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「理想的な人生を送る方法」についてイエール大学の一流心理学者はどう考えているのか?を見てみましょう



スイート・スポット」って本を読みました。著者のポール・ブルーム博士はイエール大学の心理学教授で、「反共感論―社会はいかに判断を誤るか」や「喜びはどれほど深い?: 心の根源にあるもの」で有名な先生ですね。

 

 

本書は「人間の幸福とはなにか?」って問題を深堀りしたもので、その内容をひとことでまとめると、

 

  • 意味のある人生を送るためには、結局のところ苦しみは避けられないし、それどころか絶対に必要なものだよねー

 

って感じになります。幸福というと、つい「好きなことを好きなようにやるぜ!毎日が楽しい事ばかりだ!ウェーイ!」みたいな状態をイメージしがちなんだけど、実際にそんなことは不可能だし、そもそも人間の幸福には「苦しみ」が必要なんだって話ですね。

 

 

不老長寿メソッド」に書いたホルミシス仮説に近い問題意識ですし、個人的にもここ数年「高級レストランとかブランド品とかリゾート地とかテンションが上がらん!結局は苦しんで本を一冊書いたほうが楽しいんだよなぁ……苦しいけど……」という思いを強くしてたんで、我が意を得た気分になりました。

 

 

では、ブルーム先生がどんなことを言ってるのか、以下にざっくりまとめてみます。

 

 

  • 多くの人は「人間は快楽主義者だ!」と思っており、楽しい時間を最大化しようとしてがんばっている。その仮定では「苦しみ」もあるが、これはあくまで最終的には自分の欲しいものを手に入れるためで、そりゃあ「苦しみ」なんてないほうがいいよねー、と感じている。

 

 

  • ところが、実際には人間が自ら「苦しみ」を求めるケースは少なくない。ホラー映画でぐったりしたり、熱いサウナに耐えたり、山に登ったり、悲しい歌を聞いたりと、自分から不快な経験を求めていくことはよくあることである。これは「苦しみなんてないほうがいいよねー」という考え方とは相容れない。

 

 

  • 人間が自ら苦しみを求めるのは、ポール・ロジン教授が「良性マゾヒズム」と呼ぶ心理が関わっており、これは痛みと快楽はニコイチだという事実を示した考え方である。私たちの脳は「違いを生み出す機械」であり、すべての経験は出来事のコントラストをもとに処理される。

    たとえば、熱いサウナに入っておけば温度が下がったときに至福がおとずれるし、辛いものを食べるとシンプルな水でも幸福感を得ることができる。つまり、私たちが幸福を得るためには、苦痛によって体験のコントラストを最大化する必要がある。

 

 

  • 経済学者のタイラー・コーエンが言うように、「人間の生活の幸せは、何か一つの価値に集約されるものではない」。快楽が幸福のすべてではなく、基本的に人間はいろいろな動機に喜びを抱き、正義、公平さ、美しさ、慈悲など、さまざまな価値に動かされる。

 

 

  • たとえば、快楽とならんで私たちに幸福をもたらすものとしては「意味」がある。意味を求める気持ちは、楽しい時間を過ごしたい、喜びの感情を味わいたいという気持ちと同じくらいの重要性を持つ。

    フランクルの結論どおり、人生に広い意味を持つ人間はナチスの強制収容所を生き延びる確率が高く、ニーチェの「生きる理由を持つ者は、ほとんどどんなことにも耐えられる」という言葉は、人間のモチベーションの複雑さと豊かさをよく表している。

 

 

  • そして、「意味」の感覚にもまた「苦しみ」が大きな役割を果たす。たとえば、子供を持つことは大変な労力をともなうが、それでも自分の選択を後悔する人は少ない。これは、自分が払った犠牲や苦しみが人生の意味を向上させているからだと考えられる。そもそも簡単なプロジェクトに意味を感じられるはずがない。

 

 

  • 実際、「自分の人生には意味がある」と答える国民が多かった国は、貧しくて生活が困難な国である傾向が強い。これは豊かで安全な傾向のある幸福な国とは異なる傾向である。

    また、人々に「最も意味がある仕事」と尋ねると、医療従事者や聖職者のように、他人の痛みに対処する仕事を答えることも多い。これらの事実は、やはり意味と苦しみがニコイチであることを示している。

 

 

  • 心理学の世界には、「努力のパラドックス」という言葉がある。私たちの多くは、通常は「努力を減らして楽をしたい!」と考えるが、実際には「努力の総量」が幸福感を高める傾向がある。これは心理学の古典的な知見のひとつで、私たちが抱く価値の感覚は努力をすればするほど高まりやすい。つまり、将来に報われるために努力するのではなく、そもそも努力をしないと人間はものごとに価値を感じることができないように設計されている。

 

 

  • ハーバード・ビジネス・スクールの研究では、一連の実験により、私たちは自分が作ったものを好むということを発見した。これはIKEA効果と呼ばれるもので、「私たちは労力をかけたものに価値を感じる」心理を意味している。

 

 

  • それにもかかわらず、私たちは「見栄え」や「金儲け」のような外発的なモチベーションに幸福を求めようとする傾向もある。これは人間が目の前のものごとを追いかけるように進化したため、「意味」などの長期的な幸福の価値を重く見ないバイアスがあることによっていある。

 

 

  • この問題を避けるためには、もしその選択に関わっているのが自分ではなく「第三者だったらどうするだろうか?」と自問することである。「第三者だったらこの場面で正しい行動は何だと考えるか」と自問するだけでも、バイアスから逃れることができる。

 

 

  • また、「幸福になるぞ!」とがんばることは、鬱、不幸、不安と相関関係がある。そのため、幸せになりたければ、幸せになろうとしないで他のことを追求したほうがよい。

 

 

  • つまり、人生の「スイートスポット」とは、喜びと意味、楽しい時間と苦しみのバランスを適切に取ることができる理想的な位置のことを意味する。理想的な人生とは、スイートスポットを見つけることだと言える。

 

 

  • 最後に、人生に意味をもたらすプロジェクトには一定の特性がある。すなわち、社会的な意義があり、他人に影響を与えることができ、長い時間をかけて行われ、物語として語ることができるようなものである。幸福を目指すのであれば、このようなプロジェクトを考えた方がよい

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。