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2024年2月に読んでおもしろかった5冊の本

 

月イチペースでやっております、「今月おもしろかった本」の2024年2月版です。今月は新刊の「コミュニケーション本」の作業で死んでまして、せっかくスキー場へ遊びに行ったのに、ひと滑りもせずに原稿を書かねばならないレベルの忙しさでありました。当然、まともに本を読むこともできませんでしたが、良いものが5冊ほどありましたので紹介しておきます。

 

ちなみに、ここで取り上げた以外の本や映画については、Twitter(X?)インスタグラムのほうでも紹介してますんで、合わせてどうぞー(最近はほぼインスタがメインですが)。

 

 

 

リサーチのはじめかた

 

ブリティッシュ・コロンビア大学の文学研究者が、「いかに研究テーマを決めるか?」をまとめた本。キャリアの浅い研究者にとっては、リサーチ・クエスチョンを見つけるのが一番大変なことなんで、こういう本が出てくれたのはありがたいのではないかと。

 

まぁ、そうは行っても、誰にでも当てはまる「魔法の方法」なんてのがあるはずはなく、本書が提案する方法もめっちゃ堅実。

 

  • 最高の問いは自分の内面からしか生まれない!
  • 自己省察を研究の習慣にせよ!

 

という根本的なところから論を進めていて、激しく産生させられました。私が本を書くときになんとなく実践していたことが、体系だったトレーニングとして言語化されていて、「ありがたやー」って感じですね。

 

といっても、研究者やライターだけに役立つ本ではなく、ここで開陳されるメソッドは、普通に「もっと良い人生を送りたいなー」みたいな人でも使えるはずではあります。というのも、この本のポイントってのは、

 

  • 何を探求すべきかを知っているのは本人だけだ!

  • なにかをする前に、まず自分の経験、興味、優先順位、前提を振り返れ!

 

ってところなので、人生を改善したいような人には、十分に有用な内容になってるんですよ。なんせ自己省察は改善の第一歩なので。

 

ちなみに、私の場合は、自己省察についてはそれなりにやってましたけど、「反響板を用意せよ」「執筆の際はゼロ稿を作れ」ってあたりは実践していなかったので、さっそく取り入れてみようと思います。

 

 

がんの消滅:天才医師が挑む光免疫療法

 

第5世代のがん治療法こと「光免疫療法」の入門書。

 

思い返せば、4年ぐらい前に初めて「光免疫療法」を知ったときは、あまりに話がうますぎて「本当かなぁ……」とか疑ったものでした。「がん細胞だけを狙って壊す!しかも副作用がほぼない!」なんてことが実際にできるとは思えなかったもんですから。

 

が、くわしい話を勉強してみると、これがめっちゃシンプルかつ力強い仕組みになっていて、「これはヤバい!」とか一人で盛り上がったことでした。本書はその時の興奮を思い出させてくれる内容で、情報の取捨選択がうまくてわかりやすいし、新たな治療法が生まれるプロセスの描き方もドラマチックだしで、「おもしろくてためになる」の典型みたいな一冊になってて満足でした。

 

いまのところ、まだ光免疫療法が適用される癌の種類は少ないんだけど、発明者の小林先生は、「今後10年ぐらいで9割のがんに対応できるようになる」と考えているとのこと。もしかしたら、これから適用の面で問題が出てくるのかもしれませんが、メカニズムを見る限りは有望そうでして、未来への希望がめっちゃわきました(なんせがん家系なんで)。押さえておいて損のない知識っすね。

 

 

絶望を希望に変える経済学

 

ノーベル経済学賞を取ったアビジット・V・バナジー先生らが、グローバルな問題に取り組む方法を掘り下げた本。「移民受け入れに賛成すすべきか?」「気候変動はどうする?」「福祉とかベーシックインカムは人々を怠け者にする?」「AIやロボットの影響は?」みたいに、床屋政談で白熱しがちなテーマが扱われていて、誰にでも興味を持てるんじゃないかと。

 

この手の話は、ネットだと賛否両論が過熱してケンカになりがちですが、本書はRCTと自然実験の結果を使いつつ、上述のテーマに関するバランスの取れた討論をしていて、それだけでも買いですね。

 

一例を挙げると、AIとロボットの問題については、

 

  • エコノミストの意見はバラバラで当てにならないから、いろいろ心配するよりは、最もリスクの高い人々を割り出して、政府がどんな政策を打てるかが大事だよねー。

 

みたいな感じ。全体的に煽りがない議論が展開されていて、納得感がありました。

 

ちなみに、この本の基本的な考え方として、

 

  • 経済学者って、どのような政策や制度が、国の経済成長や国民の繁栄を促進するのかについて、実はほとんどわかっていないよねー

 

  • 自然実験の結果を見ると、経済理論で予測される結論とかなりの食い違いがあるよねー。つまり、主要な経済学の概念や理論って無効じゃない?

 

ってところがありまして、経済学に詳しくない方は、そこらへんにも驚かれるかもしれません。この点もふくめて、人間を動かすインセンティブについて考え直したくなる良い本でした。

 

 

 

紛争地の看護師

 

「国境なき医師団」の看護師として、紛争地で活動した著者の手記。難民の数が多いシリア・イエメン・イラクの状況を伝え、いま最悪の悲劇が進行中であるガザのリアルもレポートし、それと同時にイスラエル人の善良さを知ってとまどった描写も加えてみたりと、ただのジャーナリズムにとどまらず、筆者の素直な心情が達者な文章で表現されていて尊い一冊でした。

 

一般的なジャーナリストとは活動のレイヤーが違うので、「紛争地で暮らすとはどういうことか?」というポイントを深く知りたいときには、こちらを読んでみるのが最適でしょう。なんせ現地人とのコミュニケーション量が多いので、戦場のリアルな描写については敵わないですな。

 

ちなみに、この著者は、紛争地から日本に帰ると、とたんに自律神経のバランスが崩れて過呼吸に陥ってしまうらしい。これは「国境なき医師団あるある」なんだそうで、こういった意外な知見もふくめて勉強させていただきました。

 

 

アート・スピリット

 

有名画家のロバート・ヘンライ先生が、芸術の本質について考察したエッセイ集。あのデビッド・リンチ先生も大きな影響を受けた一冊で、それだけでも個人的には“買い”なわけです。

 

本書で取り上げられるテーマは幅広いんだけど、中心となる主張をすごーくざっくりまとめると、

 

  • 自分の描き方を見つけろ!

 

って感じでして、実は上述の「リサーチのはじめかた」と似たようなことを言ってるんですよ。ヘンライ先生は、とにかく「アートは自己からしか生まれない!」「自分の目線をわかっていないのに技法を学んでも仕方ない!」って考え方の持ち主で、これには個人的にも大賛成でした。

 

全体を通して、アートの根本的な部分しか語っておらず、そのせいで文章の大半が抽象的だったりするので、もしかしたら一読ではピンと来ない人も多いかもしれません。が、別に読者を煙に巻くような内容ではないし、ポストモダン系のファッショナブル・ナンセンスが展開されるわけでもないので、何かを創作したことがある人であれば、「うおー!パンチラインの山だぜ!」って感じで読めるんじゃないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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