ダーウィンの進化論は間違ってる!って説が爆誕してた件について
進化論に関するご質問をいただきました。
ダーウィンの進化論が間違ってたというような記事を見かけたのですが、鈴木さんはどう思われますか?
とのこと。リンク先の記事をまとめると、
- ロックフェラー大学などが、10万種の生物のDNAをチェックした
- すると、地上に存在する生命種の90%が20万年前に現れたことがわかった
- 「人類は700万年前に猿から分岐した!」っていう定説とは食い違う
- 大事件だ!
みたいな内容です。確かに「最高の体調」でも人類の進化をベースに話を進めてますんで、このニュースが事実ならどえらいことになりますわな。
で、この件について大きな結論を申し上げますと、
- ダーウィンの進化論はまったく覆ってませんのでご安心ください
となります。どういうことかと言いますと、まず前提として記事だけ読むと「10万種のDNAを調べた」みたいな印象がありますがこれは間違いで、正しくは「ミトコンドリアのゲノムを調べた」のようになります。
なんでミトコンドリアを使うのかというと、分析が簡単だからです。生物の総ゲノムはデータ量が多すぎるのに対して、ミトコンドリアならヌクレオチドの数が2万以下なんで、ハイスピードで解析が終わるんですよ。
また、ほかにもミトコンドリアDNDには「母型からしかコピーされない」みたいな性質もあって、いよいよ分析がしやすかったりします。この母型から受け継いだデータをさかのぼっていくと、やがて「パラサイトイブ」で有名なミトコンドリア・イブに行き着くわけっすね。
というわけで、ミトコンドリアのDNAは「人間はどこから来たのか?」みたいな謎を調べるには超便利なんだけど、これだと以下のような限界が出てきます。
- ひとつの種が登場したもっとも最近の時間しかわからない
つまり、ミトコンドリア・イブの存在はつきとめられたとしても、その種が「地上に生まれてから最大でどれぐらいの時間が過ぎたのか?」ってのは判断しようがないんですよ。
一例として、チーターのミトコンドリアDNAを調べた研究(R)を見てみると、
- 現存するチーターのミトコンドリアDNAが現れたのは12,000年前!
って結論になってたりします。20万年どころじゃない若さですな。
が、もちろんこれで「チーターは12,000年前に地上に現れた!」って話になるはずはなく、事実、数十万年前の地層からチーターの化石が見つかったりもします。要するに、種そのものは昔から存続してるのに、ミトコンドリアDNAはやたらと若いってケースはざらにあるわけです。
なんでこういう差が出るかは種によって違いますが、一例としては、
- 気温の変化などが理由で、動物がもといたエリアから別のエリアに移動する
- もといたエリアでは種が絶滅し、移動に成功した少数の個体に変異が起きる
- 遺伝子のバリエーションが激減する!
みたいな流れです。このような作業をくり返すうちに、実際に種が生きた時間とミトコンドリアの記録が乖離していくわけですね。
つまり、この論文が何を言ってるかと言いますと、
- 現存種におけるミトコンドリアDNAの多様性は、過去20万年の変異が積み重なったものである
ぐらいの話です。ここから「進化論が否定された!」みたいな話を引き出すのは無理筋でありましょう。
ちなみに、これはすごーく基本的な話なんで、記事のなかで研究者が「中間にあるべきはずの種がないことについては、ダーウィンも困惑しているのではないか」などと発言してる理由はわかりません。なんとなく、わかっててミスリードを狙ってる気がしますが、そこらへんは謎っすね。
まぁそもそも、この記事が事実なら常識を覆す大発見なわけですが、海外の大手メディアがまともに扱ってないところからもお察しいただければって感じです。どうぞよしなにー。