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運動神経を向上するにはどうすればいいんですか?ということで、5つのポイントを挙げてみました


  

こんなご質問をいただきました。

 

35歳男です。子供の時から運動神経が悪くて、学校のバスケもサッカーもいつも嫌々やっていました。しかし、健康のために運動をはじめたので、できればスポーツも再挑戦してみようかと思います。運動神経をよくする方法はありますか?

 

というわけで、中年期から運動音痴を改善するにはどうすればいいのか、ということですね。私も中高時代は大の運動神経悪い人間だったので、このお悩みはよくわかるところです。サッカーとか、パスをまわされないように、わざと遅く走って前線に行かないようにしてましたし。

 

 

ちなみに、ここでいう運動神経って言葉は、生理学における運動神経ではなく、シンプルに「スポーツがうまくなるには?」って問題を扱いますんで、そこらへんはお願いしやす。

 

 

で、このポイントについて、まず参考になるのが練習とスポーツの成果についてまとめたメタ分析(R)です。「超一流になるのは才能か努力か?」で有名な「限界的練習」とスポーツのパフォーマンスに関して33の研究を調べたもので、チームはこんな結論を出してくれております。

 

  • 厳しい練習は、スポーツの成功の差の18パーセントしか占めていない

 

たとえば、2人の野球選手の打率を比べた場合、一方の選手の打率がもう一方の選手より優れている理由のうち、バッティング練習に費やした時間はわずか18パーセントに過ぎないわけっすね。つまり、生まれつきスポーツが得意な人とそうでない人は確実に存在しており、その差は練習だけは埋められないってことですな。

 

では、残りの82%がどうなっているのかが気になりますけど、だいたいこんな要素が関係しております。

 

  • 忍耐力
  • 怪我のしやすさ
  • プレッシャーへの強さ
  • 最大酸素摂取量の個人差
  • 筋肉量の増え方違い
  • 協調性
  • 身長
  • 競技の楽しさ

 

こうして見ると、私は身長は低いし、そもそもスポーツを楽しいと思ってなかったし、プレッシャーには弱いしで、運動が下手だったのもむべなるかなってとこですね。むべなるかな!(繰り返し)

 

 

と、このような話を知ると、「運動神経はどうにもならないんかい!」って気になりますけど、研究チームは以下のように戒めておられます。

 

誤解してほしくないのは、これは個人ではなく全体の分散を見ている点だ。要するに、個人の学習速度には差があるが、ほぼ全面的に、すべての人は練習でパフォーマンスを向上させることができる

 

同じ練習量でも他の人よりスポーツが上手になる人はいるんだけど、誰でも練習で運動神経がアップするのは間違いないからあきらめるな!という話ですね。

 

 

では、具体的な練習法はどうすればいいのかって話になりますが、この点については、「RANGE(レンジ) 知識の「幅」が最強の武器になる」で有名なデイビッド・エプスタイン先生の過去作「スポーツ遺伝子は勝者を決めるか?──アスリートの科学」が参考になるでしょう。これは、運動が上手い人は何が違うのか?ってのをデータ重視でまとめたものでして、スポーツの上達にお悩みの方なら参考になるはずであります。

 

 

本書にはいろんな論点がありますが、「運動神経の向上」ってとこに的を絞ると、ポイントは以下のようになります。

 

 

  1. まずは指示を受けずに学ぶ:初めてのスポーツをする際は、詳しい知識を学ぶ前にとにかく実践してみて、失敗をくり返したほうがよい。このプロセスは「暗黙の学習」と呼ばれ、子供が学習するときのように手探りで学んでいくことを意味する。

    これは外科医を対象とした研究でも示されており、暗黙的な学習でスタートした外科医は、手術のスピードと正確さが速い傾向があった。これは、過去にブログで紹介した「生産的な失敗」にも重なるポイントと言える。



  2. 「自己規制行動」にこだわる:スポーツでプロになった子供たちには共通した行動特性がありり、みな「自己規制行動」と呼ぶものを示していた。これは、自分からトレーナーにガンガン質問していく姿勢のことで、たとえば「この練習は簡単すぎると思うですが、あえてやる理由はありますか?」とか「自分の問題は別のところにあるような気がするんですが、代わりにそれに取り組んでもいいですか?」みたいに、自ら効果的な練習法を掘り下げていく。このように質問を重ねていくことにより、自分のパフォーマンスへの理解度が深まり、自分が何ができて何ができないかをよりよく判断できるようになる。



  3. 「最適プッシュ 」にこだわる:「最適なプッシュ」とは、これまでやってきたことよりも少し難しいけれど、手が届かないほど難しくはないレベルの練習を意味する。このレベルの練習を保てる子供は停滞を起こしにくく、失敗から得るものも他の子供たちよりも多い傾向がある。つまり、つねに自分のスキルの限界を知り、それをちょっとだけ超え続けるのが大事。



  4. 練習後の「自問自答」も超大事:スポーツでトップクラスの子供たちは、共通して「自問自答」の習慣を持っている。彼らは常に反省の時間を取り、その日の練習で自分がやったことについて考え、それがうまくいっているかどうか自問する習慣を持っていた。たとえば、「今日の練習は十分に難しかったか? 簡単すぎた?」みたいな感じ。簡単なことのように聞こえるが、これを習慣にしている人は意外と少なく、無闇に努力をくり返してしまうことが多い。



  5. スポーツの上達に年齢は関係ない:最新の研究によれば、いくら歳を取っても新しいスキルは学ぶことができる。確かに、高齢のスポーツ選手は脳の使い方が変わっていくが(若い頃より使い方が効率的になる)、これは歳を重ねると運動神経が上がらないことを意味しない。

 

 

ということで、運動神経の向上だけでなく、あらゆるスキルの改善に役立つポイントじゃないでしょうか。私としては「最適プッシュ」を特に重視してまして、あらゆるトレーニングで念頭に置いてる感じっすね。お試しあれー。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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