40年前の「テニスマニュアル」にマインドフルネスの要点を学ぶの巻
40年前のマインドフルネス本
「新インナーゲーム」って本を読みました。もう40年以上も前に出た本で、著者はテニスインストラクターのティモシー・ガルウェイさん。
私のようなテニスをやったこともない人間がなぜ手にしたかと言いますと、名バスケ選手のスティーブ・カーがほめてたからです(1)。記事によれば、
カーはガルウェイのアドバイスを実践した。自分のプレイに評価を下すことを止め、代わりに思考を鎮めるように努めたのである。これは、現在「マインドフルネス」として知られる状態だ。
だそうな。スポーツにマインドフルネスを応用した人といえばフィル・ジャクソンが有名ですけど、それよりだいぶ前にたどり着いてた人がいたんだなー、と。
2つの自己に注意しよう
ってことで実際に読んでみると、「スイングはこう直せ!」みたいなことは一切書いてないのがおもしろいところ。全体的なアイデアはシンプルで、人間のなかには2つの自己が存在しているって前提からスタートしております。
- セルフ1:自分の行動をつねにジャッジする役割を持つ
- セルフ2:身体や神経系の集まりで本能的に動く
ガルウェイさんいわく、
問題なのは、セルフ1がセルフ2を信頼していない点だ。セルフ1がセルフ2にあれこれと指示を出すせいで、つい全身に力を入れすぎてしまう。
とのこと。スポーツ以外でも非常によくみられる現象かと思います。
カーネマンのシステム1とシステム2に近い考え方ですが、ガルウェイさんがこのアイデアに行き着いたのは禅の教えがベースになってるそうな。マインドフルネスの源流ですな。
セルフ1にまどわされずにポテンシャルを発揮するには?
その代わりにガルウェイさんがオススメする方法は、かなりマインドフル系の認知療法に似た内容になっております。具体的には、
1.緊張と戦ってはいけない
いくらセルフ1が「緊張するな!」と言っても、セルフ2は聞く耳を持ちません。どころか「緊張してる自分」に意識が向かっちゃって、逆にリラックスからは遠のいていくばかりなんですな。このあたりは、2014年の「不安を一瞬で打ち消す心理テク」って研究でも言われてましたね。
その代わり「緊張している自分」を認めたうえで、セルフ2と戦わないように努めたほうがいいよーとのこと。まさにアクセプタンスと同じことを言ってますね。
2.悪い習慣と戦ってはいけない
悪い習慣と戦うのも時間のムダ。習慣のパワーはハンパないので、セルフ1では太刀打ちできないできないとのこと。このへんは、近年の脳科学が言ってることと適合してますねー。
古い習慣と戦う必要はない。そのかわり、新しい習慣をスタートさせよう。あなたが行き詰まるのは、古い習慣に抵抗しようとするからだ。
ってことで、これまた近年に「習慣の力」(http://amzn.to/2swF8mi)などで盛んに言われるようになった事実かと思います。
3.外的な情熱と内的な情熱を区別する
外的な情熱ってのはセルフ1に動かされていて、他人の評価や報酬をモチベーションにした感情。いっぽうで内的な情熱はセルフ2が中心で、「テニスおもしろい!」って感情で動くパターン。どっちがいいかは言うまでもなくて、最近の研究(3)でも「外的な情熱は幸福と健康に結びつかない」って考え方が普通になっております。
といっても外的な情熱と戦うのもよくないんで、やっぱここでも自分のなかの感情をいったん受け入れたうえで、セルフ2が生み出す内的な情熱に意識を向けていくといいよー、とのこと。
4.緊急時はセルフ2に手綱をわたす
セルフ1は心配性なんで、目の前の危険にオロオロしちゃいがち。ああでもないこうでもないと考え出して、いっこうに適切なアクションが起こせなくなっちゃうんですな。心理学でいう「反すう思考」っすね。
こんなときはセルフ1の主導でオタオタするよりも、いさぎよくセルフ2を信じて主導権をわたしたほうが吉。 といっても、「なにも考えずに本能で行動しよう!」って意味ではなく、心配性のセルフ1がハマりがちな認知のゆがみにダマサれずに物事を見ようってことです。
メンタルの安定は、自分でコントロールできるものとコントロールできないものの区別を受け入れたときに発達する。
とのことで、もはや仏教の「智慧」に近い話になってますね。このへんも、近年の認知行動療法でよく言われることかと思います。
まとめ
そんなわけで、40年も前の作品ではありますすが、いまの知識をふくめて読み直すといろいろ面白い本でありました。
長らくマインドフルネス的な発想を実戦に使って成果をあげてきた人の話なんで、いまの人が認知行動療法や行動経済学のアイデアを現実に活かす際の参考にしやすいかと思います。どうぞよしなに。