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メンタルに効く最強の運動とはどのようなものか?を徹底的に調べたメタ分析の話

 

当ブログでは、「運動がメンタルヘルスに良い!」という話を過去にさんざん書いております。これまでの研究でも、運動がメンタルに与える影響は何度も示されていて、世界中の医療ガイドラインでも、運動はメンタルヘルスの治療法として推奨されるようになってたりするんですな。

 

が、実は「運動すればメンタルが整う」と単に信じてしまうのは早計でして、たとえば米国スポーツ医学学会で発表されたレビュー論文(R)では、

 

身体活動量が多いほど抑うつ症状が少ないことが多いが、人によっては多ければ多いほど良いというわけではなく、停滞したり悪化したりする用量反応点があるかもしれない。 (中略)また、そのメカニズムは不明であり、精神障害のない人々にとっては平均効果は小さい。 

 

と指摘しておられます。「運動とメンタルヘルスの関係は確かにあるが、その実用性は思ったほど単純ではない」ってことで、まだ議論の余地があるテーマだったりするわけですな。つまり、「運動すりゃメンタルはOK!」って話ではなく、「やり方によって効果に大きな差が出ちゃう介入だから注意が必要だぜ」って話なんですよ。

 

では、メンタルの改善に役立つ運動とはどのようなものなのか? そして、効果の高い運動にはどのような違いがあるのか? ってことで、最新のメタ分析(R)など見ていきましょう。

 

この中で、研究チームはまず「観察研究」のデータを分析してまして、「運動量が多い人はうつ病のリスクが30~50%低い」「1日20分程度の軽い運動でも効果がある」みたいな傾向を確認しております。まあ、これは従来からよく言われてきたことなので新鮮味はないんですけど、このような研究だと、「運動するからメンタルが良くなるのか?」それとも「メンタルが良い人ほど運動するのか?」って因果関係はわからないんですよね。要するに、 「もともと活動的な性格の人はメンタルが良いだけでは?」 「逆に、うつの人は気力がなく、結果として運動不足になっているだけでは?」といった疑問が残るわけであります。

 

この疑問を解消するには、より厳密な研究が必要だよなーってことで、続いて研究チームは「ランダム化比較試験(RCT)」を分析してくれております。RCTでは、「あるグループには運動をさせる」「別のグループには運動させない」といった形で比較を行うんで、「運動が本当にメンタルを改善するのか?」を検証できるんですな

 

このメタ分析では、218のRCTから14,000人以上のデータを統合して、精度が高い結論を出してくれていてありがたいことです。私の独断で、この結論のポイントを抜き出してみると、

 

  •  ヨガや筋トレ、太極拳など、どんな運動でも、確かにメンタルを改善する効果がある(特に軽度~中程度のうつや不安に有効)
  • 最も効果が高いのはウォーキングとジョギングで、認知行動療法(CBT)やSSRI(抗うつ薬)よりも効果が高い。
  • 「運動+SSRI」や「有酸素運動+筋トレ」といった組み合わせ治療の方が、単独の治療よりも効果が高い傾向にある。

 

ということで、現時点では「メンタルの改善には歩くのが最強だ!」みたいな結論になりそうっすね。高負荷のランニングとか筋トレをしなくても良いってのは、非常にありがたいことですな。

 

さらに、研究チームは「運動の種類や環境もメンタルに大きく影響するのでは?」って問題にも注目していて、こちらも参考になります。たとえば、

 

  • 「一人で黙々とジムで筋トレ」 vs 「仕事で重い荷物を持つ」
  • 「公園をウォーキング」 vs 「友達と楽しく散歩」

 

みたいな活動を比べた時に、両者は似たような運動だけど、もしかしたらメンタルに影響するんじゃないか?みたいな問題意識ですな。

 

これについては、まだハッキリ言えるほどのデータがあるわけじゃないんですけど、現時点で言えることとしましては、

 

  • 「運動による社会的つながり」や「達成感」がメンタルに大きな影響を与える

  •  単なる「体の動き」ではなく、「楽しいかどうか」が重要

 

って報告が増えてきてるのは事実っすね。たとえば、職場での肉体労働はメンタルを改善しないのに、同じ運動量でもスポーツだとメンタルに良い影響があるってデータがあったりするんですよね。つまり、「運動の仕方」よりも、結局は「どう楽しく体を動かすか」のほうが重要なんじゃない?ってことで、これは直感でも納得できるっすね。

 

まぁ、先にも見たように、まだ今の時点では「ウォーキング最強!」と簡単には言いづらいところもありまして、それと申しますのも、

 

  • プラセボ効果の問題:運動グループの人は、「運動がメンタルに良い」と知ってるし、逆に運動をしないグループは「何もやってない…」と感じちゃう。この「期待感の違い」が、結果に影響を与えている可能性はかなりデカい。

 

  •  研究期間が短すぎる問題:RCTは時間もお金もかかるため、ほとんどの試験が「6ヶ月以内」で終わっている。しかし、うつ病エピソードの約3分の1は、何もしなくても6ヶ月以内に自然回復することがわかっており、「運動による改善なのか、時間経過による回復なのか」が不明なケースも多い。

 

といった問題があるからであります。ここらへんにはくれぐれも注意しつつ、

 

  •  「社会的なつながり」や「楽しさ」が重視しつつ、最低でもウォーキングはやっておく!

 

みたいに考えておくと良いのではないでしょうか。たとえば、

 

  • 「義務感でウォーキング」よりも「友達と散歩」!
  • 「暗いジムでジョギング」よりも「外で気持ちよくランニング」!

 

のほうが、メンタルには良い可能性が高いわけですね。結局のところ、かなりシンプルなガイドラインに落ち着きましたなぁ。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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