精神の合気道「マインドフルネス」で、しつこい不安と悩みを10秒で止める方法 | ロナルド・シーゲル「マインドフルネス・ソリューション」
ロナルド・シーゲル「マインドフルネスソリューション 」を読み終わり。ハーバードの心理学教授が書いた初心者向けのマインドフルネス本で、不安や心配性の対処に特化した内容になっております。そのうち邦訳が出るかも。
というわけで、今回は本書のポイントをいくつか。
あなたはあなたの思考ではない
そもそも「マインドフルネス」が定義が難しくて、当ブログでもいろんなパターンを紹介してますが、本書の説明では以下のような感じ。
わたしと同僚が実際に使っている、マインドフルネスの基本的な定義がある。「現在の体験を全面的に受け入れながら、注意を向けること」というものだ。
とにかく、いまの瞬間から気をそらさず、ひたすら現状を受け入れるのが重要なんだ、との主張であります。
ただし、ここで難しいのが、多くの人が「自分はできてるよ！」と思ってしまいがちなところ。そりゃあ「あなたは現在に気づいてないんです」と急に言われて納得する人のほうが少ないでしょう。
が、実際のところは、明日の企画書のことを心配し（＝現在にいない）、iPhoneでニュースをながめつつ（＝注意を向けてない）、なかなか青にならない信号にイライラしたり（＝受け入れてない）してるケースが多いのも事実。よく考えてみれば、未来への心配ばっかりしてて、1日のうちで「現在」に集中できた時間が30分もない！なんて方も多そう。
つまり、大半の人は「世界」をじかに体験してるわけじゃなく、頭のなかで作った 「世界についての物語」を聞いてるだけ。そして、「世界についての物語」を実際の「世界」だと思い込んじゃうせいで、不安や怒りや悲しみが増えてしまうんだ、と。このあたりはブッダさんの考え方とほぼ同じですね。
もちろん、「未来を悩む能力」は生存のために必要なので、決して悪者ではないわけですが、昔にくらべて現代は不安や心配の要素が多すぎるのが悩ましいところ。どうしても不安は暴走しがちな傾向があるんで、定期的にマインドフルネスでバランスを取ってやるのが大事なわけですね。
マインドフルネスのトレーニングは、私たちの精神の働きについて、さまざまな洞察をもたらしてくれる。
おそらく、もっとも実感が難しいのは、「思考は現実ではない」という考え方だろう。
わたしたちは、自分の人生を物語として語ることに慣れすぎているし、その物語を信じ込んでいる。物語を他の視点から見るのは、本当に難しい作業だ。
これは瞑想をするたびに実感することで、目を閉じた瞬間からアホな考えや嫌な記憶がギュンギュンと頭をよぎりまして、いったん思考に捕まっちゃうと一気にメンタルが沈んでいったり。頭の隅では「バカな思考だ」とはわかっていても、なかなか抵抗しがたいものがあります。
では、どうすればいいかというと…
判断するな、観察しろ！
思考や感情にとらわれたら「受け流せ！」と教えるのがマインドフルネス。著者いわく、
マインドフルネスの訓練は、すべてを受け流す能力を高め、ムダな思考の罠にハマらないようにしてくれる。
とのこと。思考は脳の大事な機能の１つなので、いくら瞑想を続けても完全にオフにするのは不可能。しかし、やっかいな思考をただ観察して受け流し、不要な感情に巻き込まれないようにするのは可能なわけですね。合気道みたいっすな。
１つ注意してほしい。マインドフルネスの訓練は、精神をからっぽにしたり、嫌な感情を捨てたり、人生のトラブルから逃げ出したり、痛みをやわらげたり、幸福感を味わったりするのが目標ではない。
この訓練は、日々の体験をそのまま受け止めるために行う。その体験は、ときに不快なものかもしれない。
多くの人は、嫌な体験を避けて良い気分になろうとする。しかし、マインドフルネスでは、その代わりに、嫌な体験に耐える能力を増やすことを目指すのだ。
どうあがいても嫌な感情や経験は避けられないので、それなら自分の耐久性をあげたほうが結果的には楽なんだ、と。このあたりは科学的にも実証データがそろいつつありまして、くわしくは「あらためて『マインドフルネス』の科学的なメリットをならべてみる」どーぞ。
もちろん、「判断を加えずに観察しろ！」と言うのは簡単ですが、悩みや心配がデカいときは至難の業であります。では、どうすればいいかというと…
注意力、注意力、注意力！
注意力の重要性は言うまでもありませんが、仕事の能率を高めるだけでなく、幸福度をあげるためにも超大事な要素であります。たとえば、ノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマンいわく、
ヒトの幸福は、注意力の割り当て方で決まる。大事なのはどの行動に注意を払うかだ。注意力は、あなたの人生をまとめる接着剤の役割を果たす。注意力のリソースが少ないと、目標を達成する方法を考えるために多くの労力を割く必要が出てくる。自分が思ったよりも幸福になれないなら、おそらく注意力の割り当てを間違っているのだ。
行動や幸福感を変えるためには、ネガティブなことから注意力をひきはがし、ポジティブな対象に向け直す作業が必要になる。
とのこと。注意力を適度に分配すれば作業は最適化され、全体の幸福度が増していくわけですね。
注意力をアップさせる方法としては、やっぱり瞑想が定番。過去の研究によれば、１回20分の瞑想を週に4回やるだけでも注意力が50％もあがったとか。
とはいえ、慣れるまでは瞑想も大変でして、なかなか習慣化しないのが実情かと思います。そこで本書が提案するのが、以下のステップです。
- 不安や悩みがわいてきたら、まずは「思考は現実ではない」ことを思い出す
- 呼吸や胸の動悸といった身体の感覚に注意を向ける
- 続いて、コーヒーの香りや雲の動きといった周囲の環境に注意を向ける
- しばらく、そのまま特定の対象に注意を向け続ける
これだけでOK。以前に紹介した「RAIN法」を、さらに簡略化したバージョンみたいな感じですね。
で、それでも思考がわいてきた場合は、さらに「ラベリング」を使います。
思考が浮かんできたら、受け流すまでに「ラベル」を貼ってみよう。あまり多くのカテゴリーわけは必要ない。「計画」「疑い」「批判」「妄想」「執着」「判断」のなかから、好きなものを選べばいいだろう。「こんなの上手くいかない」といった思考がわいてきたら、「ああ、いつもの『疑い』が脳で再生されてるね」と名前をつけてやるのだ。
重要なのは、思考に名前をつけて、頭のなかの物語にとらわれないようにすること。いったん思考にラベルを貼ったら、再び呼吸などに注意を向けていこう。
なんだかアホみたいですが、最新の心理療法でも「脱フュージョン」として普通に使われてるテクニックでして、ダマされたと思って試してみればよいかと。
まとめ
いろいろ書いてきましたが、マインドフルネスを活かす方法は瞑想のみにあらず。まずは「思考は現実ではない！」って事実を思い出し、身体の感覚に意識を向けるだけでも十分に効果はあるわけですね。
もちろん、すばやくマインドフルネスを起動させるには、普段から瞑想のトレーニングを重ねたほうがいいのは間違いありませんが、慣れるまでは身体感覚と思考のラベリングでしのいでいくのもいいんじゃないでしょうか。
