バターはダメ、チーズはOK?──乳製品の脂肪に関する真面目な話
「乳製品は低脂肪を選ぶべし!」という考え方は長らくありまして、
- 「バターは悪」
- 「チーズはちょっとマシ」
- 「牛乳はなるべく低脂肪で」
といったように、乳製品の脂肪が悪玉あつかいされるケースはよく見かけるわけです。
では、その実態やいかに?ってことで、最近アムステルダムで開催された国際栄養学パネルのワークショップでは、こうした「乳製品の低脂肪は本当に良いのか?問題」について世界中から集まった専門家たちが、最新のエビデンスをもとに徹底的な議論を行ったんですね(R)。
この会議には、心血管研究の権威や食事ガイドラインの策定に関わってきた学者たちが参加していて、「観察研究(疫学)」と「介入研究(RCT)」の両面からデータを精査。発表された研究の傾向や、今後の食事指針にどう反映すべきかという議論を数日にわたって行い、その結果をレビュー論文としてまとめたんだそうな。
これがなかなか参考になる内容だったので、要点を簡単にまとめておきましょう。
要点1:「乳製品の脂肪=心臓病の元」ではない
この話題について、まず研究チームが重要なポイントとして指摘しているのが、
牛乳・ヨーグルト・チーズを食べても、心血管疾患リスクは上がらない。これは摂取した脂肪の量とは関係がない。
ってところです。これは、世界21カ国・約14万人を対象にした超巨大なコホート研究や、複数のメタ分析から得られた結論なんで、かなり信頼性がある感じっすね。しかも、
- 発酵乳(ヨーグルト、チーズ)には心疾患のリスクを下げる傾向すらある
脂肪の量によって心疾患リスクに差があるという明確な証拠はない
といった報告もされてまして、牛乳の脂肪が悪いとはとても言えない感じですね。例外的に「全脂肪乳がCAD(冠動脈疾患)と関連していた」とする研究もあるんですけど、それは1つのコホート研究に過度に影響された結果だったそうで、乳製品好きはホッと一息といったところです。
要点2:「低脂肪のほうが健康的!」はRCTでも支持されない
では、より信頼度の高いランダム化比較試験(RCT)ではどうか?というと、こちらもあんま結論は変わらなくて、
低脂肪乳製品を選ぶことが心血管の健康に良い、という証拠はない
という結論だったんだそうな。特に面白いのは、「乳脂肪の害」よりも「食品としての構造(マトリックス)」の影響が強いと指摘されてたことでして、これがどういうことかと言いますと、具体的には、
- 同じ脂肪酸構成でも、バターはLDLコレステロール(悪玉)を上げるが、チーズでは上がらない
チーズに含まれる「乳脂肪球膜」や「短鎖脂肪酸」「トランスバッセニン酸」などが、逆にLDLコレステロールを下げたり抗炎症的に働いたりする可能性がある
- ヨーグルトには、腸内環境を改善するプロバイオティクスが含まれており、乳脂肪の影響を中和・逆転するかもしれない
- 乳製品の発酵によって生まれるペプチドやミネラルのバイオアベイラビリティ(吸収効率)の変化が、心血管系にプラスに働く可能性もある
- 乳脂肪と一緒に含まれるリン脂質(例:ミルクポーラーリピッドやスフィンゴミエリン)が、炎症や脂質代謝に良い影響を与えるという研究もある
といった話が紹介されていました。つまり、バターやクリームのように、乳製品の脂肪だけを分離しちゃうと健康には良くないかもしれないんだけど、チーズみたいな発酵食であれば逆にメリットだらけになるかもしれないってことっすね。「食べ物としての形」によって作用がまるで違うんじゃないのか、と。
要点3:「脂肪の量」ではなく「食品の質」に注目すべき
今回のレビューのまとめは、以下のように要約されておりました。
- SFA(飽和脂肪酸)を減らすなら、乳製品の脂肪より「超加工食品」を減らすほうが効果的
- 健康的な食事パターン(精製度の低い植物性食品中心)を心がけていれば、結果的に自然と飽和脂肪酸の摂取量は下がる
- 乳製品の脂肪量に注目するのではなく、食品単位での評価を進めるべきである
ってことでして、「低脂肪の製品かどうかにこだわるよりも、ドーナツや菓子パンや加工肉を減らすほうが圧倒的に大事」というわけで、このブログでさんざん言ってきたことと同じような結論っすね。
そんなわけで、このテーマについては、自分も過去に「チーズとヨーグルトはOK、バターは注意かも」くらいのスタンスでブログを書いたことがあるんですが、今回のレビューであらためて確認されたのは、
乳製品の脂肪そのものが悪いわけではなく、食品全体で見るべき
ってとこでしょうね。そもそも「脂肪の量」だけを見て善悪を判断しようとしたところで、今の栄養学の流れとは逆行するだけだし、長期的な食習慣としてはあまり実用的でもないんですよね。
なので、チーズやヨーグルトを「脂肪があるからNG」と一括りにせず、「どんな形で、どんな文脈で食べているか?」まで含めて評価するクセをつけておくと、食生活の自由度も満足度も上がると思いますんで、ご参考までにどうぞー。


