今週半ばの小ネタ:AGEsで脳の働きが下がる? 数字が得意な人は人生ウハウハ? 自分のストレスは素直に出した方が好かれる?
ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
AGEsで脳の働きが下がっちゃうんじゃないの?
AGEsもすっかり有名になりまして、「やっぱり老化の大敵だ!」って印象がいよいよ強まってきた昨今です。AGEsってのはタンパク質と糖が熱でくっついた物質で、かなり毒性が強いことがわかってるんですよね。
でもって、新しく出てきたコホート研究(R)もAGEsの話でして、まず結論からまとめると、
- AGEsが多い食事ばっかしてると、脳の働きが遅くなるぞ!
みたいになります。これは3年間のコホート研究で、「食事から大量のAGEsを摂取している高齢者は、認知機能が低下するスピードが速くなっちゃうぞ!」って結論ですね。
簡単に言えば、揚げ物とか焼き肉みたいにAGEsたっぷりな食事を続けていたら、高齢者の認知機能が下がってしまうよーって話でして、「AGEsは健康に良くない!」って証拠は増えているものの、食事から摂取したAGEsが脳に果たす役割はまだよくわからないので、実にありがたい研究だと言えましょう。
この研究は、健康な高齢者(75~90歳)684人を対象にしたもので、食事から摂取したAGEsと認知機能の関係をチェック。具体的には、
- エピソード記憶(個人的な出来事や経験の記憶)
- 意味記憶(世界に関する一般的知識)
- 作業記憶(情報を一時的に保持する)
- 知覚速度(一致する項目を素早く識別する能力)
- 視空間能力(物体間の視覚・空間関係を識別する能力)
っていう5つの認知機能を測定してまして、これを食事のAGEsと比べたらしい。そこでどんな結論が出たかと言いますと、
- AGEsの摂取量が多いほど認知機能が低下するスピードが速くなり、主にエピソード記憶と知覚速度の低下が大きかった
- ただし、意味記憶、作業記憶、視空間領域は影響を受けていなかった
だそうで、これらの結果は、年齢や運動などの因子を調整した後でも維持されたらしい。もちろん、この研究では因果関係はわからんし、体内のAGEsに対する代謝性AGEsと食事性AGEsを分離するのはほぼ無理だしで、このデータだけでは何も確定的なことを言えなかったりします。そこはご注意ください。
とはいえ、AGEsの毒性は間違いないとこなんで、あらためて「揚げ物とかバーベキューは控えたいもんですなぁ…」って気分にさせられますね。
数字が得意な人は収入が多いし生活満足度も高いしでウハウハだ!
その昔、「生まれつきの天才は人生がイージーモード」なんて話を書きましたが、新しい研究(R)でも「生まれつき数字に強い人は収入も多いし、そのおかげで自分の人生への満足度も高くなるよ!」って結論が出てておもしろかったです。数字的な知能(数学の概念を理解して、これを実際に日常の問題に使える能力)が、人生の満足度を高めてくれるんじゃないか?ってことですね。
研究チームいわく、
数字は日常の判断や選択を向上させるための情報を伝え、そこに意味を与えてくれる。そのため、数字に強い人は、より多くの情報を理解し、優れた判断や選択をすることができる。
とのこと。確かに、世の中の問題をちゃんと確率思考でとらえることができれば、いろんなトラブルに強くなるでしょうなぁ。
でもって、これは南カリフォルニア大学が実施した調査データを使った観察研究になっていて、2014年にデータ収集をスタート。アメリカに住む男女5,525人を調べ、みんなの年齢、学歴、収入などを調べたうえに、客観的な数字の能力と言語的な知能を測定したんだそうな。
これに加えてビッグファイブで全員の性格も調べて、最後に「あなたは自分の収入にどれぐらい満足してますか?」「自分の人生にどれぐらい満足してますか?」ってのを尋ねて、すべてのデータをまとめたらしい。その結果をまとめると、以下のようになります。
- 数字に強い人ほど収入が高く、学歴が高く、言語の知能も高い傾向があった。
- また、数字に強い人は収入への満足度が高く、生活への満足度も高い傾向があった。
- 個人の収入の多さを予測するために最も正しい指標は、教育レベル、数字的知性、言語的知性の3つだった(これらの変数は所得の分散の25%を占める。ちなみに、ビッグファイブは3.4%しか占めなかった)
- 数字の能力が最も低い人と最も高い人の収入を比べた場合、学歴や性格にかかわらず、年間約36,000ドルも収入の差があった。
ということで、数字に強い人は人生ウハウハとでも申しますか、なんとも良いことだらけだなーって感じがするわけです。さらに、数字に強い人は、学歴やその他の認知能力にかかわらず、長期の失業におちいる可能性も低い傾向があったそうで、人生のトラブルにも強いら悪しい。うーん、うらやましい。
研究チームいわく、
要約すると、我々が分析したデータは、客観的な数字の能力の高さが、収入のアップを通じて人生の評価に間接的な影響を与えたことを示唆している。
とのこと。あくまで因果関係はわからない話ではありますけど、過去の研究でも「数字に強い人は人生がイージーモード!」って報告は多いので、数字に慣れておいて損はないでしょうねぇ。
自分のストレスは素直に出した方が好かれるのでは?
「ストレス行動で他人からの好感度が上がるぞ!」みたいな研究(R)が出ておりました。ストレス行動ってのは、イライラした時に顔を触ったり、唇を噛んでみたり、頭をかいたり、ペンをぐるぐる回したり……みたいな行動のことです。
これらはすべて、ストレスのコントロールに役立つと考えられてるんですけど、なんでこういった行動が進化のプロセスで生き残ってきた理由はよくわかってなかったんですよ。いずれも客観的に見れば「謎の行動」としか言いようがなく、なんでこんなワケがわからない行動でストレスが減るのかは謎だったんですよね。
ということで、この実験において、研究チームはこんなことを言っておられます。
ストレス行動によって、他者からのポジティブな社会的な相互作用が得られるのであれば、これらの行動は進化の過程で選択される可能性が高いと考えられる。このような弱さを伝える行動が、人類が進化できた理由かもしれない。
つまり、ストレス行動によって、私たちは「自分はいま困ってます!」って弱みを周囲に伝えることになり、これが他者の「助けたい!」って気持ちをかき立てるのではないか?みたいな話です。
そこで研究チームは、31人の参加者を集めてストレステストを指示。審査員の前で短いスピーチを行わせ、それと同時に計算作業も行わせて、激しいストレスを与えたんだそうな。これに加えて、100人以上の参加者を評価者として募集し、10種類の動画を視聴してもらった上で、その動画に出てきた人物にどれぐらい好感を持ったかも評価させたらしい。
すると、結果は研究チームの予想どおりでして、
- 強いストレスを感じている人ほど自然とストレス行動が増える傾向があり、周囲の人もそれを正確に判断できた
- ストレス行動が多い人ほど好感度が高いと評価された
って感じだったそうです。やはり、自分が感じているストレスは、ガンガンに表に出した方が好感度は上がる可能性があるんじゃないか、と(もちろん、イライラを前面を出したら嫌われるだけなので、あくまで相手が「この人は弱みをさらけ出している!」と感じるようなストレス表現が重要になるだろうとは思いますが)。
ちなみに、この研究では、同時に以下のような知見も得られております。
- 他人のストレスレベルを正確に評価できる人ほど、ソーシャルネットワークも大きい傾向があった。
- しかし、他人のストレスレベルを読む力が高すぎる人は、逆に社会的なつながりが少なくなっていた。
要するに、他人のストレスをそこそこ読み取れる人は、相手を助ける可能性が高まるため社会的なつながりが増えるが、読み取りの精度が高すぎると自分もストレスをもらってしまい、逆に社会的なつながりは減るのかも?ってことですね。これも面白い結果ですね。
研究チームいわく、
「弱さ」の正直なシグナルが、競争的ではなく、協力的な意思の表現になるのかもしれない。過去にも「感情表現が豊かな人ほど他人から好かれる」傾向が認められていたが、この理解と一致する。
とのこと。自分の弱みを正直に出せる人ほど好かれるのは昔から言われてきたことですが、これはストレスについても言えるんじゃないか?って意見ですね。これは確かにそうですなぁ。