今週半ばの小ネタ:好きな音楽で頭が良くなる?人間、実は150歳まで生きられる?腸内細菌が人間の性格を決めてる?
ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
好きな音楽を聴くだけで頭が良くなるんじゃないか説
「モーツァルトを聞くと頭が良くなる」みたいなのはすでに否定されて久しい話ですけど、トロント大学などから「好きな音楽を聴くと頭が良くなるぞ!」って話(R)が出ておりました。
まず簡単に実験の内容を説明しておくと、
- 14人の参加者(非ミュージシャン8人とミュージシャン6人)を集める
- 自伝的な音楽を厳選したプレイリストを作り、3週間かけて1日1時間ずつ聴いてもらう
- 音楽を聞く前後に脳スキャンを行い、脳機能と構造の変化を調べる
- 脳スキャンのあいだ、参加者には自伝的な音楽とそうでない音楽の両方を聴く
みたいになります。「自伝的な音楽」ってのは耳慣れない言葉ですけど、簡単に言うと「個人的に意味が大きい音楽」のことです。たとえば、「思春期のころに死ぬほど聞いた!」とか「結婚式で使った!」とか「落ち込んでたときに救われた!」みたいな感じのことです。誰でもそんな曲はいくつかございましょう。
で、どんなことが確認されたかといいますと、
- 最近の新しい曲を聴いたとき、脳活動は主に聴覚皮質で起こり、音楽の経験に経験に集中していることがわかった
- 参加者が昔から知っている音楽を聴いたときには、前頭前野のネットワークに活性が見られ、実行的認知の関与が明らかに示された。
だったそうです。わかりづらい表現ですが、簡単に言えば「自伝的な音楽を聞いているときは、人間はいろんな脳のエリアが活性化する」ってことです。特に自伝的な音楽ってのは、実行機能(計画、計算、抑制の制御)に関係するエリアを含む広い領域を活性化してまして、こりゃあ期待できるのではないか、と。
研究チームいわく、
音楽家であろうとなかろうと、音楽はあなたの記憶、つまり前頭前野へのアクセスキーなのだ。単純なことですが、ずっと好きだった音楽を聴き続けることだ。ずっと好きだった曲、自分にとって特に意味のある曲、それが脳内をジムにしてくれる。
とのこと。まー、ほとんどの脳スキャン研究と同じようにあくまで小規模な研究なので、これだけでは判断しづらいところがありますけど、好きな曲を聞くだけでも脳が活性化するんじゃないかってのは楽でいいっすね。
人間、実は150歳まで生きられるんじゃないか説
いまんとこ人間の活動限界は「どんなに頑張っても120ぐらいがギリ!」ってのが定説だったりします。最大寿命(人が到達し得る最大の年齢)の推定ってのは難しいんですけど、実際、過去のご長寿さんでも122歳までがマックスなので、このあたりを超えるのは難しいのかなーって印象なわけです。
ただ、近ごろGERO.AIなどのチームが、「人間って150歳まで生きられるんじゃない?」って話(R)を出してておもしろかったです。これはコンピューターモデルを使った研究で、
- 85歳までの7万人以上の被験者から血液を採取して、血球数の短期的な変化を調べる(白血球の数は体内の炎症(病気)の度合いを、赤血球の量は心臓病や脳卒中のリスク、記憶障害などの認知機能障害を示すことができる)
- その後、これらのデータを単純化してDosi(Dynamic Organs State Indicator)という老化の指標を作る
- 参加者全体のDosi値の変化から、誰が加齢による病気にかかるか、その個人差はどの程度かを予測し、加齢に伴うレジリエンスの低下をモデル化する
みたいになってます。なんだかムズいですけど、とりあえず血液の老化に関する指標をもとに、病気の発症率モデルを作ったんだなーぐらいにお考えください。
で、その結果わかったのは、
- 健康状態や遺伝的要因に関係なく、すべての人が 150 歳でレジリエンスが完全に 失われると予測される
だったそうです。あくまで人間の理論的な寿命はこれぐらいなのではないか、と。
もちろん、この数値は「科学のブレイクスルーが起きる!」とか「新たな治療法が見つかる!」みたいな予測は組み込んでないので、もしかしたらさらに寿命が伸びる可能性もなくはないんですけど、なかなか期待ができる結果じゃないでしょうか。
腸内細菌が人間の性格を決めてるんじゃないの?説
人間の性格を左右するものはいろいろありまして、生まれつきの遺伝子だったり、育った環境が影響したりといったことが考えられるわけですけど、クラークソン大学などの最近の研究(R)では、「腸内細菌も人間の性格を決めてるんじゃないの?」って話になってて「ほほー」って気分になりました。
まず研究チームのコメントを紹介しておくと、
私たちは腸と脳の繋がりについてまだ学んでいる最中だが、今回の発見にもとづけば、腸内細菌と個人のエネルギーレベルと疲労の間に繋がりがある可能性を見ることができる。
ってことで、腸内細菌ってのは私たちが感じる「活力」とか「イキイキした感じ」みたいなのも左右しており、その結果が性格特性の違いとして表面にも現れるんじゃないか?みたいな話です。
これは身体的に活発な成人20人を対象にしたテストで、みんなの腸内細菌を調べつつ、これを全員の以下の特性と比べたんだそうな。
- 精神的エネルギー(ME)
- 精神的疲労(MF)
- 身体的エネルギー(PE)
- 身体的疲労(PF)
すると、それぞれの腸内細菌の質とメンタル状態には大きな違いがありまして、
- 明確な細菌が、特定の性格特性と関連していた
- なかでも代謝機能に関わっている細菌は、エネルギーに関する感覚と最もよく相関していた
- 炎症に関連する細菌は、疲労感に関する感覚と最もよく相関していた
だったんだそうな。研究チームいわく、
以前の研究では、エネルギーの感覚が代謝のプロセスと関連し、疲労の感覚が炎症のプロセスと関連すると報告されている。今回の研究は、これと同じ知見をサポートするものだ。
我々はまだ腸内マイクロバイオームについて学んでいるので、もし性格特性が変わったから腸内マイクロバイオームの変化が見られるのか、あるいは腸内マイクロバイオームが変わったから性格特性も変わるかもしれないのかは分からない。
とのこと。あくまで小規模な調査なんで謎も多いものの、体内の代謝が「イキイキした感覚」につながり、体内の炎症が「疲れた感覚」につながるってのは、いかにもありそうな気がするわけです。そう考えると「私はテンションが低い性格だから……」と思っていたら、本当はそれが腸内細菌による代謝が乱れてるだけだったりする可能性もあるんでしょうな。