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年を取るほど幸福度が上がる理由とは?心理学が示す意外な真実

   

 

年を取るのはつらい!」なんてイメージがあるわけです。たしかに、加齢にともなって失われるものは多くて、

 

  • 体力が落ちる
  • 収入が減る
  • 人間関係が変わる(ときには喪失もある)

 

といった変化が起きるのは間違いないわけです。とくに退職や健康問題が重なる60代以降は、「もう昔みたいには戻れないんだな……」と感じやすい時期だったりするんですよね。

 

が、近ごろ心理学の世界でよく報告されているのが、

 

  • 人は年を取るほど「人生に満足している」

 

という事実であります。新しい研究(R)も、そんな「加齢と幸福」の関係について調べたもので、「なぜ年を取るほど人生が楽しくなるのか?」ってところを掘り下げてくれてて良い感じでした。

 

 

 

年を取るほど、人生への満足度が上がるという謎

まず前提から申し上げますと、過去20年ほど、心理学の研究では「加齢と幸福」の関係をくり返し確認しております。たとえば、国際的な幸福度調査を見ても、50代以降の幸福度や自己評価は意外と高かったりするんですよね。

 

ただしここには疑問もありまして、

 

  • 「単に“幸せな人”が長生きしてるだけでは?」
  • 「体調や経済状態がいい人に限った話では?」

 

という声も少なくなかったりするんですよ。この点について、今回の研究はより精密な検証をしてまして、研究チームは「相対的剥奪感」って心理メカニズムに注目しながら、人生全体を通じた幸福度の変化を追ってくれたんですな。

 

この研究で注目された「相対的剥奪感」ってのは、「他人や他集団と比べて、自分(または自分の属する集団)が損している」と感じることです。たとえば、

 

「あの人のほうが給料が高い」

「自分の民族グループは社会的に不利だ」

「隣の家族は海外旅行してるのに、うちは……」

 

みたいな感じで、周囲との比較によって不満を募らせることを言ってるわけっすね。さらに、今回の研究では、この「相対的剥奪感」を2種類にわけて分析してまして、

 

  1. 個人ベースの相対的剥奪感(IRD):自分の収入や地位が、他人よりも低いと感じる
  2. 集団ベースの相対的剥奪感(GRD):自分の属するグループ(民族など)が、他の集団より不利だと感じる

 

みたいに設定したうえで、この2つを、21歳〜80歳の約6万9千人を対象に、最大12回の追跡調査で分析したんですな。対象はニュージーランドの大規模パネルデータで、民族的にも多様性のある構成になっております。

 

 

年を取るほど「比較しなくなる」傾向がある

さて、分析の結果がどうだったのかというと、

 

  • IRD(個人の相対的剥奪感)は、年齢とともに着実に減少する

 

って傾向が見られたそうです。つまり、年を取るにつれて、「あの人のほうが得してる」といった比較をあまり気にしなくなるわけっすね。

 

この理由を、研究チームは「社会的比較の必要性が減り、過去の自分との“時間的比較”にシフトしていく」と表現しておられます。たとえば、

 

  • 昔の自分より健康
  • 去年よりも穏やかに過ごせている
  • 若いころに比べて感情のコントロールが上手くなった

 

といった「他人じゃなく、自分の軸で生きる」感覚が強くなるため、それによって幸福感が上がるのではないか、と。

 

さらに、GRD(集団的剥奪感)についても同じような傾向が見られまして、中年以降は“経済的地位の固定”を受け入れやすくなるという結論も出てたりします。要するに、人はある程度の年齢になると、

 

  • 比較でイライラすることが減る
  • 社会的なポジションに対して納得がいく
  • 自分の人生を“ありのまま”に受け入れやすくなる

 

といった心理的な変化を自然に経ていき、それによって幸福度が高まるってことなんですね。

 

 

 

「あの人と比べない」が幸福のカギ

ここまでの話からわかるのは、やっぱり他者との比較は毒だってことでしょう。とくに現代のSNS社会では、24時間365日、他人の成功や豪華なライフスタイルが視界に入ってきますんで、それを見て「自分はダメだ」と感じてしまう人が多いのも無理はないですからね。

 

が、実際には、年齢とともに“外”への関心が減り、“内”への関心が高まるものなんで、これが幸福感の上昇につながっているわけっすな。簡単に言えば、

 

「人と比べなくなる」

「過去の自分との比較が中心になる」

「結果よりもプロセスに意味を見出すようになる」

 

といった思考の変化が、人生の後半における「心の自由」へとつながっていくわけです。

 

まあ、「比較しないようにしよう」と思っても、そう簡単には止められないもんですが、それでもこの問題で困っている人には、以下のような介入が役に立つでしょう。

 

  •  1日1回、「過去の自分」と比べる時間を作る:「1年前の自分よりできるようになったこと」を1つ書き出す

 

  • SNSを見る前に、「自分の満足度」を点数化してみる:10点満点で「今の気分は何点?」と自問するだけで、外からの影響を中和しやすくなる

 

  • 日記に「今日うれしかったこと」を記録する:小さな出来事でも“満ち足りた実感”は人生満足度の基盤になる

 

ってことで、人生の後半に向かうほど、体力や収入は落ちていくかもしれないんだけど、この時期ってのは、同時に「他人と比べる必要なんてない」と思える自由さも、ゆっくりと育っていくものだったりします。人間の幸福度は、条件じゃなく視点で決まることのほうが多いので、そこらへんさえ意識しておけば、年を取っても楽しく過ごせるはずであります。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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