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今週半ばの小ネタ:最新版「低脂肪食 VS. 低糖質食」、「やり抜く力」で人間は幸せになれる? 非モテが行き過ぎた男性はどんな場所に多い?


ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。

      

 

 

低脂肪食 VS. 低脂肪食、ダイエットに使えるのはどっちだ?リターンズ

ダイエットには低脂肪食がいいのか?それとも低糖質か?」みたいな話は死ぬほど書いてまして、私としては「まぁ好きな方を選べばよし!」みたいな感想しかないんですけど、新しい系統的レビュー(R)もそのへんを調べてくれてて有用でした。

 

 

これは、信頼のブランドであるコクラン共同計画が行った調査で、研究チームは、低糖質ダイエットと低脂肪ダイエットに関する昔の研究データを集めて、太りすぎまたは肥満に悩む男女約7,000人をふくむ61の試験をまとめたんだそうな。全試験のうち37件は6ヶ月間またはそれ未満の期間でしたが、2年間追跡した試験も6件ほどあったとのこと。過去にも似たようなメタ分析はありましたけど、その最新版としてチェックしておきたい内容になってますね。

 

 

で、皆さまそれぞれの食事法についてはご存じでしょうから、細かいところは置いといて、いきなり結論から申し上げますと、

 

  • 2種類のダイエット法はほぼ同じ効果だったが、短期間の研究では低糖質ダイエットのほうが低脂肪ダイエットによりも平均で約1kg多く体重を落とした(ただし統計的に有意ではない)。長期的にはさらに違いが少なくなった。
  • 血圧、コレステロール値、血糖値などの健康指標についても、2つの食事療法はほとんど差がなかった。

 

みたいになります。このあたりの結論は「パレオダイエットの教科書」でも書いたことでして、そこまで新味なないっすね。

 

 

ただし、今回の研究には、ちょっと目新しいポイントも出てまして、

 

  • 両グループとも体重の減り方には個人差がめちゃくちゃ大きく、低糖質ダイエットはある人には非常に効果的だったが、ある人には全く効果がなかった。これは、低脂肪ダイエットでも同じだった

 

ということで、ダイエット法の効果の個人差が強調されておりました。そう考えると、低糖質ダイエットの効果を声高に主張する人たちは、たまたま自分のライフスタイルや体質に合ってたってことなのかもですね。

 

 

研究チームいわく、

 

ダイエットは万能ではない。栄養学の研究者は、遺伝、腸内細菌、薬、ライフスタイルなど、多くの要因が、各個人が特定の食事にどのように反応するかを左右することを発見しているのです。

 

栄養学が進化するにつれ、より個人に合ったアプローチに移行することは、重要な目標のひとつだ。

 

とのこと。ちなみに、どの食事が自分にとって効果的なのかを特定する方法は見つかっておらず、これは今後の研究次第って感じ。現時点ではいろいろ試して、自分の体がどう反応するかを確かめるしかなさそうですねー。

 

 

 

「やり抜く力」で人間は幸せになれるのか?

ちょっと前に、「やり抜く力 GRIT(グリット)」なんて本が流行りまして、逆境に強い忍耐力こそが人生の成功を決める!などと言われたものでした。が、そのあとでグリットについてはいろいろと物言いが出まして、いまでは「思ったよりも意味がないのかも?」ぐらいの地位に落ち着いてたりします。切ないですねぇ。

 

 

が、そうは言っても、長期の目標に向かってコツコツとやる能力の重要性が失われたわけではなく、個人の成長を予測する指標としてはそれなりに使えそうなのも確かではあります。そもそもグリットってのが誠実性にかなり近い概念ですしね。

 

 

でもって、新しく出たメタ分析(R)では、「グリットって主観的な幸福感と関係があるの?」ってところを調べてくれていて、ちょっとおもしろかったです。グリットで人間の幸福は予想できるのか?みたいな話ですね。

 

 

これは過去に出た83の研究から合計6万6,000人以上のデータをまとめたもので、研究チームは、私たちが抱く主観的な幸福を「感情的な幸福」と「認知的な幸福」という2つのサブ要素で定義してます。ざっくり説明すると、

 

  • 感情的な幸福=自分にとって快い感情(幸福感とか)を感じられ、不快な感情(抑うつ感とか)がないことを意味する。

  • 認知的な幸福=人生全体および人生の特定領域(仕事や学校など)に対して満足感があるかどうかを意味する。

 

みたいになります。でもって、大量のデータをまとめてみたところ、結論は以下のようになりました。

 

  • ひとつの目標に向かって辛いことに耐えられる力が大きい人は、主観的な幸福感も強く高まる傾向があった
  • 一方で、興味の一貫性(長期的な目標に対する情熱)の大きさは、主観的ま幸福と弱い関係しかなかった。この傾向は、年齢が高い参加者ではさらに弱くなった

 

ということで、グリットを構成する要素のひとつである「不快さに耐えられる能力」こそが、主観的な幸福感をもたらすのではないか?って結論になってました。世の中では、どっちかというと「ゴールに向かう情熱の高さ」を持つ人がほめられやすいので、今回の結果はちょっとおもしろいですね。

 

まー、この研究にはふくまれていない他の変数もいろいろ存在しそうなんで、これだけで判断するのは危険ではありますが、「不快さに耐えられる能力」の重要性は他にも何度か報告されてますんで、やはり鍛えておきたい能力のひとつですね。

 

 

 

非モテが行き過ぎた男性はどんな場所に多いのか?

インセルはどんな場所に多いのか?ってのを調べた研究(R)が興味深かかったのでメモ。

 

 

インセルってのは「インボランタリー・セリベイト」の略語で、「不本意な禁欲主義者」ぐらいの意味。すごーくざっくり言いますと「非モテが行き過ぎたあまり女性蔑視にまで行ってしまった男性」のことです。「どうせ誰からもモテないのだ……」って思いの強さが攻撃性に変わり、ときにネットでの誹謗中傷やリアルの暴力まで進んじゃうパターンですね。日本語でばっちり当てはまる訳語がないんですけど、わりと世界中で似たような男性がいると考えられております。

 

 

そこで、この研究チームは、アメリカ国内の582の通勤エリアからTwitterのデータを収集。3億2100万件のツイートを調べたうえで、インセルがよく使用する用語を含む3649件のツイートと、インセルについて語ったツイート3745件を抽出し、インセルの活動にどのような特徴があるのかを調べたらしい。

 

 

その結果、インセルが多い地域にははっきりとした特徴が見られたそうで、

 

  • 男女比が高い地域と所得格差が大きい地域では、インセルがよく使う言葉をふくむツイートが多かった
  • 男女比が高く地域、所得格差が大きく、独身女性が少ない地域、男女の所得格差が小さい地域ほど、インセルを論じる言葉を含むツイートが多かった

 

って感じだったんですよ。こうしてみると、やっぱり恋愛市場の争いが多いそうなエリアほど、ソーシャルメディア上でのインセルの活動が活発な傾向がありそうっすね。独身の女性が少ない地域や所得格差が激しい地域だと、恋愛市場の競争は激しくなるでしょうからねぇ。

 

 

もちろんこの研究はあくまで予備的なものだし、ツイートの分析がどこまでインセルの実態を把握してるのかもわからんのですが、わりと納得しやすい結果ではないでしょうか。日本でも同じような調査をしてほしいなぁ。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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