、そのなかでわれわれはどちらの側につくかを強制されるのだ。
とのこと。これは前から言われてたことですけど、もともとSNSを使って冷静で論理的な議論をするのは不可能だし、実際に起きているのは異なる意見とのバトルによって極端なアイデンティティが形成されてるだけなんだよーってことですね。これは陰謀論やフェイクニュースにも当てはまりそうな話なので、自分も気をつけよう……(というか、SNSをほぼ見ないようにしてますが)。