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「運動で頭が良くなる」問題の最新知見──科学が示した10代までの最強ブースト法

 

運動で頭が良くなる!」って話に関して最新のメタ分析(R)が出てましたんで、内容をチェックしておきましょう。まず結論から言っちゃうと、

 

  • 18歳未満の子どもやティーンが運動をすると、実行機能・注意力・ワーキングメモリといった認知機能が有意に伸びるよー。頭が良くなる運動法も調べたぞ!

 

って感じになってまして、こうした話は過去にもチラホラと出てたんだけど、今回の研究は21件ものRCT(無作為化比較試験)をまとめたメタ分析なんで、信頼度がだいぶ高くてよいのでしょうか。

 

ってことで、研究デザインを整理しておくと、

 

  • 対象になったのは21件のRCT
  • 参加者の合計は3,544人(運動群1,730人 vs. 対照群1,814人)
  • 実験の期間は2~39週間
  • 運動の後で、実行機能、注意機能、認知的柔軟性、抑制制御、ワーキングメモリなどをチェックした

 

みたいになりまして、割とサンプル数も多くて良いっすね。その結果をまとめると、こんな感じになります。

 

  • 実行機能(目標を立てて行動を整理する力)は、小さいけど有意にアップ(SMD=0.21)。
  • 注意機能(集中力)は、かなりしっかり改善(SMD=0.56)。
  • 認知的柔軟性(状況に応じて思考を切り替える力)にも効果大(SMD=0.53)。ただし研究間でブレが目立つ。
  • 抑制制御(衝動を抑える力)にはかなり強い改善傾向(SMD=0.58)。
  • ワーキングメモリ(短期記憶+情報処理)には、安定した効果あり(SMD=0.54)。

 

こうして見てみると、運動をすれば脳の主要な認知能力がまんべんなく底上げされる!って結論になりまして、めっちゃ良い感じの結論になってますね。個人的にも、この数値は「なかなか良いですなー」って印象でありました。

 

となると、「どんな運動の効果が大きいの?」ってのが気になりますが、研究チームは運動の種類ごとの効果も分析してくれております。こちらの結果がまた参考になるんで、中身をチェックしときましょう。

 

  • 有酸素運動:SMD=0.53。ランニングやサイクリングなどで一番安定して効く。
  • HIIT(高強度インターバルトレーニング):SMD=0.30。有意だけど効果量はやや控えめ。
  • 筋トレ(抵抗トレーニング):SMD=0.46。少数の研究しかないけど効いてる。
  • 複合運動(複数の運動を組み合わせたもの):SMD=0.51。効果は大きめ。

 

全体的には「ランニングがベスト!」って結論になりそうですが、まあ運動ならなんでも効くと考えても良さそうっすね(高負荷運動の効果がちょっとだけ低いですけど)。いまんとこ有酸素運動は研究数が圧倒的に多いので、何をやるか困ったら、とりあえずランニングをしとくのが良さそうですが。

 

ちなみに、「なぜ運動すると頭が良くなるのか?」って点もチェックしておきましょう。生理学の観点からは、いくつかのメカニズムが考えられております。

 

  • 脳の血流が増える:運動中は全身の血流が活発になり、脳にも酸素や栄養がたっぷり届く。
  • 神経栄養因子(BDNFなど)が増える:運動は「脳の肥料」と呼ばれるBDNFを増やし、神経の成長やシナプス形成を促進する。
  • ストレスホルモンが減少:コルチゾールの慢性的な上昇は脳に悪影響を与えるが、運動習慣があるとこれが緩和される。
  • 睡眠の質が改善:成長期の脳にとって、深い睡眠は学習効果の定着に不可欠。その点で、運動は睡眠を強化する働きもある。
  • 感情調整能力が上がる:イライラや不安が落ち着き、集中力が持続しやすくなる。

 

そんなわけで、これを見てみると、「運動で脳が鍛えられる」というよりは、「運動は脳を学習しやすい環境に整えてくれる」みたいに理解しておくのが良いかもしれませんな。私も十代から運動をしておきたかった……(運動をはじめたのが35歳からなので)。

 

ただし、今回の研究ってのは、「運動すれば誰でも優秀な頭脳に!」みたいな話ではなくて、分析の数値を見ると、特に注意機能や認知的柔軟性の部分で研究間の異質性(I²値が70~80%)がかなり高いんですよ。これはつまり、

 

  • 運動の種類や頻度
  • 介入した環境(学校か部活動か家庭か)
  • 子どもの体力や発達段階

 

によって運動の効果はめちゃくちゃブレやすい、ってことなんで、そこは注意したいっすね。まあ、それでも全体としてはプラスの方向に動いているので、「やらないよりは絶対にやったほうがいい」とは言える結果になってますけども。

 

なので、今回の知見をもとに現実への適用をまとめてみますと、

 

  • 授業前に10分の軽い有酸素運動をする → 集中力アップし、テストの点が上がる可能性もある。
  • 宿題の合間にHIIT風ミニ休憩 → 20秒×数回のジャンプやスクワットでワーキングメモリ回復すると思われる。
  • クラブ活動を「脳トレ」と考える → 部活をやっている子どもほど、勉強面でも成果を出すケースが多いのは合理的だと考えられる。

 

みたいになるでしょう。これらを意識するだけでも、運動がもたらす「脳の環境調整」メリットを活かせる感じであります。特に十代のころってのは脳のシナプスが爆発的に形成されて、不要な回路が刈り込まれる「シナプス剪定」が進みますんで、外部刺激(=運動)のメリットがブーストする余地が大きいと申せましょう。つまり、大人になってから慌てて運動を始めるより、十代で動きまくったほうが圧倒的に得ってことですかね。かえすがえす、十代から運動しとけばよかった……。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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