オススメの小説ってなんですか?論理思考を鍛えられる本は?【イベント質問のお答えシリーズ#9】
ということで、「対談イベントの質問にお答えしていくシリーズ」の第8弾です(#1,#2,#3,#4,#5,#6,#7,#8)。前回に引き続き、「小説」に関する質問にお答えしまーす。
オススメの小説とか
オススメの小説があったら教えて欲しいです。
カフカやカミュなどのモヤモヤする小説を、いくつか紹介してください。
ということで、オススメ小説は山ほどありすぎるので、ここでは前回からお話ししている「認知的完結欲求」を鍛えるのに役立ちそうな作品に絞ってみます。明確なストーリーがなかったり、日常に謎の亀裂が入ったり、そこから不条理や幻想が流れ込んでくる……みたいなタイプの作品っすね。どれも言葉にしづらい余韻が残るようなものばっかなんで、気になるものから手に取ってみてくださいー。
- 小山田浩子「穴」:謎の穴に落ちた主人公が 田舎の奇妙な日常に徐々に呑み込まれていく話。現実と妄想の境界が曖昧になっていく小説は多いんだけど、本作はとにかく静かに丁寧に日常の崩壊を描くもんで、「あれ?どこで境界がズレたんだっけ?」みたいな感覚になれるのが良いっすね。
- 残雪「黄泥街」:確かな筋が無く、汚物や死体や虫がこれでもかと登場する文を延々読まされるけど、なんだか悪夢に放り込まれたような余韻になれておすすめ。「黄泥街」は手に入りづらいので、「カッコウが鳴くあの一瞬」や「突囲表演」なんかでも楽しい。
- 村田沙耶香「地球星人」:ネットで見つけた夫と性行為なしの婚姻生活を送る女性の話。社会の常識にひたすら疑問を突きつけつつ、モヤモヤを残し続ける展開が最強。ただし、上の2つよりは理が通ってるところが多いので、読みやすいかも。
- ハン・ガン「菜食主義者」:全編に不穏で官能的な空気が漂いまくる中編集。カフカ的なダークな寓話感がありまして、読後は何が正気で何が狂気なのか分からなくなるような感覚が続いて良い感じです。
- 円城塔「Self-Reference ENGINE」:時間の束が完全にごっちゃになった世界で生きる人を描く短編集。設定がメタ構造でリンクし合い、時系列も空間もあやふやに連鎖していき、やがて物語の境界や論理も崩れていく感じで、読んだ後は幻覚剤でも摂取した気分になれます。
感動するような小説とかノンフィクションとか
感動するような、胸が熱くなるような面白い小説、または本を教えてください。
ってことで、こちらは上に並べたオススメとは異なり、ちゃんとストーリーがわかって胸アツになれるような本をみつくろってみます。とりあえず、いま頭に浮かんだものだけ。
- アンディ・ウィアー『火星の人』:火星に一人取り残された宇宙飛行士のサバイバル劇を描く、映画「オデッセイ」の原作。主人公の不屈さが胸アツで、ハラハラしながら最後まで読める。科学的な要素もリアル。アンディ ウィアー先生は、「プロジェクト・ヘイル・メアリー」も良かったっすね。
- R・J・パラシオ『ワンダー』:遺伝性の顔面奇形を持つ少年が学校に通い始める話。少年の純粋さが周囲を変える……みたいな本は山ほどあるんだけど、本作は主人公まわりの友人や家族の視点を描く手法が導入されていて、それによりグンとリアリティが高まってて別格。映画版もめっちゃよくできてます。
- テッド・チャン『あなたの人生の物語』:映画『メッセージ』の原作短編。言語学者の主人公が異星人の言語を学ぶうちに、時間の概念が変わる という驚愕の体験をして……みたいな話で、胸アツというよりは、「時間」と「選択」の重さにしみじみ感動させられるナイスSFです。
- ヴィクトール・E・フランクル『夜と霧』:ナチスの強制収容所で生き延びた精神科医フランクルの実体験。もはや説明不要のマスターピースでして、「どうせ泣かされるんだろうなぁ」と思って読んだらやっぱり泣きました。
- ジル・ボルト・テイラー『奇跡の脳』:脳卒中で倒れた脳科学者が、8年かけてリハビリをしながら回復する様子を自ら描いたノンフィクション。知的能力を失う恐怖と闘いながらも、科学の知見を使って少しずつ再生していく姿が感動的すぎますね。
- ポール カラニシ 『いま、希望を語ろう』:36歳で末期癌になった脳神経外科医の手記。こちらも読む前から「どうせ泣かされるんだろうなぁ」と思ったら、やっぱり最後には落涙させられてしまいました。
- サイモン・シン「フェルマーの最終定理」:フェルマーの最終定理に挑み続けた数学者を描くノンフィクション。言わずと知れたド直球の名著で、ひとつの数式に人生をかけ続ける学者が次世代にバトンを渡していく姿にリスペクトと感動が止まらないっすね。
岸本佐知子さんのオススメの本とか
パレオさんの個人的な岸本さんのオススメの本を教えてください。今まで岸本さんの本を読んだことがありませんでしたが、今回の対談を機会に読んでみたいと思いました。
岸本先生のおすすめのエッセイベスト3と邦訳書を教えて頂きたいです。
岸本さんの本はどれも良いのですが、まずエッセイとしては、
- 「気になる部分」:岸本さんの視点や思考が最もわかりやすく表に出ていて、最もお笑いの濃度が濃いめ。シンプルに笑えるので、入門編としてオススメ。
- 「ねにもつタイプ 」:講談社エッセイ賞受賞作。「笑い」だけでなくファンタジー要素も入り込み、エモーションもかき立てられる要素が増加しているので、ここから入るのもよし。
- 「わからない」:エッセイだけでなく書評や日記もドドッと集めて一冊にした本。上のエッセイ群を経由して「岸本さんの脳内にシンクロできる!」と思った方は、こちらもお買い求めいたくと良いでしょう。
- 「死ぬまでに行きたい海」:岸本さんが月イチでいろいろなところに出かけていく連載をまとめたもの。「笑い」や「妄想」の濃度は低めで、そのかわりにとにかく「エモい!せつない!」って成分が濃いめ。しみじみしたい人におすすめ。
って感じになりますね。ここらへんは、自分がどんな栄養を欲しているのかを見極めたうえでお選びください。
続いて、私が好きな岸本さんの訳書を挙げてみると、
- ニコルソン・ベイカー「中二階」:サラリーマンがエスカレーターを登る時の意識を描くだけで一冊にした本。ミクロな「あるある」が山ほど詰め込まれていて、「バカリズム案」とかが好きな人なら確実にお楽しみいただけるでしょう。
- ミランダ・ジュライ「最初の悪い男」:ミランダ・ジュライはどれも最高なんだけど、個人的にはこれが一番好き。43歳の独身女性が20歳の若い娘さんと同居をはじめる話で、コミュニケーション不全の問題をシュールなコメディみたいに描いてて、笑いつつもなんだかホロリとさせられました。『最初の悪い男』ってタイトルについても、「そこから取ったの!?」って感じで笑えました。
- ブライアン・エヴンソンなど『居心地の悪い部屋』:意味はわからないが、読後になんだかやたら不安にさせられ作品を集めた短編集。それぞれが不可解で、それぞれが異なるタイプの異常性や不安さを描いてますんで、認知的完結欲求のトレーニングにも良いし、自分のネガティブ感情を分析するための教本としても使えるんじゃないでしょうか。
- リディア・デイヴィス「ほとんど記憶のない女」:従来の小説の『型』を壊しまくって、その結果として、なんだか凄い教訓を得たような気になったり、めっちゃ真実をついた箴言を聞いた気分になったりさせられる珍本。とりあえず、一番最初の「十二人の女が住む街に、十三人めの女がいた。」って導入文に「かっちょええー」と思える人なら読んで損はないでしょう。
みたいになります。特に上の2冊は誰にでもとっつきやすいはずなんで、ここから手にしてみると良いんじゃないでしょうか。
論理思考の本のオススメとか
Dラボ動画の「本とパラパラと私」の回で言っていた、本を読むのが速くなるのに1番よい論理思考の本の具体的なタイトルを教えてください。
上記の動画で、わたくし「本を速く読むためには、まずは論理思考を磨いて、その分野の基本書を最低でも5冊ぐらいは丁寧に読む作業が必須だよー。そのフェーズを乗り越えれば、後は他の本も速く読めるようになるよー」みたいな話をしております。これは「一流の経済学者に学ぶ、とにかく速く大量の本を読みまくる方法」に書いたことを言い直したもので、「本を読むのが速いってのは、『その本から得られるものがなにもない』って状態である」って考え方にもとづいてるんですよ。
この話は、簡単に言えば、本を読めば読むほどすでに知ってる情報ばかりになるので、それだけ本を読むスピードは上がるけど、1冊あたりの情報の価値は下がるよねーってことっすね。なので、個人的には「速く本が読める!」って状態は、最終的なゴールとして目指すものではなく、「その分野について自分がどれぐらい知識を得たか?」の指標として使うのが良いのだろうなーとか思っております。
で、この状態に達するには、基本書をいくつも読まねばならないんですが、特定の分野における基本を理解するためには「論理思考」が必要になってくるわけです。どんな分野でも、論理の枠組みがないと、知識が単なる丸暗記になってしまい、応用が効かないですからね。
そのために役立つ本はいろいろありますが、個人的にオススメしておきたいのは、
あたりでしょうか。ほとんど野矢先生の本ですね(笑)。まぁ上の2冊はちょっと難易度が高いので、導入する順番としては「国語ゼミ」→「思考力改善ドリル」→「101題」→「論理トレーニング」みたいに進んでいくと良いのではないでしょうか。この中からどれか一冊と言うなら、クリティカル・シンキングの内容を幅広く押さえられる「思考力改善ドリル」がいいんじゃないかなーって感じっすね。お試しあれー。