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有酸素運動で記憶量が上がる!……が、その効果を得られる年齢にはリミットがあるかもしれない


  

運動は脳に良い」ってデータは山ほどあるわけですが、まだよくわかってなかったのが「エピソード記憶についてはあんま効かないのでは?」ってポイントであります。

 

 

エピソード記憶っては、過去の個人的な経験を思い出す能力のことで、歳をとるとまず最初に失われる能力などと言われてたりします。有酸素運動ってのは、その他の記憶や情報処理力などにはメリットをもたらすんだけど、過去の研究だと「運動と過去の経験を思い出す能力の向上にはあまり相関がない」って結論が多かったりするんですよ。一般に、エピソード記憶を回復させるのは難しいとされてまして、これが事実だとすれば、我々は歳を取って思い出が消えていくのを見守るしかないって話になりまして、なんとも切ないところなんですよね。

 

 

では、実際のところはどうなのかってことで、新たにメタ分析(R)が行われておりました。これはピッツバーグ大学などの調査で、平均年齢が55歳未満で認知症の診断を受けていない男女を調べた先行研究で、最終的に36の文献から合計2,750人のデータをまとめてます。

 

 

それでどんな結果が出たかと申しますと、

 

  • 有酸素運動は、認知症と診断されていない55歳以下の男女のエピソード記憶を改善することが示された。その効果は、認知機能が正常で、軽度の障害がない人ほど効果があり、男性よりも女性の方がより恩恵を受けやすい

 

  • 「エピソード記憶を改善するためにどれぐらいの運動をすればいいのか?」という問題に答えるのは超難しいが、おそらくエピソード記憶の改善に必要な最小限の運動時間は3,900分だと思われる

 

だったそうです。3,900分の運動ってのは、1回50分の有酸素運動を週に3回ずつ、これを26週間ほど続ければOKって感じでして、昔からWHOが言っている「週150分の適度な有酸素運動をしましょうねー」ってガイドラインと同じっすね。

 

 

まぁ、ここで取り扱ったデータはいずれも研究の質がバラバラすぎるので、「どんな運動をどれぐらいすればいいのか?」ってポイントについては、まだまだ今後の研究でズレが出てくるかもしれないってあたりはご留意ください。では、なんで一部には「運動はエピソード記憶に意味がない」って見解もあるのかと言いますと、

 

  • 55歳を過ぎてから運動を始めると、エピソード記憶には影響が出づらくなるのでは?

 

ってことなんでしょうな。逆に55歳未満であれば認知機能に影響を与える時間がまだ残っているのかも?ってことでして、エピソード記憶の改善にはタイムリミットがあるのかもですなぁ。

 

 

研究チームいわく、

 

(身体活動は)気分を向上させ、記憶に良い影響を与えることができる。特に高齢者集団において、運動は海馬の構造と機能にプラスの影響を与えるようである。 有酸素運動は、海馬に良いとされるいくつかの脳内物質の放出や効果を増加させる

 

とのこと。海馬ってのはエピソード記憶に重要な役割を持っていて、自分自身の人生を思い出したり、記憶を文脈の中で整理したりと、脳の記憶の司書みたいな機能を果たしております。マドレーヌで過去の記憶が出てくる時などは、海馬が働き出してることが多いわけですね。

 

 

ただ、海馬ってのは、他の脳のエリアよりも歳を取って劣化しやすいと言われてるのが困りもの。普段から意図的に心拍数を上げて酸素摂取量を増やしておかないと、歳を重ねるにつれて海馬の灰白質のサイズと機能がどんどん低下していっちゃうんですよ。

 

 

そんなわけで、歳を取って思い出がどんどん失われていく前に、ぜひ週150分の軽い有酸素運動を心がけておきたいっすねぇ(35から運動を習慣にしといてよかった……)。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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