今週の小ネタ:感謝の心で逆に攻撃性が増す人がいる?寝すぎはどれぐらい体に悪い?脳を守る最強の食事はどれか?

ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
感謝の心で逆に攻撃性が増す人がいる?
「人生を豊かにするには感謝が大事!」とはよく言われることで、実際に心理学の世界でも「感謝の気持ちが強い人はメンタルが健やか」みたいな扱いをされることが多いんですよね。実際、「日ごろの感謝を記録するだけで幸福度がアップ!」みたいな研究も山ほどあるわけですが、そんな中、「感謝を教えたら、むしろネットいじめが増えた子たちもいる!」という研究(R)が出てて、なにごとにも副作用はあるもんだなぁ……とか思ったことでした。
研究チームはポーランドの中学生548人の生徒たちを集め、そのうち149人に「1週間の感謝介入プログラム」を実施しております。具体的にどんなことをしたのかと言いますと、
- 感謝についての動画を見て、クラスでディスカッション
- 「その日に起きた良かったことを3つ書く」感謝ジャーナル
- みんなで作る「クラス感謝ノート」
- 週末には“秘密の感謝チャレンジ”も実施
みたいになります。その上で、「サイバーアグレッション(ネット攻撃)」に変化が出るのかどうかをチェックしたんだそうな。たとえば、SNSでの悪口や中傷、メッセージでの嫌がらせ、グループからの排除(いわゆる“ネット村八分”)みたいな、オンラインでの攻撃行動に違いが出たのかを調べたわけっすね。かなりしっかりと構成された内容でして、「これは効果ありそうだな〜」とか思ったら、結果は以下のようになりました。
- トレーニングのあと、ネット攻撃は全体的には減った。
- しかし、一部の男子生徒や“そこそこ感謝できる子たち”は、逆に攻撃性が上がってしまった。
ということで、全体的にネットでの攻撃行動は減ったようで、特に「ムカついた相手に仕返ししよう!」といったモチベーションで行われる攻撃が減ったんだそうな。これは、「感謝を通してネガティブ感情を処理できるようになった」のが原因だと考えられております。
ところが、一部の男性には逆効果でして、なかでも「ネガティブな感情が爆発して起きる攻撃」と「ウケ狙いやイジり系の攻撃」という2つの行動は増える傾向があったんだそうな。ひょっとしたら、感謝の効果についてはジェンダーの違いがあるんじゃないか、と。
その原因はまだよくわかっていないんですけども、いまのところの想定としては、
- 女子は「関係性」や「共感性」を重視する傾向があるため、感謝を表現する活動が社会的なつながりを強める効果を持ちやすい……のかも。
- 一方で男子は、「自立性」や「上下関係」を重視することが多く、「誰かに感謝=自分が下に見られている」と感じるケースも多い……のかも。
みたいな感じです。要するに、「感謝とは負けを認めることだ!」みたいな感覚を持つ男子も一定数いるんじゃないかってことですね。男子のつらいとこが出てますなぁ。
というわけで、今回の研究が教えてくれるのは、感謝はメンタルを整えるための強力なツールながら、「誰に」「どんな形で」届けるかによって効果が真逆にもなるってことですね。人にとっては攻撃性のスイッチになりかねないっぽいので、注意しておきたいところです。
寝すぎはどれぐらい体に悪い?
「大人の寝すぎは体に悪い!」みたいな話を聞いたことがある人は多いでしょう。「短眠」が健康によくないのは間違いないんだけど、実は“長すぎる睡眠”もヤバいんだよー、みたいな話ですね。
新たに出たメタ分析(R)も「寝すぎ」の問題をあつかってまして、分析の対象者は210万人以上。かなり大規模なスケールで、睡眠時間と死亡リスクの関係を徹底的に検証していて、かなり信頼性が高い内容になっております。
まず、全体の結論をざっくりまとめると以下のようになります。
- 睡眠が1日7〜8時間の人:もっとも死亡リスクが低い(基準値)
- 睡眠が1日7時間未満の人:死亡リスクが+14%
- 睡眠が1日9時間以上の人:死亡リスクが+34%
ご覧の通り、寝すぎの方が死亡リスクがデカいって結論でして、なかなか興味深いわけです。
さらにこの研究では、性別によるリスクの違いにも注目していまして、こんな結果も出てました。
- 男性:
- 7時間未満 → +16%
- 8時間以上 → +36%
- 女性:
- 7時間未満 → +14%
- 8時間以上 → +44%
これを見ると、どうやら女性の方が寝すぎによる悪影響を受けやすいようでして、これはホルモンや心血管系の違いが関係しているのかもですなぁ。
ちなみに、もう1本、同じ研究チームが行った別の調査(R)では、「睡眠時間と脳卒中のリスク」にも注目してまして、こんな結論を出しております。
- 5〜6時間睡眠:脳卒中リスク+29%、死亡リスク+12%
- 8時間超の睡眠:脳卒中リスク+46%、死亡リスク+45%
いやー、睡眠がちょっと長くなるだけで脳卒中リスクがここまで跳ね上がるとは…って感じですねぇ。もちろん、因果関係は不明(「寝すぎ=体が悪い」のか、「体が悪い=寝すぎる」のかはわからない)んだけど、それでもこの傾向は見逃せないところっすね。
まぁベストな睡眠時間には割と個人差があるので、「この時間だけ眠ろう!」って基準は示しづらいんですけども、「最近寝すぎてるかも……」と思った方は、ちょっと生活スタイルを見直してみるといいかもしれませんなぁ。
脳を守る最強の食事はどれか?
みなさんも「地中海式ダイエットが体にいい」って話を、一度は聞いたことあるんじゃないでしょうか? オリーブオイルに魚、野菜、ナッツみたいな食事スタイルが心臓や脳に良いというのは、もはや栄養学界の常識になっております。
で、ここ最近また注目が集まっているのが、地中海式ダイエットの進化版ともいえる「MINDダイエット」であります。これは地中海式ダイエットと高血圧予防に効く食事(DASH)をミックスしたもので、地中海式ダイエットよりも「脳の健康」を維持するのに役立つんじゃないかと考えられているんですな。
でもって、このたび中国の研究チームが発表した最新の調査(R)が、地中海式ダイエットとMINDダイエットの違いを比べてくれていて勉強になりました。今回の研究は、50〜75歳の男女1,500人(健康な人750名+アルツハイマー患者750名)を5年間追跡したもので、
- 毎日の食事内容をスマホアプリと質問票でチェック
- 記憶力や思考力のテストを定期的に実施
- 脳の老化に関係するアミロイドβとタウたんぱく質の量も測定
- MRIで脳の萎縮具合(海馬の体積、皮質の厚み)も観察する
という、けっこう本格的なプロトコルになってます。ここでチェックした2つの食事法の中身をおさらいしておくと、
地中海式ダイエット(Mediterranean Diet)
- 主な食材は、魚、野菜、果物、豆類、オリーブオイル、ナッツ
- 赤身肉、加工食品、砂糖は食べすぎNG
- ちょっとならワインもOK
- 心臓と脳の健康を守る効果が大きい
MINDダイエット(Mediterranean-DASH Intervention for Neurodegenerative Delay)
- 地中海式+DASH(高血圧予防食)をミックス
- ベリー類、葉物野菜、ナッツ、全粒穀物を特に重視
- 認知症の予防に特化している
という感じになってます。つまり、MINDダイエットってのは「脳の健康」にピンポイントで照準を合わせてまして、すごーく雑にまとめると、
- 地中海式=健康全体の維持に役立つ
- MIND=脳機能の健康に特化
みたいに覚えておくとわかりやすいかもしれません。
で、研究ではこんな結果が出ました。
- 地中海式もMINDも、記憶力の低下を防いだ
- 両方とも、アミロイドβとタウの蓄積を減少
- 脳の萎縮(海馬の縮小、皮質の薄化)も抑えられた
- 炎症マーカーの値も下がった
- ただし、MINDダイエットのほうがわずかに脳機能改善の効果が高かった
もちろん、どちらの食事法も良い傾向は見られたものの、こと脳の働きについてはMINDダイエットのほうが優秀だったわけっすね。細かいデータを見てみると、おそらく「葉物野菜・ベリー・ナッツ・全粒穀物」といった食材が効いているようで、
- ポリフェノール(抗酸化物質)
- オメガ3脂肪酸
- ビタミンB群(特に葉酸)
といった栄養素が、記憶や思考のパフォーマンスに直結していたっぽいですね。
もちろんこの研究は、食事内容が自己申告制だし、文化の違いもあると思うんで「これが決定版!」というわけではないんですが、それでも脳を守るためのヒントとしては信頼できるデータじゃないでしょうか。
ってことで、MINDダイエットが気になった方のために、簡単なガイドラインを紹介しときます。
MINDダイエットで積極的に食べたいもの
葉物野菜(ホウレンソウ、ケール、ルッコラなど)…週6回以上
ベリー類(ブルーベリー、イチゴなど)…週2回以上
ナッツ(無塩アーモンドやクルミ)…毎日ひと握り
全粒穀物(玄米、全粒パン、オートミール)…毎日
魚(特に青魚)…週1回以上
豆類(レンズ豆、大豆、ひよこ豆など)…週3回以上
オリーブオイル…主な油として使用
MINDダイエットで控えたいもの
赤身肉:週4回以下
バターやマーガリン:大さじ1以下/日
チーズ:週1回以下
お菓子・砂糖:週5回以下
揚げ物・ファストフード:週1回以下

