【質問】文章の飛ばし読みって、本の内容を理解するのに役立つんですか?
こんなご質問をいただきました。
この前、速読ができる人は文章を読み飛ばしているだけだから、理解力が落ちてしまうという記事を書いていたと思います。そこで思ったのですが、テキストの読み飛ばしは、読書法としてどうなのでしょうか? 勉強の本などでおすすめされているのをよく見るのですが。
ということで、「テキストの飛ばし読み」は是か非かってことですね。
で、おっしゃるとおり、近ごろ速読法に関するエントリをいくつか書いてまして、
みたいな話をしております。どちらのエントリにおいても、「読書のスピードと理解度にはトレードオフがある」ってのが結論でして、読書スピードを上げれば理解度が下がるし、読書の理解度が上がればスピードが下がるしで、あちらを立てればこちらが立たずなんですよ。
つまり、速読がうまい人ってのはスキミング(テキストの飛ばし読み)がうまいんだってことで、その点でどうしても内容の理解度は下がってしまうんですよね。
が、ご指摘のとおり、学習法の本などでは、スキミングが推奨されているケースが多いのも事実だったりします。学習にテキストが効くって意見は昔から多いんですよね。
で、その点で参考になるのが、2009年にバース大学のチームが行った試験(R)です。これは、「テキストの飛ばし読みによって、どれぐらい文章の概略を正しくつかめるのか?」を調べたものでして、ざっくりこんな実験を行っています。
- 最初の実験では、すべての参加者に、3,000語のテキストの「前半」または「後半」のいずれかを渡して内容を理解するように指示。ただし、この時に、読書時間をだいぶ短く設定し、自然とスキミングが起きるようにした。
- 2つ目の実験では、テキストの「前半」または「後半」のいずれかだけを短時間で読むように指示。そのうえで、どちらのほうが文章の理解力に影響が出るかを調べる。
ってことで、どちらの実験でも、短いタイムリミットを設定したうえで、テキストを飛ばし読みしてもらったわけですね。その結果をざっくり申し上げますと、以下のようになります。
- 通常の速度で直線的に読み通した場合よりも、ガンガンに読み飛ばした場合の方が、より多くの重要文を正しく認識できていた。
- しかし、通常の速度の読書と比較すると、スキミングは重要でない文章の理解を向上させることはできなかった(逆に言えば、たいていの人は、スキミングをすることで、文章の重要でない部分をうまく読み飛ばせたのだと思われる)
- 文章の前半を読むか、それとも後半を読むかは、テキストの理解と記憶に差をもたらさなかった。
要するに、限られた時間でスキミングをする場合は、テキストの半分を直線的に読むよりも、スキミングをした方がより大きな理解が得られるって結論であります。まったく知らない文章をいきなり飛ばし読みしても、意外と私たちは内容のポイントを理解できるわけですね。
ちなみに、このようなプロセスは無意識的に行われているようでして、
- どの段落に必要なデータがあるのかを見極め、そこで立ち止まってちゃんと読む判断をする
- すぐには役に立たない段落を見極め、次の段落に飛んでもいいかどうかを判断する
ってあたりをかなり高速で判断できるらしい。すごいですねぇ。
ただし、もちろん飛ばし読みの精度は人によって異なりまして、スキミングを始める前に「私はこのテキストから何を探そうとしているのか?」をよく理解しておかないと意味がないのでご注意ください。ヒトの脳は、文章中の重要な用語や重要な単語を探す際に、事前に抱いた予想を使いますんで。その意味では、テキストのタイトル、小見出し、本文の1行目か最初の数行を読み、「このテキストから何を探そうとしているのか?」をいちいち考えるのが超大事っすね。
というわけで、結論としては「オーバービューをつかみたいだけならスキミングは十分ありだよ!」と言えるでしょう。かくいう私も、参考文献を決める際は、ほぼスキミングを使ってますし。
あと、言うまでもないことですが、スキミングが効くのは構造化されたテキストだけでして、小説に使うとワケがわからないことになるので、こちらも合わせてご注意くださいませー。