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理想の自分に浸りすぎると現実が壊れる──心をむしばむ妄想依存に気をつけようぜ!って研究の話

 

スーパーのレジに並んでいるときなどに、ふっと意識が飛んで、前回の旅行を思い出したり、まだ見ぬ未来の自分を想像したり──みたいなことは誰にでもありましょう。こうした現象は学問の世界では「白昼夢」などと呼ばれてまして、多くの人にとってめっちゃ当たり前の体験であります。

 

ある研究によれば、人間は起きている時間の 16%前後を空想に費やしているとも言われてまして、「脳の自然な休憩モード」だと考えられるんですな。つまり、ぼんやり夢想するのは 脳にとって必要なリフレッシュでして、創造性や問題解決のきっかけになることも珍しくなかったりします。

 

が、ここに思わぬ落とし穴がありまして、一方では、この機能がメンタルの低下につながる現象も非常に多く報告されてるんですよ。そこらへんの詳しいメカニズムは「無(最高の状態)」にまとめたので興味がある方はご一読ください。

 

で、新しく出た研究(R)も、白昼夢のダークサイドについてまとめたもので、研究チームは「白昼夢が依存になることがある!」と指摘しておられます。これが、なかなか現代人に刺さる内容なんで、日常で不安に悩むことが多い人はチェックしてみると良いでしょう。

 

これはミドルセックス大学の調査で、研究チームは、白昼夢がもたらすヤバい作用を「不適応的白昼夢」と呼んでおります。その定義がどんなもんかと言いますと、

 

強迫的に空想へ没入してしまい、その結果、苦痛や機能不全を引き起こすサイクル。

 

みたいになります。このような不適応な白昼夢を持つ人たちの特徴としては、

 

  • 一日の57%を空想に費やす(平均16%の3倍以上)
  • やめたいと思ってもやめられない
  • 勉強・仕事・人間関係がボロボロになる
  • 「現実」と「理想的な妄想世界」のギャップに苦しみ、自己嫌悪に陥る

 

といったものがありまして、もはや「楽しい逃避」ではなく「強迫的な依存」に近い感じになっております。研究チームは、このような問題を、強迫性障害や依存症とも似たメカニズムじゃないかと考えているんですな。

 

研究チームは、「不適応的白昼夢」を理解するための「心理的モデル」を作っていて、このような問題が起きちゃう原因を7つのパターンに分けてます。

 

  • 幼少期の経験:子どもの頃に、競争的な環境で「私は劣っている」と感じやすかった人は、幼くして生々しい空想の世界に逃げ込む習慣を身に付けやすい。

 

  • 核となる信念:「私は不器用な人間だ」「世界は失望で満ちている」といった否定的な思い込みを、人生のどこかで身に付けちゃった。

 

  • 引き金となる要因:勉強からの逃避、他人の成功を目にしたときなどに社会的不安が発生し、それによって白昼夢への依存が起きる。

 

  • 機能的な影響:妄想上の「人生に成功した理想の自分」と現実を比べて落ち込むパターン。

 

  • 内的評価:「妄想の人生は絶対に実現しない」という失望感や将来への不安がある。

 

  • 感情体験:空想中は「自信」「つながり」「誇り」「安心」を一時的に味わえるので、その快楽に依存しちゃう。

 

  • 白昼夢のテーマ:「完璧な体を持つ自分」「人に認められる自分」など、現実では得にくい願望ばかりを妄想してしまう。

 

ということで、これらの要因を見てみると、要は「不適応的白昼夢」ってのは「現実の痛みを癒す仮想現実」みたいなものだと申せましょう。空想自体はポジティブな感情も生んでくれるものの、その分だけ現実との差が広がり、余計につらさが増すという悪循環にハマるわけですね。このあたりは『社会は、静かにあなたを「呪う」』で取り上げた「幸福を願う気持ちが幸福を遠ざける」ってメカニズムとも似ているところですな。

 

では、自分の白昼夢が「健全」か「病的」かを、どうやって見極めればよいのでしょうか? 研究チームはセルフチェック用の質問も用意してくれてまして、以下の質問に、0(まったく当てはまらない)〜100(完全に当てはまる)で自己評価してみてください。

 

  1. 空想があまりにリアルで、現実から切り離されることがある
  2. 一日のうちかなりの時間を空想に費やしてしまう
  3. 退屈や孤独を感じると、自動的に空想に逃げ込んでしまう
  4. やめようと思っても空想をやめられない
  5. 勉強や仕事に取り組もうとしても、空想に引き戻されてしまう
  6. 空想が生活の優先順位を上回ってしまうことがある
  7. 空想が中断されると、怒りや苛立ちを感じる
  8. 空想中は「幸福感」や「充実感」を味わえるが、終わると罪悪感や虚無感に襲われる
  9. 空想の中の自分と現実の自分との差に落ち込む
  10. 空想のテーマは「理想的な自分」「完璧な状況」「誰かに愛される自分」が多い
  11. 繰り返し同じ空想のストーリーを展開してしまう
  12. 空想に登場するキャラクターや世界観を細かく設定している
  13. 空想のせいで、学業や仕事に支障が出ている
  14. 友人や家族との時間を削ってまで空想に没頭してしまう
  15. 実際の趣味や活動よりも、空想の方を優先してしまう

 

もしこれらの質問に強くYESと答えるなら、不適応的白昼夢の傾向があるかもしれません。もちろん、誰もが多少は空想を楽しむものですから、「ちょっと心当たりある」程度なら問題ないんで、あくまで 生活を侵食しているかどうか、が分水嶺だとお考えください。

 

白昼夢は人類共通の自然な心理ながら、「やめられない依存」になれば生活に悪影響を及ぼすのは間違いなし。ぜひ適応的な使い方ができるようにコントロールしてみてくださいませ。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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