「低GIさえ守れば痩せる」はどこまで本当か?をちゃんと調べた研究を見てみよう!
「GI値が高いものを食べると、インスリンがドバドバ出て、脂肪が付きやすくなる!」という有名な主張があるわけです。GI値ってのは、「食品が血糖値をどれくらい速く、どの程度上昇させるか」を示す数値で、数値が高い(GI値が高い)食品は血糖値を急激に上げやすいんですな。
で、この「GI値悪玉論」は主に糖質制限ダイエットの世界でよく語られる主張で、俗に「カーボインスリンモデル(以下CIM)」などと呼ばれてまして、「人間が太る原因は脂質ではなく糖質だ!」という文脈でしばしば登場しますな。
ざっくりまとめると、CIMが主張するメカニズムはこんな感じです。
- 糖質を摂る →
- インスリンが出る →
- 脂肪が溜まりやすくなる →
- エネルギーが使えずにさらに食べてしまう →
- 太る!
糖質によってこのような悪循環が起きるのだから、これこそが肥満の本質に違いない!という主張ですな。そのため、低GI系ダイエットの世界では、以下のような食事が推奨されるわけです。
- 主食は玄米、雑穀、全粒粉パン、オートミール、そば(十割)など低〜中GIの炭水化物が中心!白米、精白パン、うどん、コーンフレークなど高GIの炭水化物はNG!
- 野菜・果物は、葉物野菜(ほうれん草、ケール、レタス)、ブロッコリー、トマト、にんじん、ベリー類、りんご、グレープフルーツなどはOK。スイカ、パイナップル、熟したバナナなどはGIが高めのため控えめに。
- たんぱく質は、鶏むね肉、魚(特に青魚)、卵、大豆製品(納豆、豆腐)、ギリシャヨーグルトがお勧め。たんぱく質はGI値を持たず血糖上昇を抑える効果があるため、積極的に取り入れる。
- スナック・デザートは、ダークチョコレート(カカオ70%以上)、果物+ナッツ、ギリシャヨーグルト+ベリーなどで代替する。
- 食べる順番は野菜やたんぱく質を先に、炭水化物は後に食べることでGI反応を抑制
ただし、このブログをお読みの方なら、私がこの主張に懐疑的なのはご存じでしょう。いろいろ調べてみると、糖質こそが肥満の最大の原因と言っちゃうのは無理があると思われますんで。
事実、近年では、「本当にインスリンが出るだけで食欲が暴走するの?」という疑問が多くの研究者から出てたりします。近ごろ発表された最新のRCT(R)もそのひとつで、CIMの妥当性を真正面から検証してくれていて楽しいです。
これはみんな大好きCell Metabolism誌に掲載された研究で、まずは実験のデザインを見てみましょう。
- 対象者は健康な男女135名
- 朝食に「低GI」「中GI」「高GI」のいずれかの食事をランダムに摂取してもらい、その5時間後に昼食の食べ放題タイムを設ける。
- 最後に、みんなが「どれだけ食べたか(摂取カロリー)」「主観的な空腹感は変わったか」「ホルモン反応(インスリン・GLP-1・グルカゴンなど)に違いは出たか」を計測する。
こんな感じで、GI値以外のマクロ栄養素(脂質・たんぱく・糖質の割合)はすべて同じに調整し、各参加者の変化をチェックしたあたりがポイントですね。きっちりした実験で、よろしいのではないでしょうか。
では、結果を見てみましょう。GI値の高低によって、私たちの体には以下のような変化が起きるらしい。
- インスリンや血糖値の上がり方は予想通り、高GI食 > 中GI食 > 低GI食 の順で大きかった。
- しかし、GI値の高低に関わらず、空腹感や摂取カロリーには有意な差が出なかったし、高GI食を摂った後の「食欲の暴走」は観察されなかった。
- むしろ、インスリン値が高かった人ほど昼食の摂取量が少なかったという逆転現象まで見られた(相関は弱かったが、方向としてCIMの考え方とは逆の結果)。
ということで、ご覧のとおり「インスリンが食欲を暴走させる!」というCIMの仮説は支持されない結果になってますね。短期の実験なので即断はできないものの、少なくとも「血糖値スパイクがそのまま太る原因になる」とは言えない感じですね。
まあ、研究チームも指摘するとおり、摂取カロリーに影響を与える要因は、GI値以外にも山のようにありますからね。たとえば、食事の質、環境、ストレス、睡眠、咀嚼回数などの要素は、いずれも私たちの食欲を大きく左右しますんで、糖質だけを敵視してもあんま得るものがないと申しますか。
が、じゃあGIは完全に無視していいのか?というと、それもまた早計でありましょう。個人的にGI値が役立つ場面は結構あると思ってまして、たとえば、
- 糖尿病やインスリン抵抗性のある人:高GI食は血糖の乱高下を招くため、血糖管理を行う上では重要な指標になるはず。 特に食後高血糖を避けたい人にとって、低GI食品を選ぶのは理にかなっている。
- スポーツ前後の栄養戦略: 試合前に急速にエネルギー補給したいなら高GI食品のほうがよく、逆にマラソン中のような長時間持たせたい場合は低GI食品を使ってみたりと、目的別で使い分けていくのがナイス。
- 朝食での選択:朝に高GIのパンや甘いシリアルを摂ると、血糖スパイク→血糖低下→午前中のだるさにつながるケースがあるので、血糖が安定しやすい低GI食品(オートミール、ゆで卵、ナッツなど)を選ぶと快適に過ごせたりします。
加工食品の判別基準として:GIが高い食品は超加工食品であることが多く、「とりあえず避ける候補を絞り込むフィルター」として便利。加工度が高いほど、食欲を刺激しやすく、つい食べすぎてしまう傾向があるので。
ということで、今回の結果を見てみますと、とりあえず「GIが高い=インスリンが出る=太る」という単純な図式からは卒業するのがベターでしょう。「GIが高いか低いか」にこだわるよりも、
- どれだけの量を食べたか?
- どれくらい咀嚼したか?
- 加工度はどれくらいか?
- どんな環境で食べたか?
ってあたりの複雑な要因に目を向けない限り、どんなに「低GIダイエット」を実践したところで、健康やダイエットにはつながらないはずですんで。栄養の世界では、「これが最大の原因だ!」って主張が出たら、とりあえず疑ってかかるのが基本ですからねぇ。


