「ケトジェニックダイエット」の効果について知っておきたい6つのこと
近ごろは、「ケトジェニックダイエット」ってキーワードで当ブログを訪れる方も多いみたい。試しにグーグルで「ケトジェニックダイエット」 と検索したら、わたしのブログ以外は、どれも「ケトジェニック最高!」みたいな記事ばっかりヒットして笑ってしまいました。
ケトジェニックダイエットは、肝臓で作られる「ケトン体」をエネルギーとして使う健康法。ごはんやパンなどの主食の量をガッツリ減らし、体内のケトン体を増やしていくのが基本であります。
ケトジェニックダイエット推進派のあいだでは、「アンチエイジングに効く」「ガンガン痩せる」「頭も良くなる」などと言われてまして、まさに奇跡の健康法みたいな扱いぶり。最近は本もいろいろ出てますね。
というわけで、ここでは「正味なところ、ケトジェニックダイエットってどこまで研究データがあるの?」ってあたりをまとめておこうかと。
1.ケトジェニックダイエットで痩せることは痩せる
まずはケトジェニックダイエットのダイエット効果から。
「ケトジェニックダイエットで痩せた!」って論文はいっぱいありまして、たとえば2012年に肥満ぎみの男女19,000人を使った実験なんかだと、10日でおよそ10%も体重が減り、そのうち57%は体脂肪だったとか。
このデータをもとに、研究者は「体重の維持にいいんじゃない?」ってな結論を出してまして、その意味でケトジェニックダイエットを試したい人はやってみればいいんじゃないかと。
ただし、ケトジェニックが他のダイエット法より優れているかといえば、これはまた別の話。2014年にカナダの研究者が行ったメタ分析やスーパー糖質制限を調べた系統的レビューでも、「別にケトジェニックダイエットが他の方法より効果が高いわけでもないですよー」って結論が出てますしね。
実際、ここ数年では、ケトジェニックだろうが体脂肪は燃えやすくならないってデータも多く、「ケトジェニックこそ最強のダイエット法!」とか言われると、モニョモニョしちゃう感じ。
それもそのはずで、いくら体がケトン体に慣れたとしても、
- 食事から糖質をとれば、食事からとった糖質を先にエネルギーとして使う
- 食事から脂肪をとれば、食事からとった脂肪を先にエネルギーとして使う
という当たり前の仕組みが働きますんで、結局はカロリーをとりすぎれば太っていくわけであります。すごいシンプルな話をしてますが。
というわけで、糖質を極端に減らすのが苦じゃなければ、別にケトジェニックダイエットをしてみればいいんじゃないでしょうか。わたしはサツマイモやフルーツが大好きなので、個人的には試そうと思いませんが(というか大昔に試してみて懲りた)。
2.ケトジェニックダイエットで食欲は減る
続いて、ケトジェニックダイエットと食欲について。
こちらは2015年にナイスな論文(2)が出てまして、過去に行われたデータをまとめた系統的レビューになっております。つまり、かなり科学的な信頼性は高め。
その結果は、ズバリ「ケトジェニックダイエットは食欲を抑える効果がある!」というものでして、激しい食欲に振り回されているようであれば、選択肢のひとつになるかもしれません。
ただしこの研究には注意点もありまして、
- 実験データにバラつきが大きい(食欲が減らなかったというデータもある)
- 全体的には食欲を減らす効果は小さい
みたいな感じ。メカニズムはまだよくわかってませんけど、とりあえず少ないながらも食欲を減らす効果はあるみたいですね。
ただ、食欲のコントロールでいえば、「タンパク質を増やす」ほうが楽で効果的かなーと思ったりもします。このへんは、お好みでどうぞ。
3.ケトジェニックダイエットで頭が良くなるかは誰もわからない
ネットでは「ケトジェニックで頭がスッキリ!」みたいな体験談も多いんですが、これについては、まだ海の物とも山の物ともつかない状態かと思います。
確かに、ケトジェニックが脳の神経細胞に作用するのは間違いない話で、昔からてんかんや発作の治療に使われて大きな効果をあげております。これは2006年の系統的レビューでも確認されていて、まず確実な話(3)。
また、2016年にはケトン体で脳外傷が改善した!ってマウス実験(4)も出てたりとか。なかなかワクワクさせてくれますねぇ。
が、いまのところケトン体と脳機能については動物実験がメインで、あとは認知機能が衰えた人を対象にした実験(5)しかないのがネックかと。とりあえず、いまの時点で「ケトジェニックで頭がよくなる」とか「集中力がアップ」みたいなことを言われてもなぁ…という感じ。
4.ケトジェニックダイエットで長生きできるかも誰もわからない
おもに海外では「ケトジェニックダイエットで寿命がのびる!」みたいな主張もありますけど、これは誰にも正しいことが言えない状況であります。なにせ研究例がまったくないので。
いちおうの理屈としては、
- 動物実験ではカロリー制限で寿命が延びる効果が出ている
- ケトジェニックダイエットは、体内にカロリー制限と似た状態を作り出す
- つまり、ケトジェニックで寿命が延びる!
みたいな流れがあったりしますが、うーん、どうでしょう。なにせ、長期的なカロリー制限で人間の寿命が延びるかがまったく未知数ですからねぇ。
まぁ、沖縄の百寿者たちはみんな大量の糖質をとってるんで、わざわざケトジェニックにしなくても十分に長生きはできそうですが。
5.ケトジェニックダイエットで運動能力はあがらない
SNSなんかで「ケトジェニックダイエットでマラソンのスコアが上がった!」みたいな体験談を見かけたことがあるんですが、残念ながら、普通の運動生理学者では「スポーツには糖質が必須でしょう」がコンセンサスだと思います。
そのへんについては、「糖質制限をしたままハードな運動をするのは止めたほうがいいですよ」に書きましたんで、くわしく知りたい方はどうぞ。
ただ、個人的にちょっとおもしろかったのが、こないだ出たばっかの論文(5)。プロのサイクリストを対象に、
- 糖質だけが入ったドリンクを飲む
- 糖質とケトンサプリが入ったドリンクを飲む
の2パターンにわけてパフォーマンスの差を試したんですね。
すると糖質だけを飲んだときよりも、糖質+ケトン体を飲んだほうが、平均で30分ほどバイクをこぐ時間が増えたとか。ケトン体だけだとパフォーマンスは下がちゃっうんだけど、糖質とセットで飲めば身体能力が高くなる可能性はあるみたい。このあたり、やっぱケトン体っておもしろいですねぇ。
6.ケトジェニックダイエットがアンチエイジングに効くかは様子見
ケトン体には活性酸素に効くっていうおもしろい性質があったりします(4)。ご存じのとおり、活性酸素はカラダの老化をもたらす大きな原因のひとつなんで、ケトジェニックダイエットが若返りに効く可能性も否定はできないところ。
ただし、いっぽうでは「ケトジェニックで炎症が起きるかも!」って報告もあるのが悩ましいところ。たとえば2006年の実験(7)では、20人の男女にケトジェニックダイエットをしてもらったら、炎症リスクがあがっちゃったとか(アラキドンさんとエイコサペンタエン酸の比)。うーん、悩ましい。
また、炎症リスクってことで気になるのが、2014年のネイチャー論文(8)。10人の男女に、植物ベースの食事と、脂肪がメインのケトン食をしてもらい、腸内フローラへの影響を調べたおもしろい実験であります。
その結果は、
- ケトン食で腸内の痩せ菌が増えた(これはいいこと)
- ただし、細菌のバリエーションは減っていた(腸内細菌の多様性は超大事)
- 内毒素が増えていた(内毒素はリーキーガットの原因になる)
みたいな感じ。痩せ菌が増えたのはいいんですけど、正直リーキーガットのリスクが高まるのはイヤだなぁ…と。
もちろん、これらの研究はどれもサンプル数が少ないですし、あくまで可能性の話です。が、個人的には腸を大事にしたいので、まだまだ様子見するしかないっすね。
まとめ
そんなわけで、ざざーっとケトジェニックダイエットについて見てきましたが、いまのところは「ほとんどわからん」としか言いようがない感じ。この段階でケトジェニックを持ち上げるのは、なかなか勇気がいるなーと思います。
とにかく現時点では、
- 他のダイエット法よりも優秀なわけではない
- 食欲をおさえる効果は認められている
の2点はほぼ間違いないものの、あとは動物実験しかなかったり、まだ理論上のレベルだったり、健康な成人で効果が確認されてなかったりと、まだまだデータが少なすぎる印象であります。
もちろん、「それでも試したい!」というなら止めませんが、あくまで現時点で手を出すのはギャンブルだという点をふまえたうえで実践なさってくださいませ。「ギャンブルは嫌だ!安全第一!」という方には、「地中海式ダイエット」をオススメしておきます(笑)