プチ断食をしてたら気分が良くなる!ってのはどういうことなの?
こんなご質問をいただきました。
いまは定期的に16時間断食をしています。そこで気になったのが、たまにやたら気持ちよくなることです。お腹が空いた時間が続くと、たまに気分があがる感じになるのですが、これはいいことなのでしょうか?体に害があるなら怖いのでやめようと思います。
ということで、断食で気分が良くなることがあるが、これは果たして良いことなのか、それとも悪いことなのか、と。
で、前提として、「そもそも断食で気持ちよくなることはあるの?」ってとこから始めるべきでしょうが、これについては、
- あります!
ってのがお答えになります。正直、私はプチ断食で多幸感を味わったことはないんですけど、このご質問者さんと同じような体験をしたって報告はわりと多いんですよね。
代表例としては、ニューサウスウェールズ大学のアンドリュー・J・ブラウン先生による2006年の総論(R)が有名で、「断食と低炭水化物ダイエットって気分の高揚をもたらすのでは?」と提案しておられます。どうやら、一時的にカロリーや糖質を減らすことにより、多幸感的なものを得られるケースは多いみたいなんすよ。
では、こういった気分の変化がなぜ起きるのかと言いますと、ブラウン先生は「脳のエネルギー源としてブドウ糖に代わるケトン体が使われるからでは?」と推測しておられます。先生いわく、「このケトン体の一つであるβ-ヒドロキシ酪酸(BHB)は、悪名高い乱用薬物であるGHBの異性体である」ってことなんですな。
GHBってのは、過去に合成麻薬として日本でも話題になった物質で、もともとは麻酔薬として開発されたんですが、酒と幻覚剤をまとめて飲んだのに似たような作用を得られると話題になりまして、多くの国で規制されたんですよ。でもって、断食の際に体内で作られるBHBが、これと似たような働きをするんじゃないか、と。おもしろいですねぇ。
また、ほかにも断食がセロトニンやドーパミンといった神経伝達物質に影響を与えるって報告も少なからずありまして、脳への影響は十分ありえるんじゃないでしょうか。考えてみれば、世界の主要な宗教の多くでも「断食で神とつながった!」みたいな報告を効くことが多いんで、これもまた神経伝達物質の変化によるものかもしれんですな(ネイティブアメリカンの「ビジョンクエスト」なんかもそうですよね)。
その意味で、断食で気分が良くなることはあると思われますが、これが良いのか悪いのかと言われれば「場面による」としか言いようがないんじゃないでしょうか。と言いますのも、
- 断食による気分の改善が、人間のネガティブ感情を改善してくれる可能性はある。実際、オランダの研究者による2021年の報告(R)では、「6ヶ月間のプチ断食で、不安や抑うつなどの状態が改善された」と報告してたりする。
- ただし、いっぽうではプチ断食で気分が改善することにより、これが拒食症の行動を強化してしまう可能性も指摘されている。食事制限で気持ちの良さを味わうことで、食べ物を控えることが本質的な報酬になってしまうからである。
っていうメリットとデメリットがどちらも言われてるからなんですよ。もちろん、「ちょっと健康になれればいいなー」ぐらいの気持ちでやるぶんにはいいんですけど、「体型改善のために断食を徹底せねば!」みたいな気持ちで取り組んでいた場合は、もしかしたら拒食に近いメンタリティを育てる一因になっちゃうかもしれないなーってところです。
まぁこれについては、本人の姿勢によってどっちにも触れますんで、あくまで気楽な気持ちで取り組んでいただければいいんじゃないでしょうか。