「運動がメンタルに効く」はどこまで本当なの?を調べた研究の話。「運動の質」が心の健康を左右する
「運動はメンタルヘルスに良い!」って話は何度も書いてまして、私も普段から筋トレやランニングでその効果を身をもって感じております。
が、実はこの知見にはまだ議論がありまして、研究によっては「運動でメンタルが改善するかどうかは、めっちゃ個人差がある」みたいな報告も少なくないんですよ。この手の研究ではよくある現象ですが、どうも全ての人のメンタルに運動が効くかどうかってのは、まだわからないとこも多いんですよね。
ってことで、ジョージア大学の新しい研究(R)は、「メンタルヘルスに良い運動とはどのようなものか?」問題をガッツリ考えてくれております。この研究は、過去の大規模な疫学調査、ランダム化比較試験、運動のコンテクストを調査した小規模な研究の3種類のデータを分析したもので、大きく以下の点を明らかにしております。
- 余暇活動の圧倒的勝利:まず、ランニング、ヨガクラス、サイクリングなど、自発的に楽しむ余暇の身体活動は、うつ病や不安のレベルを下げることが複数の研究で示されたとのこと。これは、自分が「やりたい」と思って行い、そこに楽しさや喜びを感じる活動であるほど、精神的なメリットが大きいんだよーってことで、非常に当たり前の結論ですな。私も休日に師匠とトレイルランニングに出かけたり、一人で好きな音楽を聴きながらウォーキングしたりしますが、その後の気分はかなり改善しますからねぇ。
これに対して、家の掃除や庭の手入れ、仕事としての肉体労働といった義務的な身体活動では、メンタルヘルスへの効果は見られなかったとのこと。もちろん、これらも身体活動ではあるんだけど、それが「義務」であるかぎり、精神的な負担を伴い、ストレス要因となる可能性もあるとのこと。まあ、そりゃあ毎日会社で重い荷物を運ぶのが日課だとして、それが心の健康に直結するかといえば難しそうですもんね。
- コンテキストの決定的な重要性:「同じ運動量」であっても、その「文脈」によってメンタルヘルスへの影響は大きく変わる。研究チームが例として挙げているのは、サッカー選手が「フィールドを走り、見事に決勝ゴールを決めた場合」と、ほぼ同じぐらいの運動量で「ゴールを外し、周りから非難された場合」で、前者ではメンタルは最高潮に達するだろうが、後者ではたとえ身体は動かしていても、その後の気分は最悪になる。ということで、メンタルに本当に重要なのは「運動そのもの」よりも、「運動を取り巻く状況や感情」のほうなのだと思われる。
- 無作為化比較試験(RCT)の限界:既存の多くのRCT(最も信頼性が高いとされる研究デザイン)では、運動習慣がメンタルヘルスを改善することが示されている。特に既存の精神疾患を持つ人には効果が大きい傾向があることもわかっている。これらは確かに希望が持てる結果なんだけど、今回の研究では、これらの試験にはいくつかの限界があることも指摘されている。
具体的には、これらの研究は対象人数が少なく、期間が短く、かつ被験者の属性が均一であることも多い。たとえば、参加者が特定の年齢層や社会経済的地位に限られている場合、その結果がほかの集団にも適用できるかには疑問が残る。また、全体のデータを見ると、精神疾患がない人に対しては、運動が持つ効果は小さい傾向にあるとも考えられる。研究チームいわく、「運動が本当にメンタルヘルスに影響を与えるかどうかを強力に主張するためには、より大規模で長期的な制御された研究が必要だ」とのことで、これは運動の効果ってのはプラセボ効果である可能性も示している。
ってことで、運動がメンタルに効くってのは、かなりのところまで「文脈」が大事なんだよーって話ですな。「誰と、どこで、いつ、どのように」運動が行われたかによって、同じ身体活動でも感じ方が大きく変わっちゃうんですよね。
ここで言う文脈ってのは、単なる物理的な環境だけでなく、以下のような要素を含んでおります。
- 社会的環境:友人や家族、チームメイトと一緒に運動するのか、それとも一人で黙々と行うのか。グループで行う運動では、社会的サポートや連帯感、共感といった要素が加わり、それがメンタルヘルスにポジティブな影響を与える可能性が高い。たとえば、私も昔からテコンドーをしてますが、一人で黙々と型の練習をするよりも、仲間と一緒に稽古する方が、精神的な充実感が高いですからねぇ。
- 指導者のスタイル:グループエクササイズに参加する場合、インストラクターの指導スタイルが、その運動体験に大きく影響する。熱心でポジティブなインストラクターのもとではモチベーションが上がって運動自体が楽しく感じられるが、逆にインストラクターが威圧的だったり退屈だったりすれば、運動の効果も半減するかもしれない。
- 外部環境:天候、気温、時間帯、場所(屋内か屋外か、自然の中か都市の中か)なども重要な文脈となる。たとえば、雨の日に渋々外に出てジョギングするのと、晴れた日に最高の景色を見ながら友人とサイクリングするのとでは、運動量は同じでも、心に与える影響は全く違う。また、自然の中で行うウォーキングやハイキングは、都市部のジムで行うトレーニングとは異なる、リフレッシュ効果やストレス軽減効果が報告されている。
- 運動の目的と意味付け:その運動を「なぜ行うのか」という目的意識も、重要な文脈になる。健康のためなのか、競技での勝利のためなのか、単なる楽しみのためなのか、あるいは義務としてなのか。この意味づけによって、運動に対する心理的な捉え方が大きく変わり、それがメンタルヘルスへの影響に直結する。
運動の量や種類だけでなく、これだけの文脈がからむんだから、運動の効果に個人差が大きいのは当たり前でしょうなぁ。重要なのは、単に身体を動かすことだけじゃなくて、その活動に付随する意味、場所、そして経験を調整しないと、運動をしてもメンタルヘルスには影響しないかもよーってことですな。
ってことで、もし運動でメンタルヘルスを向上させたいなら、これからは以下の点を意識してみると良いでしょう。
- 義務感ではなく、「楽しさ」を追求できる活動を選ぶ: 「やらなきゃ」という義務感で運動を選ぶのではなく、「やってみたい!」「楽しい!」と感じられる活動を優先。
- 心地よい環境や、気の合う仲間と一緒にできる運動を探す: 運動の場所や一緒にやる人を選ぶことも、文脈を最適化する上で重要となる。自然の中でのウォーキングや、友人と参加するグループエクササイズなど、自分にとって心地よい環境と人間関係を意識してみるのがよさげ。
- 「やらされている」感がない、自発的な活動を選ぶ: 誰かに強制されたり、嫌々行ったりする運動は、かえってストレスになる可能性があるので、あくまで自分のペースで、自分の意思で選択できる活動を見つける。
ってことで、とにかく「楽しい!」って感情がないと、せっかく運動をしてもメンタルの改善にはつながらなそうなんで、お気をつけください。