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デンマークの心理学者「人生の最適化とか言ってると逆に人生を詰むぞ」


 

地に足をつけて生きろ!」って本を読みました。デンマークの心理学者さんが、自己啓発や幸福追求の問題点をディスる本で、バーバラ・エーレンライクさんの「ポジティブ病の国、アメリカ」なんかにもつながる一冊ですね。

 

 

本書であつかわれるポイントは幅広いものの、「人生のネガティブに集中せよ!」とか「己の内面を見つめるな!」とか、いずれも自己啓発の逆を行く内容があつかわれてまして、「テンションが高いビジネス書の言ってることはなんかわかるけど、どうも乗り切れないなぁ……」みたいな方には良いのではないでしょうか。

 

 

で、本書で勉強になったポイントをざっくりまとめておくと、こんな感じです(ちなみに、以下のまとめはだいぶ私の言葉に置き換えているので、著者の正確な表現を知りたい方は本を当たってください)。

 

 

  • 現代では、西洋世界の自己啓発、すなわち常にパフォーマンスを発揮し、自分を最適化しなければならないという考え方が病的になっている。

 

 

  • 私たちは、自分の内面に目を向けて理想を実現することに夢中になりすぎて、実は外側の世界とうまくやっていく能力が低下している。いつも幸せであろうとするあまり、「もっとうまくやれる」「もっとポジティブになれる」「もっと生産的になれる」という気持ちが強くなりすぎ、それがプレッシャーになるからである。

 

 

  • 常に自己の最適化に集中することの何が問題かといえば、それが終わりのないプロセスだから。「いま私は自分の可能性を完全に実現した」と言いきるのは根本的に不可能であり、「いま私は最適な状態だ」と判断することは誰にもできない。

    もちろん、人間が何かを求めるのは自然なことだが、努力と成長ばかりにこだわると、「私は価値あることをしている。私は有意義な人生を送っている」と思うためだけに人生が消費されていく。

 

 

  • 事実、抑うつ状態に苦しむ人ほど、「自分は十分ではない。十分であるはずがない。自分が十分でないのは自分のせいだ」という思考にとらわれがちである。これは、社会が発するメッセージを個人が内面化したものと考えられる。現代人は、自分が何をするにしても、決して幸せで満足することは許されない社会で生きている。

 

 

  • というのも、現代社会では「業績を上げなければならない!」「生産的でなければならない!」というプレッシャーが強く、私たちにはエネルギー充電する時間が与えられない事が多い。そのため、私たちは、抑うつによる悲しみやエネルギーの喪失を病的なものとらえる傾向がある。

 

 

  • もちろん、抑うつ状態にも有益な点はあり、恐れるべきものがあるときに不安を感じるのは合理的な反応と言える。何かひどいことがあったときや、長い間大きなプレッシャーにさらされているときに落ち込むのにも、体を休めるメリットがある。うつ病は、生体を強引に引きこもらせ、バッテリーを充電する方法のひとつと言える。

 

 

  • そのため現代人は、社会問題を個人化するのをやめねばならない。私たちは、無理ゲーに自分を適応させようとしており、ライフコーチングや心理療法、マインドフルネスなども、そのために使おうとするきらいがある。

    しかし、実際にはもっと構造的なレベルで問題に取り組まねばならず、組織でストレスに苦しんでいる人がいたら、単にストレスコーチングやマインドフルネスのエクササイズを紹介するのではなく、仕事の組織のあり方を見直し、変えていくことが必要となる。

    無論マインドフルネスは重要なツールとして持っておくべきだが、「今この瞬間に存在すること」を教えることが、人生の根本的な問題をやりすごす道具になってはいけない。

 

 

  • 自分を磨いたり、自分を知ることが必要な人は確実にいる。それは否定できないが、現代の自己啓発は、バランスが崩れた飛行機の中で、必死に酸素マスクをつけているような状態に近い。本当に重要なのは、椅子から立ち上がって飛行機で何が起こっているのかを確認することだが、それをやろうとせずに酸素マスクにすがりついている。

 

 

  • 西洋の世界では、「自分自身である」や「本物である」や「ユニークである」ことに執着しているが、ようやく見つけた「本当の自分」の正体が、もし退屈で平凡で、かなり意地悪な人間だとわかったらどうするのか? それなら、自分から目をそらして暮らすほうがよい。

 

 

  • 以上の問題を乗り越えるには、利他的な人間の真似をしてみたほうがずっとよい。たとえば、迷ったときに「ネルソン・マンデラならどうするか?」と自分に問いかけてみる。これは「本当の自分ならどうするか?」と自問するよりもずっと重要な問いかけだと思われる。本当の自分がどうするかなど、どうでもよい。

 

 

  • また、「自分を超えたもの」に興味を持つことも非常に重要となる。これは、哲学や科学、芸術、文学などに限らず、車でもサッカーでも何でもいい。とにかく、自分よりも外側の世界を見つめさせてくれて、あなたを幸福にこだわらない状態にしてくれるのが大事。

 

 

  • 基本的に、幸福感は「意味のあること」を追求した際の副次的な効果として現れることが多いく、直接に追求しても意味がない。また、「意味を与えてくれるもの」は、自分で選んだものよりも「自分で発見したもの」であることが非常に多いため、発見の作業を続ける必要がある。

 

 

ということで、全体的には「最高の体調」で取り上げた「畏怖」のパートや、「無(最高の状態) 」の問題意識に近い内容で、「わかるー」って感じでありました。

 

 

ただ、個人的には、著者がディスる「テンション高めな自己啓発」も悪いとは思ってなくて、ドーパミンの閾値が高い人には意義があるでしょうからね。そこは仏の沙汰は僧が知るってことで、私のような内向人間は上述のようなポイントを心がけておくといいんじゃないでしょうか。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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