人間をポジティブにする腸内細菌が見つかったかもしれない件。
「腸内細菌で人間の性格が変わる!」って論文(R)がおもしろかったんでメモ。人間の腸は脳を支配している!みたいな話を何度か書いてますが、どうも腸内細菌ってのは私たちのパーソナリティも左右してるんじゃないの?という話です。
これはトゥルク大学の調査で、フィンランドで行われた新生児研究のデータセットを使ってます。どんな調査だったのかと言いますと、
- 生後2.5ヶ月の新生児301人から便を集める
- 便から腸内細菌を取り出してDNAを調べる
- 6ヶ月目を迎えたところで両親に質問紙をわたして、赤ちゃんたちの気質を調べる(IBQ-Rを使用)
みたいな感じです。腸内細菌の構成を調べたうえで、赤ちゃんの気質と比べたわけっすね。
そこでなにがわかったかと言いますと、
- ビフィズス菌が多い赤ちゃんは高潮性が高い!(偽発見率0.000034)
だったそうです。高潮性ってのは人間のパーソナリティ分類のひとつで、ポジティブで陽気で衝動性が高くて社交的なキャラを意味しております。ビッグファイブでいう外向性に近いっすね。
また偽発見率は、この論文で見つかった傾向が「たんなる偶然」で起きる確率を示したものです。つまり「ビフィズス菌で陽気に!」ってのはかなり有意だってことですな。
なんでも、高潮性が強い赤ちゃんは、そうでない赤ちゃんより2.3倍もビフィズス菌が多かったとのこと。なかなかの差ですな。
さらに、他にも見つかった傾向としては、
- エルウィニア属が多い赤ちゃんは制御性が高い!(偽発見率0.040)
なんてのもあります。制御性は感情のコントロール能力を示すパーソナリティ分類で、落ち着いてて喜びを激しく表現しないタイプですね。制御性が強い赤ちゃんは、そうでない赤ちゃんより2倍もエルウィニア属が多かったとのこと。
また、ネガティブなパーソナリティと腸内細菌の関連も見つかってまして、
- セラチアが多い赤ちゃんは、悲しみ、怒り、イライラなどのネガティブな感情も多い!(偽発見率0.002)
- ロチア属が多い赤ちゃんは、恐怖への反応が強い!(偽発見率0.021)
みたいになってます。ネガティブな子はセラチアが多く、怖がりな子はロチア属が多いんだ、と。
もちろん、これで「腸内細菌が性格を決める!」とは言えないし、子供の性格チェックを母親にまかせてるんでバイアスの可能性も否定できなそうではあります。そこらへんはこの研究の難点ですね。
一方で、統計的な有意性は強いしサンプルサイズも十分なのは本研究の強みでして、とりあえず「腸内細菌が人間のキャラ形成に一役買ってるのかもなー」ぐらいには思っといても良さげ。腸内細菌が新生児の神経発達に大事なのはほぼ間違いなさそうですし。
また、今回の調査はあくまで新生児が対象なので、たとえば「大人がビフィズス菌をとりまくったら陽気な性格になれるか?」と言われれば、よくわからんとしか言いようがないところです。いちおう過去のメタ分析なんかだと、すでに健康な人があとから腸内細菌を足しても健康にはなれないって結論なので、いったん成人しちゃうと大勢に影響はないのかもしれませんが……(もちろん不健康な人は飲んだ方がベター)。