このブログを検索

今週末の小ネタ:メンタルの病と脳サイズ、幼少期のトラウマと老化、抽象アートを見ると創造性が高まる?

Summary

ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。

 

 

 

メンタルの病で脳は大きくなるのか小さくなるのか

心理的な負担が脳に悪いのは常識ですが、具体的にどれぐらい脳のサイズに影響するのかを調べた研究(R)が出ておりました。

 

 

これは合計112件のデータを精査したメタ分析で、健康な成人4,911人とうつ病と診断された5,934人を比べて、メンタルと脳サイズの関係について精度が高めの結論を出してくれてます。その結果がどんなもんだったかと言いますと、

 

  • うつ病のみで他の合併症には悩んでいない人は、海馬の大きさが6.8%減少していた(海馬は記憶力や認知能力にも関わる脳のエリア)

 

  • 遅発性うつ病患者と複数回のうつ病エピソードを持つ患者ほど、脳の大きさが小さくなる傾向があった

 

  • うつ病と不安障害を同時に患っていた人では、扁桃体の体積が逆に大きかった(扁桃体は感情のコントロールに関わるエリア)。このような人の扁桃体の体積は、健康な成人に比べて平均3.6%も大きかった

 

だったそうです。うつ病だけだと脳のサイズが縮み、ここに不安障害が加わると扁桃体が大きくなるのではないか、と。

 

 

なんだか不思議な結果ですが、不安ぎみな人は常に警戒心を抱いてるせいで脳の感情エリアがいつも活動しており、結果として扁桃体が大きくなるのかも?ってメカニズムはありそうな気もしております。負の脳トレとでも言いますか。

 

 

もっとも研究チームいわく、

 

海馬のサイズ縮小はアルツハイマー病の危険因子であり、認知症の発症を加速させる可能性がある。この関係性は人生の後半でさらに強くなる。

 

ただし、うつ病は脳に多くの影響をおよぼすが、うつ病と不安が一緒になると、不安がその影響を覆い隠してしまうようだ。なぜそのようなことが起こるのか、あるいはどのようにして起こるのか、正確にはわからないが。

 

ってことなんで、以上の話はあくまで推論であります。とにかくメンタルの状態で脳サイズに違いが出るのは間違いなさそうなんで、注意しておきたいところですねぇ。

 

 

 

幼少期の辛い体験が細胞レベルで人間を老けさせる

もうひとつこちらも暗い話なんですが、「虐待や暴力を受けた子供は老化が早くなる」という辛いデータ(R)が出ておりました。

 

 

これは「脳とトラウマ」に関する先行研究から54件を抜き出し、116,010人分のデータをまとめたもの。その結果、幼少期に辛い体験をした人たちには以下のような傾向が見られたんだそうな。

 

  • 思春期に入るスピードが速い
  • 細胞レベルで老化が加速する
  • 大脳皮質の厚みが小さくなる(社会的・感情的な処理に重要なエリア)
  • 特に幼少期の暴力やトラウマは大脳皮質を小さくする
  • 幼少期の貧困やネグレクトなどは認知と感覚の処理を司るエリアのサイズ減少と相関していた

 

研究者いわく、

 

幼少期の逆境は、人生の後半における健康レベルを予測する強力な因子だ。ここには、うつ病や不安のような精神の健康だけでなく、心血管疾患、糖尿病、癌のような肉体的な健康もふくまれる。

 

今回の研究は、暴力の体験は、肉体の生物学的な老化スピードをアップさせる可能性を示している。

 

とのこと。うーん、これは辛い結果っすね……。

 

 

現時点では、これらのネガティブな影響を心理療法で解決できるかはわかってないんですけど、とりあえず幼少期の傷はできるだけ早いうちにやわらげといた方が良さそうではあります。

 

 

 

抽象アートを見ると創造性が高まる……かも?

抽象画と言われると「意味がわからんもの」の代名詞のようにとらわれがちですが、新しい研究(R)は「ヒトの脳は抽象系のアートに独自の反応を示す」って結論になってておもしろかったです。

 

 

これは完全にオンライン上で行われた調査で、840人の参加者に4人のアーティストの作品を見てもらい、

 

  • これらの作品を展覧会に出すとしたら何年後だと思うか?
  • その展覧会の場所はどこだと思うか?

 

ってあたりを尋ねたんだそうな。ここでサンプルに使われたアーティストは、マーク・ロスコ、ピエト・モンドリアン、チャック・クローズ、クリフォード・スティルの4人でして、いずれも現代アートの大御所っすね。

 

 

でもって、ここからどんな傾向が確認されたのかと言いますと、

 

  • 作品の抽象レベルが高くなるほど、みんな「遠い未来」と「遠い場所」を想像する傾向が強かった

 

だったそうです。つまり、具体的なオブジェが描いてある作品は「近所で明日の展覧会」をイメージしてるのに対し、抽象画に対してはみんな「外国で10年後の展覧会」をイメージしたんだそうな。

 

 

って、この結果の何がおもしろいのかわかりにくいのかもしれませんが、昔から心理学の世界では「心の中で感じる時間や空間の距離が遠くなるほど想像性が高まる!」ってことがわかってるんですよ。「最高の体調」でも取り上げたポイントで、専門的には心理的距離などと呼ばれているポイントですね。

 

 

つまり、上記の結果を敷衍してみると、

 

  • 良いアイデアが欲しいときは抽象画を見ればいいのでは?

 

って結論になるわけっすね(この研究の本目的からは離れた話になっちゃいますが)。まぁマーク・ロスコとかは見てるとぼーっとした気分になるので、なんかありそうな気もするんですけども。


スポンサーリンク

スポンサーリンク

ホーム item

search

ABOUT

自分の写真
1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

INSTAGRAM