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今週の小ネタ:笑う人は老けにくい、粘り強い性格を鍛えるのに必要なポイント、人生の満足度はパートナーと濃密に結びついている


ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。

 

 

 

やっぱり笑う人は老けにくいらしい

「笑いは健康にいい!」とはいろんな場面で聞くフレーズですが、新しい研究(R)では、日本の高齢者32,666人を6年間も追跡してまして、まことに参考になる内容でありました。

 

この研究は、日本全国の65歳以上を対象にしたJAGES(日本老年学的評価研究)のデータを使ってまして、対象人数は32,666人、追跡期間は2016年からの6年間。要介護認定なしで、自立して生活できる人だけを対象にしたそうな。

 

研究では、みんなに「普段どれくらい声を出して笑う?」と質問して、これを6年の経過データとつき合わせてみたところ、結果はこんな感じになりました。

 

  • よく笑う高齢者はうつ病の発症リスクが最大50%低い

  • 効果があるのは日常の自然な笑いで、「笑い療法」みたいに特別なことをしなくてもいい

  • 「笑い」は社会的なつながりの核心を表す健康指標として使える

 

ってことで、6年のあいだに全体の約15%が新たにうつ状態になってたんだけど、よく笑う人ほどメンタルを病む確率が格段に低かったらしい。しかも、この関連は、年齢や収入、認知機能などの要因を調整した後でも確認されているし、さらには「笑いが少ないほど、うつ病リスクが段階的に増加する」という用量反応関係も認められたんだそうな。こいつは良いですねぇ。

 

では、なんで笑いがそこまで体に良いのかと言いますと、だいたいのメカニズムとしては、

 

 

  • 笑うとコルチゾール(ストレスホルモン)が下がる

  • β-エンドルフィンも分泌されて気分が改善する

  • 免疫細胞の活性が上がって健康を維持できる

  • 横隔膜運動で深い呼吸が進むので、自律神経が整う

  • 笑いの量が多い人は社会的なつながりも強いため、それによってストレス反応が下がる

 

みたいなものが想定されておりました。特に本質的なのは最後の「社会的なつながり」で、よく笑う人は誰かと一緒に過ごしている時間が多い = 社会的つながりが強い = メンタルが守られるって流れが、おそらく最もメンタルへの寄与がでかいのだと考えられるわけです。

 

ということで、このデータを実践に活かすのであれば、

 

  • 週2回は人と会話して笑う機会をつくる
  • ひとり飯を週5→週3以下に減らす
  • コメディ番組を運動とセットにする

 

といったものが考えられますかねー。いずれにせよ、「笑い」は老化の速度や健康寿命に影響するっぽいので、意識して人間関係の中に笑いを作っていくと良いでしょう。

 

 

 

粘り強い性格を鍛えるのに必要なポイント

努力できるのも才能だ!」みたいな話をよく耳にしますが、新しい研究(R)では、「長期の目標に向かって粘り強く取り組む力は、“あるポイント”を鍛えれば身に付けられる!」って内容になっていて面白かったです。

 

これはインドのベッロール工科大学が平均20歳の男女548名を対象にした試験で、以下の4つをオンライン調査で測定したんだそうな。

 

  • グリット=粘り強く目標に取り組めるかどうか
  • 逆境経験(ACE)=子ども時代に、どれぐらい辛い体験をしたか
  • ポジティブな育ち=子ども時代に、どれぐらい愛情をもって育てられたか
  • 感情の自己調整=感情のコントロールがどれぐらい上手いか

 

これらのデータをひとまとめに分析したところ、結果はこんな感じになりました。

 

  • ネガティブな子ども時代を送った人は、粘り強さが低い

  • ポジティブな子ども時代を送った人は、粘り強さが高い

 

ってことで、子ども時代が辛かった人は努力を続けにくいってことで、ネガティブな少年時代を送った私としては「やっぱりか……」みたいな感じっすね。

 

が、ここには希望もありまして、また別の分析では、

 

  • 子ども時代と粘り強さの相関は、すべて「感情調整能力」で説明できる!
 
みたいな結果が出ておりました。要するに、ここでのポイントをまとめると、
 
  1. 子ども時代の逆境で粘り強さが下がるのは「感情のコントロールが苦手になるから」である

  2. 幸福な子ども時代が粘り強さを高めるのも「感情のコントロール能力が育つから」である

  3. ゆえに、粘り強さの本質は感情コントロールだと考えられるため、過去よりも“感情の扱い方”が重要となる

 

ということでして、端的に言えば「感情コントロールスキルを鍛えれば、努力する才能は後天的に伸ばせる」ってことになりましょう。その具体的な方法については、このブログでさんざん書いてますんで、そちらをご参照ください。いずれにせよ、「努力する才能」みたいなあいまいなものに対して、明確に目指すべき方向が見つかったのはすばらしいっすねー。

 

 

 

人生の満足度はパートナーと濃密に結びついている

“幸福になる方法”みたいなアドバイスはネットにあふれてるわけですが、新しい研究(R)を見ると、「人生の満足度はパートナーと濃密に結びついている」という結論になってておもしろかったです。

 

こちらはフィンランド東部大学の先生方が行った研究で、ヨーロッパ28カ国を対象にした大型追跡調査をもとに、50歳以上の異性カップル24,760組のデータを分析。155,000件以上という巨大な観測データを使って、みんなが「人生にどれくらい満足しているか?」をチェックしております。

 

で、最も大きな結論だけ申し上げますと、

 

  • パートナーの幸福度が1ポイント上がると、自分の幸福度も平均0.3ポイント上がる傾向が見られた

 

みたいになります。たとえば、ある夫婦の奥さんが「最近人生けっこう楽しい」(7点→8点)って感じになると、それに応じて旦那さんの人生満足度も0.3点押し上がる……みたいな話っすね。統計的には割とデカい効果ではないかと。

 

さらに興味深い点としては、

 

  • この関連性は男女でほぼ同じ強さだった
  • 健康状態・収入・仕事・社会活動を調整しても、相関は依然として強い

 

みたいな感じになってまして、つまり幸福は個人ではなく「カップル単位」で動く傾向があるってことなんでしょうな。

 

この結果について、研究チームは「人生の連結性」って考え方を提案しておられます。簡単に言えば、人生は“つながったシステム”であり、幸福は個人のものではなく“循環資産”である、といった発想で、夫婦どちらかが不幸になると、それがもう一方へも伝わり、結果として「家庭全体の幸福度」が下がるってことですね。逆に、どちらかを支援すれば**もう一方の幸福まで改善する“スピルオーバー効果”が起きるんだよーって話っすな。

 

なので、この結果を現実に活かすのであれば、

 

  • 介護・家事を“一人で背負わない”:介護負担が片方に偏ると、幸福連動が弱まり関係が崩れるので、早めに外部サービスを活用するべき。

  • 男性は「友達を作る」ことにリソースを注ぐ:女性は複数の友人を持つのがうまいが、男性は孤立しがちな傾向があるので。

  •  「一緒の習慣」を増やすだけで幸福は上がる:ウォーキング習慣を一緒にしたり、同じ趣味に取り組んだり、共通に何かを学んだりなど、

 

みたいなあたりが有効になるでしょうな。自分を成長させることに注力するのも良いんだけど、「自分だけが前に進んでいる」状態は危険なので、「成長は共有プロジェクトだ!」みたいなマインドでいると良いでしょう。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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