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能力の成長が爆伸びすると噂の「70:20:10の法則」ってデータの裏付けあるの?

 


70:20:10の法則」ってのがあるんですよ。米ロミンガー社の研究で提唱された法則で、ビジネスの世界で活躍した人たちに、「成長のために何が役に立ったのか?」と尋ねまくったところ、

 

  • 仕事から得られた経験から学んだことが70%
  • 上司から教えられたことが20%
  • 研修や学習から学んだことが10%

 

って割合になることが分かったと言うんですよ。要するに、耳学問よりも実際の体験が大事って話でして、感覚的にも納得する人が多いんじゃないでしょうか。

 

現在では、日本のビジネス界でも広まっている定番の考え方で、ちょっとググれば大量の解説サイトが見つかるはずであります。会社で教わったことがある人も多いかもしれませんね。

 

というと、「70:20:10の法則」には、いかにも大量のデータの裏付けがありそうに思えるかもですが、実際には、科学雑誌に発表された研究は1つしかなかったりします(R)。 今回は、その内容をざっくりチェックしてみましょうー。

 

これはニュー・サウス・ウェールズ大学の調査で、「70:20:10の法則」を使って運営を行ってた「APSC(オーストラリア公共部門委員会)」に協力を要請。「70:20:10の法則」に沿ってトレーニングを受けた職員と、その上級管理職に聞き取り調査を行ったんだそうな。

 

その上で、テキスト処理プログラム(NVivo)を使用して、質的データ(インタビューで集めた言葉)の分析を行ったうえで、以下のような結論を出しております。

 

大規模な質的データセットを使った分析により、オーストラリアの公共部門組織が、「70:20:10の法則」を導入しているにもかかわらず、今日まで望ましい学習移転を確認していないことを発見した。

 

この失敗は、フレームワークの実施における4つの誤解に起因している:

 

(a)構造化されていない経験学習が、自動的に能力開発につながるという過信

(b)社会的な学習の狭い解釈、および経験学習、社会的学習、教育学習を統合する上で、社会的学習が果たす役割を認識していないこと

(c)プロセスを積極的に支援する必要なく、公式の研修・開発活動後に管理職の行動が自動的に変化するという期待

(d)「70:20:10の法則」の要素間の計画的かつ統合的な関係の要件に対する認識の欠如

 

ということで、この研究に関して言えば、「70:20:10の法則」はさほど良い成果を上げてくれなかったらしい。ちょっとションボリですね。

 

では、なんで「70:20:10の法則」のメリットが確認されなかったのかと言いますと、だいたい以下のような問題点がありそうな感じ。

 

  • 「経験から学ぶ!」と言うと良さそうだけど、ちゃんとした学習ルールを設定したり、熟練者がフィードバックする仕組みがないと、良くない行動を経験から身につけてしまうことも多い。

 

  • 上司の指導が大事なのは当然だが、そのグループのなかで、明確にデザインされた学習プログラムがないせいで、個々のマネジャーの好みやワークスタイルに偏った指導がなされるケースが多い。

    ただし、企業内のネットワークやサポートが、能力構築や職場の学習をブーストするのは間違いないので、体系だった仕組みをつくるのが大事っぽい。

 

  • 企業内の学習プログラムは、ほとんどの場合、参加者がたいしたフォローアップも受けずに正式なプログラムを終えることが多く、ただ知識を頭に入れただけになっちゃうケースが多かった。

 

ってことで、ざっくり見てみると、「70:20:10の法則」が悪いというよりは、そもそも法則をちゃんと使いこなすだけの仕組みが作られてないんじゃない?って指摘ですな。確かに、たんに「経験から見て学べ!」とだけ伝えて、それ以上のフィードバックをしないような組織も多いですからねぇ。

 

もっとも、あらためて言うまでもないですが、たった1つの研究、しかも限られた参加者を対象に行われていて、さらには定性的な研究なので、ここから明確な結論を導き出すのは無理な話。この調査からだと、「70:20:10の法則を実践するのは難しいよねー」ぐらいしか読み取れないんで。

 

ただし、個人的には、「70:20:10の法則」にきちんとした研究の裏付けはないとは言え、コンセプトとしては悪くないんじゃないかなーとか思ったりもしています。OJTの重要性は割と多くのデータで示されるとこなんで、とりあえずは「70:20:10」の比率を参考に、自分の学習プランを組み立ててみるのもアリじゃないでしょうか。

 

その際は、だいたい以下のような割合で、学習の時間を割り当ててみると良いでしょう。

 

  • 10%は正式な指導(教育)に割り当てる:体系的な教育プログラムなら何でもOK。デジタルマーケティングのコースを受講したり、認定講座に参加したり、スキル養成のワークショップに参加したり、集中講座に参加したりとか。

 

  • 20% 社会的学習(体験)に割り当てる:経験豊富な同僚や上司から学ぶためにメンターシッププログラムに参加したり、業界の専門家と定期的に相談したり、同僚との定期的な勉強会やブレインストーミングセッションを開催したりとか。

 

  • 70% 現実の学習(経験)に割り当てる: 新しい製品開発プロジェクトのリーダーとしてプロジェクトを完遂したり、 企業のデジタル変革プロジェクトに参加して新しい技術やプロセスを実際に導入・運用する経験を積んだりとか。

 

くり返しになりますが、まだデータの裏付けがないとはいえ、実地のアウトプットが大事ってのは間違いないとは思うんで、ぜひ参考になさってくださいませー。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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