年収が1,000万円を超えると幸福度は上がらないは嘘!はどこまで正しいのか問題
年収が1,000万円を超えると幸福度は上がらなくなる!って話は昔からあって、私も「科学的な適職」で参照したりしました。が、近ごろ「年収が上がるほど幸福度も上がるのでは?」ってデータ(R)が出てきて、何人かの方から「あれはどうなんですか?」みたいなご質問をいただいております。
この研究はペンシルバニア大学ウォートン校のキリングワース先生が発表したもので、概要はフォーブスが「収入と幸福度の比例関係、富裕層でも変わらず 新研究結果」として説明してくれております。ちなみに、キリングワースさんは、「マインドワンダリングが多い人ほど不幸だ!」っていう有名な研究をした先生です。
で、これがざっくりどんな研究だったかと言いますと、
- アメリカの労働者33,391人に「幸福度の評価アプリ」をわたして、ランダムなタイミングで「いま幸福感を感じてますか?」みたいな質問を行う
- 最終的に1,725,994のデータを集めて、これをみんなの年収と比べる
みたいになってます。シンプルな研究ですが、ここでは年収がかなり多めな人も参加してて、旧来よりもかなり優秀なデータになってるんじゃないかと。
でもって、そこでどんな結果が出たかと言いますと、まずはグラフをご覧ください。タテ軸が幸福度の変化で、ヨコ軸が年収の変化を、青のラインが人生の満足度で、赤のラインが瞬間的な幸福感を表しております(その場その場で感じる幸福感っすね)。
というわけで、このグラフを見れば一目瞭然。年収が上がるほど満足度も幸福感も右肩上がりになっていて、「年収75000ドルで幸福度は頭打ちになる!」って考え方とは真逆!やはり金はあればあるほど幸福なのだ!って気になるわけです。
事実、このデータは海外でも話題になりまして、VICE(R)などでも「7万5,000ドルという数字はでたらめ(bullshit)であり、その閾値を超えても幸福度は上がり続ける」という、わりと強めの言葉が使われておりました。確かに、年収と幸福度の話は定説になりつつあったので、これが覆されたら大ニュースですもんね。
……が、ここで注意して欲しいのはグラフの横軸のとこでして、
- 収入の増え方が対数スケールになってるぞ!
ってとこがポイントになります。対数スケールってのは「1+2+3+4……」って感じで一定の間隔で数を増やすんじなくて、「2×2×2×2×2……」とか「10×10×10×10×10……」って感じで倍々に数を表記していくタイプのやり方です。
つまり、上のグラフの例で言えば、最初が「15000→30000」のように変化してるんで、対数スケールじゃない場合は「15000→30000→45000→60000……」みたいに増やしてくわけですね。が、これは対数スケールなので、「15000→15000×2=30000→15000×4=60000……」といった感じで倍々に増えてってるんですよ。
なんでわざわざ対数スケールを使うかといえば、「普通の表記だとグラフが異常に長くなる!とか「普通の表記だと変化がわかりにくい!」って問題を解決するためです。あんま数値が変化しづらいものは、対数スケールで縮尺を変えてわかりやすくするんですよね
ということで、対数スケールでないグラフに変えてみると、以下のようになります。って、本来はエクセルで数値を打ち直したグラフを作るべきなんでしょうが、めんどいので画像をぐにょーっと伸ばしてみました。
雑な感じですみませんが、年収が75000万ドルまでは幸福度が右肩上がりになっていくものの、そこからはほぼ横ばいになってるんだよーってのはおわかりいただけるのではないかと。要するに、最終的な結果としては、従来から言われてたこととあんま変わらないってことです。
ちなみに、このデータは幸福度の変化もポイントで、数字を見ると「年収がおよそ8000万円になっても標準偏差が0.4しか変わらない」って結果が出てるあたりもご注意ください。要するに、年収1000万の人と年収8000万の人の幸福度には大した差がないってことで、これもまた従来から言われてたこととあんま変わらないです。
というと、「なんだよ!じゃあ対数を使うのって詐欺じゃないか!」みたいな印象を抱く方もいるかもしれませんが、これはあくまで「年収1000万で幸福が完全に横ばいになってビタ一文上がらない」って考え方に異議を唱えたものなので、研究としてはちゃんと意味はあったりします。そもそも、最初に「年収が1,000万円を超えると幸福度は上がらなくなる」説を広めたカーネマン先生の論文も対数スケールでしたし。
つまり話をまとめると、今回の研究でわかるのは、
- 年収1000万を超えても人間の幸福度は上がり続ける
- ただし、その上がり幅はめちゃくちゃ少なくなる(幸福感を右肩上がりにするためには、年収が倍々ゲームで増えていく必要がある)
といったことです。細かいとこではカーネマン先生の結論と違いはあるものの、結局のところ私たちの実生活にあたえる影響は変わらないよなーってところです。
さらに余談ですが、上記のVICEのインタビューでは、キリングワース先生も以下のようにおっしゃっておられます。
裕福さではわずかな差の幸福しか説明できない。人々に「お金がどれくらい重要だと思うか?」を尋ねてみると、「お金があまり重要ではない」と答えた人については、その人の幸福度をほとんど予測できないのだ。収入がそれほど多くなくても、高い幸せを達成することは可能だ。
そんなわけで、キリングワース先生も、「お金は幸福をそこまで左右しないから、あんま囚われないでね〜」っていう従来の結論と意見はさほど変わらない感じっすね。どうぞよしなにー。