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いじめ対策のベストはなんなの?って問題を調べたイェール大学などのレビュー論文のお話

  

「いじめ」は世界的な問題。ということで、イェール大学などの先生方が「本当に効くいじめ対策ってなんなんだろう?」ってのをまとめるレビュー(R)をしてくれておりました。いじめ防止の取り組みに関する数十件の研究を検討して、意味のある対策とない対策をより分けてくれてるんですよ。これはありがたいですねぇ。

 

 

まずはレビューで判明した大まかな前提から申し上げますと、こんな感じです。

 

  • 教育者が採用する「いじめ対策」の多くは研究で評価されておらず、同僚が使っているものを参考にしてプログラムを選ぶ傾向がある

 

  • いじめに罰則を定めてもほとんど効果は示されていない。これはゼロ・トレランス方式でも同じで、やっぱりいじめを減らす効果は低い(ゼロ・トレランス方式は、事前に細かい罰則を定めておき、いじめが起きたら厳密に処分する方法)

 

  • ピア・メディエーション(子供どうしのトラブルを子供たち自身で話し合って解決させる手法)には、逆にいじめを増やす可能性がある

 

  • 傍観者介入(いじめが起きてる状態を正しく認識し、問題が起きたら止めに入るようにうながすトレーニング)は、外向的で共感力一が高く、より高い社会的地位と道徳性を持つ人にしか有効ではない

 

というわけで、全体的に納得できる結論じゃないでしょうか。そもそも、いじめの加害者は自分が「いじめをしている」って認識がないケースが多いんで、罰則が効かないってのはいかにもありそうな気がするわけです。

 

 

では、「意味があるいじめ対策」には何があったかと言いますと、大きく2つが選ばれておりました。

 

  1. ポジティブな校風づくり
  2. 社会性・感情学習(SEL)

 

それぞれどういう意味かと言いますと、まず「ポジティブな校風づくり」はそのまんまで、みんなで協力しあえる雰囲気があったり、全員が「自分は学校に所属しているのだ!」って感覚があったりといった状態っすね。厳密な定義は難しいんだけど、とにかく学校全体の雰囲気がポジティブであるのが大事なんだ、と。

 

 

なかなか一朝一夕にはいかない感じがしますけど、ここでのポイントを、チームは以下のようにまとめております。

 

  • ポジティブな校風を築くには、とにかくリーダーシップが大事! そもそも指導者が「いじめは生涯にわたる傷を残す」事実を認識しているか? 「子供のおふざけ」と「単なる虐待」のあいだに明確な線引きができているか? すべての子供たちのメンタルヘルスを守るためのコミットメントがあるか? 悪い子供は罰すればいいと思ってないか? 子供たちに共感できているか? ここらへんができるリーダーじゃないと、ポジティブな校風は作れない!

 

ってことで、とにかくリーダーの重要性が強調されておりました。実に当たり前のような話ですが、実際には大半の教師が「いじめ対策についての指導を受けたことがない」と報告していて、生徒からも「教師の大半はいじめを見逃している」と苦情が出てるケースが多いんだそうな。こういったリーダーの重要性は、会社内でのいじめなんかも同じでしょうな。

 

 

でもって、もうひとつの「社会性・感情学習」(SEL)は、その名のとおり対人関係のスキルを学ぶトレーニングで、

 

  1. 自己の理解:自分の感情と思考を理解する能力
  2. セルフマネージメント:自分の感情と思考を適切にコントロールする能力
  3. 社会と他者の理解:どんな相手に対しても共感と理解を持つ能力
  4. 人間関係スキル:コミュ力や傾聴力、交渉力などを発揮する能力
  5. 責任ある意思決定力:社会的なルールに従って問題解決ができる能力

 

あたりを学ぶのが目的になってます。うーん、これは私も学校で学びたかった能力ばっかですね。

 

 

ちなみにSELにはすでに豊富な実証例があって、

 

  • 複数のメタ分析や数十万の生徒を対象とした個別研究により、SELを学んだ子供は幸福感が上がり、セルフコントロールが上手くなり、クラスでの人間関係が改善し、親切な行動が増える傾向が確認されている

 

  • あるメタ分析では、感情的な能力のトレーニングを行なった者はいじめの被害者になりにくいことが示されている。また、社会的な能力の発達は、いじめの加害者になる可能性を下げると報告されている。

 

  • 一部の縦断研究では、SELのトレーニングを受けた子供は、中年になってもポジティブな効果が持続していた(離婚の減少とか失業の減少とか)

 

といったデータが出てるそうな。確かにかなり有望そうだし、「ポジティブな校風を築く」よりも実行しやすそうっすね。

 

 

もちろん、以上の話はアメリカがメインなので日本にバチっと当てはまるとは言えないんですが、本邦でも検討してみる価値がありそうな結論ではありましょう。特にSELが提唱する5つのスキルはどんな文化圏でも役立つはずなんで、個人的にも受けてみたいなぁ。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。