なぜお腹を壊すと頭まで悪くなってしまうのか?
ちょっと前に「腸内細菌がヒトの食欲をコントロールしている!」ってのを書きましたんで、今回は、その続編として「お腹をこわすと頭まで悪くなる!」って話でも。
というのも、ヒトの脳は腸とつながってまして、脳の調子はお腹の具合と密接に関係してるんですな。具体的には、
の3つの経路を使って、いろんな物質を脳に送り込んでおります。とくに神経系なんかは情報のスピードが速いんで、ここに不調が出ると急に食欲が増えちゃうことも。 怖いもんです。
では、いかに腸が脳の働きをあやつるのかといいますと、おもに以下の2つであります。
1.脳のダメージをやわらげる
実は腸内細菌は、脳のダメージをやわらげる働きをしております。
その手段のひとつが、短鎖脂肪酸って物質。おもに食物繊維が腸内で分解されたあとにできる脂肪酸でして、なにせサイズが小さいおかげで、脳を守るバリアもつきぬけてしまうんですな。
当ブログで過去に紹介した話だと、プロピオン酸や酪酸が短鎖脂肪酸の一種。どっちも腸内を守るバリアになったり、脳に作用してダイエットに役立ったりと、かなり大事な働きをしております。わたしがレジスタントスターチを愛用してるのも、腸内の短鎖脂肪酸を増やすのがおもな目的のひとつだったり。
とくに研究例が多いのは酪酸で、なんといっても脳の炎症をおさえる作用がすごい。具体的には、脳の免疫をつかさどるグリア細胞で起きた火事を消してくれることがわかってるんですね(3)。
当然、脳に炎症がおきれば頭は働かなくなるし、メンタルのバランスが悪化していくのも当然の話。腸は脳のダメージをコントロールをしてくれてるわけですね。ありがたいことです。
2.頭を良くする物質を増やす
脳のダメージを減らすだけでなく、さらに腸は頭の機能を高める働きも持っております。
そもそもヒトの腸は神経伝達物質を作る働きをしてまして、有名なところでは、
みたいな感じ。ご存じのとおり、ドーパミンは集中力やモチベーションのアップに欠かせず、セロトニンはメンタルの安定に必須のホルモンであります。どっちも脳にダイレクトに作用する物質ですね。
で、もうひとつさらに大事なのがBDNFって物質。当ブログでは、過去に「頭を良くする物質」として取り上げてますけども、もうちょいくわしく言うと、脳が新しい神経回路を作るために必要なタンパク質であります。
ヒトの脳は、外からの刺激でわりと自由にシナプスが変化していくんですが、そのためにはBDNFが必須。これがうまく働かないと記憶が作れないんで、勉強の効率は一気に下がっちゃうことに。これまた恐ろしい話ですな。
といってもBDNFは新しい分野なんで、どこまで腸内細菌と連動しているのかはまだ不確定。いちおうおもしろいデータとしては、
- 腸内を消毒してほぼ無菌状態にしたマウスは、脳の記憶と学習エリア(海馬)のBDNFが激減した(2011年,6)
- 同じように、抗生物質で腸内を荒らしたマウスも、やはり海馬のBDNFが激減した
- プレバイオティクス(腸内細菌のエサ)を使ったマウスはBDNFが激増した(2013年,7)
みたいな感じ。いずれも動物実験でもうしわけないんですが、腸と脳の関係についてはヒトとマウスは似たような反応をしやすいんで、おそらくはBDNFに関しても同じなのではないか、と。
腸をいたわって頭を良くするには?
そんなわけで、脳のダメージを防ぐためにも、もともとの機能をアップさせるためにも、腸内細菌の整備は欠かせないという話でした。
ここ数年ほどいろんな腸内細菌に関するデータを見てきて思うのは、「我々には腸の活動を支配する方法はない!」ってことですね。ヒトの脳は完全に腸内細菌に操られてるのに、こっちから腸をコントロールするのはほぼムリ。
かろうじて人間ができるのは、腸内細菌にちゃんとした食事をさせて機嫌をとってあげるだけ。あとは、彼らの仕事ぶりをなすすべなく見守るしかない感じでしょう。その意味では、放置系のゲームアプリみたいなもんです。
腸内細菌にあげる食事としては、食物繊維ならなんでもOKではあります。ただし、おもに酪酸を増やしたいときは、
- フラクトオリゴ糖
- レジスタントスターチ
の2つをオススメしておきます。手っ取り早く改善したければ、オリゴ糖が入手しやすくていいかもですね。