ハーバード研究者「幸福なんか目指すより他にやることがあるだろう!」
「Emotional Agility(感情の敏捷さ)」って本を読みました。著者はハーバード大学のスーザン・デビッド博士で、タイトルどおり「ネガティブな出来事に負けないしなやかな感情を作るには?」みたいな問題を、ゴリゴリに科学的な視点から解き明かしております。
「幸福はいいものだ」と思うほど不幸になる
で、本書が良いのは、幸せについて書いた本のくせに、「幸福は追うな!」と言ってるとこでしょう。ラス・ハリスの「幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない」に近い話っすね。
博士いわく、
幸福に対して明確なゴールを持ってしまうと、私たちは逆に幸福ではなくなってしまう。日々の暮らしで起きるすべての落胆や、すべての障害、すべての悩みなどが、いずれも今の自分が十分に幸せでない証拠、または幸せへのチャレンジが失敗した証拠として解釈されるからだ。これはリアルな人生ではない。
とのこと。事実、これはかなりデータに裏づけされた話で、たとえば2011年のデンバー大学の実験(1)では、
- 参加者たちの半分に「幸福な人は健康だし人生にも成功するしでいいことだらけ!」と教える
- 残りの半分には「普通のニュース」などを読んでもらう
の2グループに分けて、その後で全員に「幸福な気分になれる映画」を見てもらったところ、事前に「幸福はいいことだらけ」と言われたグループのほうが幸福度が低下したというんですな、
同じような現象は2014年のデータ(2)でも確認されてて、235人の参加者を調べたところ、「人生には幸せが一番大事だ!」のように考えている人ほど、実際には幸福度が低い傾向があったとか。つまり、幸福に価値を置けば置くほど、実際には幸福から遠ざかって行くものなんだ、と。
不幸な時に幸福になろうと集中しても、結局は嫌な思考や感情を押さえつけているだけに過ぎなくなる。
ってことで、幸福になろう!と願うほど実際はネガティブな感情が抑圧され、かえってメンタルの悪化を招くわけっすね。これはわかるなぁ。
幸福を完全に忘れ去るための4ステップ
で、その代わりに博士が提唱するのが、以下の4ステップであります。
ステップ1. ショウイング・アップ
まず最初は、無理やり幸せになろうと気張らずに、現在の思考と感情を深掘りしていきます。どうせネガテイブな気持ちには抵抗してもムダなので、たとえば「上司にイラっときた!」と思ったら、
- なんで自分は怒ったのだろう?
- あー、自分を公平に扱ってくれなかったからだな
- ってことは、自分にとっては「公平さ」がすごい重要なんだな……
といった感じで、どんどん感情の意味を探って行くイメージ。確かに、無理にポジティブになろうと頑張るよりは、よほど実りが多そうな気がしますな。
ステップ2. ステッピング・アウト
続いて、自分をネガティブな感情や思考から切り離す段階。あくまでも感情や思考は「その場限りのもの」で、実際の自分とは関係がないって事実についてよく考えてみるステップであります。
これは、当ブログで過去に何度か紹介した「メタ認知療法」に近いので、詳しくは「ネガティブ思考は変えなくていい!ただネガティブ思考への反応を変えよう!」をご参照ください。
ステップ3. ホワイの確定
自分をネガティブな感情から切り離したら、今度は「自分の中の中心的な価値観(ホワイ)」 を掘り下げていきます。それも当然の話で、「良い気分」とか「幸福」を目指すのが逆効果にしかならないなら、あとは自分の価値観に従って生きるしかないですからねぇ。日々の指針を「幸福」じゃなくて「価値」に求めて行くわけですな。
このあたりの作業については、「幸福になるためのタスク管理法「パーソナルプロジェクト分析(PPA)」入門」などが参考になるかと思われます。
ステップ4. ムービング・オン
ってことで、ここまで来れば後は「価値観」にそって動くだけ。あくまで価値がベースなので、「幸福」を追ってたときよりも迷いが生まれにくく、モチベーションも続きやすいのがメリットであります。とはいえ、いきなりデカいプロジェクトに挑むと心が折れますんで、あくまで「ウソでもいいから前に進んでる感じを作る」のがポイントになってまいります。
まとめ
ってことで、以上がハーバード大学流の幸福探索テクニックでした。基本的な考え方は「ACT」によく似てまして、やっぱこういう考え方に落ち着くんだなーとか思いましたね。ちなみに博士いわく、
人生には傷や悲しみや不安が付いて回る。そして、もしこの世界において意味のある存在でいたいなら、人生のひとつの側面だけに集中するのは無理な話だ。逆にすべての側面に集中すれば、あなたはバランスが取れた人生を送れるようになる。
ってことで、「ネガティブな感情を嫌ってやるなよ!」というのが大きな結論になりましょうか。まぁわかっててもなかなかできないもんですが……。