「大事なことを記憶するにはどうすべきか?」についての本を読んだ話
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「人はなぜ忘れるのか、どうすればもっと記憶できるのか(Why We Forget and How to Remember Better)」って本を読みました。著者のアンドリュー・E.バドソン先生はボストン大学の神経学教授で、「アルツハイマー病 認知症疾患」って専門書を出してらっしゃる方ですね。
タイトルどおり記憶力をテーマにした本で、脳のメカニズムを簡単に説明しつつ、より記憶力を発揮する方法を教えてくれる良い本でした。では、いつもどおり、個人的に参考になったところをまとめてみましょう。
- 人間の「記憶力」は単一の機能ではない。たとえば、アルツハイマー病にかかって親戚の顔を忘れたとしても、ピアノが弾けるようなケースは普通にある。
記憶の種類は大きく3つあり、「エピソード記憶」は人生の出来事やエピソードに関する記憶で、子供の誕生や食料品店への買い物など、過去の出来事を再体験するときに使う。「手続き記憶」は、ピアノを弾いたり、自転車に乗ったりと、技術や習慣を身につける際に使う。「意味記憶」は、レシピ、化学式、スプーンの使い方など、事実や情報を記憶するために使う。
アルツハイマー病では、まずエピソード記憶にトラブルが発生し、続いて意味記憶に問題が起きる。親戚の顔は忘れてもピアノが弾けるのは、最後まで意味記憶が保たれるからである。
- 情報を頭にたたき込むには、3つの段階が必要である。
まずは、自分の体験から得た内容を、脳が記憶できる形式に変換する「エンコード」作業が行われる。
続いて、脳はエンコードされた情報を保存する。このおかげで、私たちは友達が近づいてきたときに、その人の名前を思い浮かべることができる。
最後に、脳は保存された記憶を取り出す検索プロセスが行われる。私たちの脳は、常にエンコード、保存、検索のプロセスを繰り返している。
- 忘却や記憶の間違いは、記憶の3つの段階のどこでも生じる。はじめて見た人の名前を記憶できなかったり、似たような響きの名前を混同してしまうのは、そもそも正しい名前をエンコードできなかったのかもしれないし、名前を適切に保存できなかったのかもしれないし、覚えた情報を検索できなかったのかもしれない。
- とはいえ、すべてを記憶することが良いわけではない。過去の記憶が役に立つのは、未来のことを想像して計画するのに役立つからである。ここで、「ランチにどこに行くべきか?」と悩んだ場合、今までの外食先をすべて思い出して再体験していたら、いつまでも適当な店を決められないはず。
このような事態を避けるためには、平凡だった経験はすべて忘れ、良かった経験か最悪だった体験のどちらかを覚えておいたほうが役に立つ。つまり、私たちは、忘却の力を使うことで、体験に優先順位をつけている。
- 記憶力を高めるには、まずは「FOUR」というステップを使うのがよい。これは、以下の手順の頭文字を取ったものである。
F(Focus):記憶したいことに注意を集中する。マルチタスクは禁物。
O(Organize):情報を整理する。たとえば、試験勉強をしているなら、ノートを論理的に整理してから暗記する。買い物リストを暗記する必要があるなら、カテゴリー別にわけたりとか、自分にとって意味のある方法で整理する。私たちの脳は、整理された内容しか保持できないため、整理された情報であればあるほど、より多くの情報を脳にたたき込める。専門家が特定の専門分野で多くのことを記憶できるのは、この能力のおかげ。
U(Understand):情報を理解する。たとえば、相手の名前を覚えたいなら、その名前を正しく聞いたか確認する。仕事のミスを防ぎたいなら、上司からの指示を理解できたかをチェックする。
R(Relate):その情報を、すでに知っていることと関連づける。人の名前を覚えたいなら、その人の名前を、自分が好きなタレントの名前と重ねて記憶する。
以上の4ステップを意識することで、短期的に情報をエンコードし、長期的情報を覚えておけるようになる。
- 「知っているはずなのに思い出せない!」という事態が起きることが多い人は、不安になっているケースが多い。思い出せない状態にあわててしまうせいで、記憶している情報を思い浮かべることができなくなる。
この問題を防ぐにはリラックスがマスト。それは、深呼吸で十分かもしれないし、場合によっては目標を立て直す必要があるかもしれない。たとえば、同僚の名前が思い浮かばなくて焦ったときは、「とりあえず名前は置いておいて、いまは『おもしろい会話に参加する』のを目指すぞ!」と目標をリフレーミングしてみる。
- 脳の仕組みは、1つの情報を検索すると、関連する情報が検索されにくくなるようにできている。たとえば、いったん同僚の名前を間違って思い出すと、それに引っ張られて、正しい名前が出にくくなってしまうような現象が典型である。
この状態におちいったときは、名前を思い出そうとがんばるのではなく、その情報を経験したときの状況(同僚と最後に会ったときの状況とか、はじめて同僚と出会ったときの状況とか)をイメージしてみたほうがよい。この作業により、脳がエンコード時と同じような状態に戻り、脳が情報を取り出しやすくなる。
- 有酸素運動も記憶の生成に欠かせない。運動の効果は非常に大きく、わずか6ヶ月で記憶に重要な脳の部位の拡大が見られる。運動量の増加は脳容積の増加と相関し、ひいては記憶力の向上と相関する。
- 十分な睡眠も重要である。十分な睡眠をとらないと、重要な情報に注意を向ける機能が低下する。日中に学習した情報を数年後にも取り出せるようにするためには、睡眠中に情報を統合する必要がある。睡眠をしっかりとらないと、生涯にわたって記憶を保持することができなくなる。テストのために詰め込み勉強をすると、その内容が2、3週間で消えてしまうのは、これが原因である。
- 健康的な食事も重要である。地中海食が脳に良いことはある程度まで確立されており、逆にスナック菓子やシリアル、白い小麦粉、白いパン、白米などは記憶力にはあまり良くない。
- 最後に、最も重要なのは、常に新しいことを学んで認知的に活動し続けることである。友人や家族と過ごすことで社会的に活動し続けるのも、脳を働かせるために役立つ。