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「自宅でできる腸内フローラ検査」って買う意味があるの?

 

「腸活」がやたらと流行っている昨今。「腸は第二の脳」なんて言葉も聞くようになり、「腸内環境を整えればメンタルが安定する!」とか「ダイエットがうまくいく!」なんて話もよく耳にするところです。

 

そこで登場したのが 「自宅でできる腸内フローラ検査」であります。「マイキンソー」とか「ビフィチェック」みたいな商品が典型的な例で、

 

  • 「便を送るだけで、腸内細菌のバランスがわかる!」
  • 「マイクロバイオーム検査であなたに合った食材やサプリが見つかる!」

 

みたいな売り文句でサービスが展開されておりますな。

 

で、ここで気になるのが「腸内フローラ検査はやるべきか?」って問題であります。腸内環境が全身の健康に影響を与えることは間違いないので、自分の腸内フローラがチェックできるなら、それに応じた対策も組み立てやすそうですしね。

 

ということで、個人的にもいろいろな商品を試してみつつ、さらには腸内フローラにまつわる研究をいろいろと漁ってみまして、私なりに一定の結論が出ましたんでそこらへんをまとめておきましょう。

 

まずは基本をおさらいしときましょう。私たちの体には100兆個以上の微生物が住んでおり、腸のほかにも 皮膚・口・肺・生殖器 など、体のあらゆる部分に独自のマイクロバイオームが存在しております。「マイクロバイオーム」ってのは 「微生物の集合体」 を指す言葉ぐらいにお考えください。

 

でもって、数あるマイクロバイオームの中でも、特に重視されているのが 「腸内マイクロバイオーム」 で、

 

  • 食べ物の消化・吸収を助ける
  • 免疫機能を調整する
  • メンタルや脳の働きに影響を与える

 

といった働きを持っていると考えられるんですな。近年では、腸内細菌のバランスが乱れると糖尿病・肥満・アレルギー・うつ病 などのリスクが高まるって知見もたまってまして、このような背景から、「腸内環境を調べて健康を改善しよう!」って流れが生まれたわけですな。

 

では、最近流行っている「腸内フローラ検査」は本当に役に立つのかってことで、現在の見解を見てみましょうー。

 

 

ポイント1. 検査ごとに結果がバラバラ

これは個人的な体験ですが、同じ便のサンプルを異なるサービスに送ってみたら、まったく違う結果が返ってきたケースが結構あったんですよ(商品名は出しませんが)。これは、各社が採用している検査手法や解析方法、データベースの違いによるもので、たとえば、腸内フローラのタイプを分類する際に、ある検査会社では腸内細菌の組成をもとに57タイプに分類している一方、別の会社では独自の分類を採用していることもあったりとか。

 

あと、検査結果のレポートも会社によって異なってまして、ある会社では、腸内フローラの多様性スコアや健康長寿菌の有無などの詳細な項目を提供しているのに対し、別の会社では主要な腸内細菌の割合や多様性スコア、やせ菌の有無とか、異なる指標を報告したりするんですな。

 

まぁ、こういう問題が出てくるのも当然で、腸内フローラ検査には標準化された方法がないんですよね。腸内細菌を調べる方法はいくつもあるんだけど会社によって何を採用するかは違うし、会社ごとに使用するデータベースも違うし、同じ菌を検出しても名前が異なったり分類が異なったりすることもあるしで、会社ごとに異なる結果が出るのも当然っちゃ当然なんですよね。

 

 

ポイント2. 腸内細菌は毎日変わる

私たちの腸内細菌は、食事・ストレス・睡眠・運動などの影響で毎日変化しております(R)。たとえば、

 

  • 焼肉を食べた翌日は腸内の特定の菌が増える
  • 野菜中心の食事にしたら、善玉菌の割合が増える

 

って感じで、私たちの腸内フローラはダイナミックに変化するのが普通なんですよね。つまり「1回の検査であなたの腸内環境がわかる!」ってのは、そもそもかなり無理がある話ではあるんですよね。

 

 

ポイント3. そもそも「健康な腸内フローラとはなにか?」の合意がない

実は、科学者の間でも「理想的な腸内フローラの定義」ってのはまだ確立されてなかったりします。腸内には 100兆個以上、1000種類以上 の細菌が住んでいると言われていますが、どの菌が「良い」のか「悪い」のかは、まだはっきりしないんですよ。なかには、「善玉菌」「悪玉菌」って分類自体が、科学的にはあまり意味を持たないとする研究者もいるぐらいなんで(R)。実際、「悪玉菌」と呼ばれる細菌も、特定の条件下では有益な役割を果たすことがあるんですよ(例えば、大腸菌の一部が腸内でビタミンを作ったりとか)。

 

また、ある特定の菌が多い人は健康だってデータがあったとしても、それは「この菌が多い=健康になる」ではなく、「健康な人にこの菌が多い傾向がある」程度の話なんですよね。さらには、人によって腸内細菌のバランスは大きく異なり、 「健康な人の腸内細菌の組成」には統一したパターンがない のも問題になっております。つまり、「あなたの腸内細菌はこうだから、○○を食べましょう」ってアドバイスがあったとしても、「それってどこから出た考え方ですか?」としか言いようがないんですよ。

 

 

ということで、ここらへんをふまえると、腸内フローラ検査ってのはまだまだ発展途上としか言いようがなく、「まぁ現時点ではやらなくて良いでしょう!」としか言いようがないんですよね(私はすでにウン万円を投じてしまいましたが)。ご参考までにー。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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