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「なぜ私たちは似非カリスマにダマされてしまうのか?」—最新研究が示す“シャーラタン(似非カリスマ)”の構造と対策の本を読んだ話

 

シャーラタンズ(Charlatans)』って本を読みました。著者はワシントン・ポストのコラムニストとして25年以上活躍しているキコ・トロさんと、カーネギー財団のモイセス・ナイムさん。日本だと、ナイムさんは『権力の終焉』で有名な人ですね。両者とも情報操作や権力の動きを追い続けてきた専門家さんですね。

 

でもって、本書のテーマはひとことで言えば、「なぜ人は似非カリスマ(シャーラタン)に魅了され、人生を乗っ取られてしまうのか?」みたいになります。

 

詐欺や陰謀論は言うにおよばず、SNS、政治、スピリチュアル、健康、自己啓発、マネーなど、現代社会のあらゆる分野に「カリスマ的な誰か」が存在しており、多くの人がそれに依存しがちなんだよー、みたいな話ですね。これは現代においてめっちゃよくある現象ですな。

 

ということで本書では、そこらへんを心理学・社会学・歴史・テクノロジーの視点から立体的に掘り下げてまして、かなーり勉強になりました。そんなわけで、いつもどおり本書から学んだポイントを見てみましょうー。

 

 

  • 前提として、本書で言う「シャーラタン」は詐欺師ではない。詐欺師は、単にあなたから金をだましとって消えるだけだが、シャーラタンはあなたをだまして信念を支配し、長期的に搾取しようと試みる。つまりシャーラタンとは、“相手の信念を武器にして、関係性そのものを乗っ取る人”なのだと言える。

    ここでもっと恐ろしいのは、もっとも熱心にシャーラタンを守るのは、もっとも搾取されている人たちだという点である。この構造は現代のSNSでもよく見られるものであり、たとえば陰謀論コミュニティが“外部の批判こそ真実の証拠だ”と盛り上がり、内部結束がむしろ強まってしまう現象などが典型例であります。

 

  • 本書にはシャーラタンの事例が紹介されており、以下のような名前が挙がっている。

    メフメット・アイドゥン:デジタル農場アプリで13万人を詐欺
    ババ・ラムデフ:ナショナリズム+健康ビジネスで巨額の帝国を築く
    サム・バンクマン=フリード(FTX):善人アピールで投資家を丸め込む
    ベンティーニョ・マッサロ:スピリチュアルと“宇宙存在”で信者を囲い込み
    コルフェージ:愛国心を利用して寄付金を中抜きした

    これらの人たちの手口はいずれもよく似ており、歴史を500年さかのぼっても、手口・心理操作・構造はほぼ同じだと言える。

 

  • 本書の核になるのが「人は “自分の大事な信念” を肯定する声に弱い」という心理学的メカニズムである。たとえば、完璧な恋愛、苦労なく金持ちになりたいという願望、生命や健康への渇望、宇宙やスピリチュアルへの好奇心、自国や集団への誇りなど、こうしたテーマにはいずれも人間の理性を飛ばすような働きがあり、これを著者らは「(Dreams)」と呼んでいる。

    その点で、シャーラタンは人の心を変えようとはせず、みんながすでに持っている夢をくすぐることに徹する。自分が信じたいことを言われているからこそ、多くの人は反射的に心を許してしまい、あっけなく陥落する。

 

  • 人類は確認バイアスから逃れられない。確認バイアスは、人間は“信じたい情報”を好み、“信じたくない情報”を拒絶するバイアスのことで、本書が強調していたのは、これは「思考のミス」ではなく「脳の仕様」だという点。つまり、“信念”とは理性ではなくアイデンティティと深く結びついた感情システムであり、それゆえ一度ハマると論理では抜け出せない仕組みになっている。

    これは、シャーラタンからすれば「最高の商売道具」になりやすく、たとえば「Aと言ってほしい人にAと言う」「聞きたい話だけを返す」「不安のツボを押し続ける」といった作業を行うだけでも、信頼は勝手に積み上がっていく。そのため、シャーラタンが消えることは絶対に無い

 

  • SNSは「シャーラタン増殖装置」である。SNSの特徴は、「自己愛が強く、他人を操りがちで、嘘をつくことに抵抗がない人」が、全世界に向けて自分を売り出せることにあるからである。

    本書では、シャーラタンをダークトライアド傾向と結びつけて説明しており、これは全人口の0.2〜1%にあたるとされる。これに対して現在のSNSユーザーは世界で52億人なので、ざっと約1000万人以上の“シャーラタン適性”を持った者が存在する計算になる。つまり、現代ではシャーラタンと遭遇しない方が難しいと言える。

 

 

  • シャーラタンから身を守るのは難しいが、著者たちは「自分が“触れられたら弱い信念”を特定せよ!」と主張している。この信念は人によって大きく異なり、よくあるのは、

    健康への不安
    国への誇り
    愛されたい気持ち
    お金の不安
    スピリチュアルへの憧れ
    自分は善人でありたい願望
    子どもの安全や教育への不安 
    「特別な自分でいたい」という欲望
    自分だけは真実に目覚めているという感覚
    文化的正しさ・伝統を守りたいという義務感
    誰かにとって“不可欠な存在でありたい”という承認欲求

    などである。こうしたものごとに強い想いを持つ人は、その点をシャーラタンに搾取されやすい。そのため、もし誰かからその信念を褒められたら、そのときこそ深呼吸して一拍置くのが良い。言い換えれば、気持ちよさそのものが“罠のサイン”なのだとも言える。

 

 

ということで、いろいろ書いてきましたが、本書の結論をざっくりまとめると、こんな感じです。

 

  • とにかく自分にとって敏感な信念を特定しとくと吉。これは、健康、愛情、承認、お金、スピリチュアル、国家など、人によって全然違う。

  • 褒められた瞬間に冷静になるクセをつけて、“気持ちよさ”を最大の危険信号とし、批判を排除するカリスマには近づかない
  • SNSはシャーラタン量産装置なので、心理的な防御力がないと簡単に落ちると心がけておいたほうが良い
  • 結局、いちばんの防御はメタ認知なので、自分の欲望・信念・弱点を把握しておくこと。「自分はだまされない」と思っている人ほど危険。

 

まー、これは「愚かだから騙される」って話じゃなくて、人間の脳の仕組みがベースになってるんでどうも難しいわけですが、とりあえず“自分の信念をくすぐってくる人間”に対して一歩距離を置くって一点を守るだけでも、防御力はかなり上がりそうな気がしております。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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