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今週半ばの小ネタ:セロトニンってうつ病と無関係? グルテンフリーって無意味? 「読み書きが苦手!」な人にはすごい能力が?


ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。 

  

 

 

セロトニンはうつ病の原因にならない!説

過去半世紀にわたって、うつ病の原因だと言われてきたのが「セロトニン」。セロトニンは精神を安定させる物質として知られ、こいつの濃度が脳内で減っちゃうと、うつ病の症状が現れるってのが基本的な考え方であります。なので、抗うつ剤なんかも脳のセロトニン濃度を上昇させるように設計されてますよね。

 

 

ところが、最近になって「うつ病のセロトニン仮説って間違じゃね?」って話が増えてまして、たとえば2022年のアンブレラレビュー(既存メタ解析をまとめた論文)(R)では、セロトニンとうつ病の関連についていくつかの証拠を検討したうえで、

 

  • セロトニン研究の主要分野では、セロトニンとうつ病の間に関連性があるという一貫した証拠はなく、セロトニン活性または濃度の低下によってうつ病が引き起こされるという仮説を裏付けるものはない

 

と結論づけておられます。過去にも個々の分野の系統的なレビューはあったものの、この研究みたいに、すべての異なる分野のエビデンスを統合したものはなかったんで、貴重な知見だと申せましょう。

 

 

念のため、その他の知見をいくつかピックアップしておくと、

 

  • うつ病の人とそうでない人の間を調べた研究では、血液や脳液中のセロトニンの濃度は違いがなかった。

 

  • ある研究では、うつ病の人ではセロトニン活性が高まっているという、セロトニン説の予測とは逆のことが示唆されている。

 

  • 最新の10件の研究のサンプルによると、脳内のセロトニンレベルを人為的に下げても、数百人の健康なボランティアにうつ病は発生しないことがわかった。

 

  • 抗うつ薬が効く理由はよくわからないが、もしかしたら単なるプラセボか、抗うつ薬が感情を麻痺させることによって効果を発揮するのかもしれない。

 

みたいになります。もちろん、これだけで「うつ病とセロトニンは無関係だぜ!メーン!」みたいにはならないですが、思ったよりもセロトニン仮説はボロボロな状態なんすね。とりあえず、「うつ病の原因は脳内化学物質の不均衡である!」って考えは、あんま信頼度がない仮説に過ぎないことは覚えておくとよさそうっすね。

 

 

 

グルテンフリー、健康な人にはやっぱ意味がない説が出てた件

グルテンフリーって意味あるの?って問題はまだ議論が続いてて、個人的には「グルテンに過敏じゃないと意味がないのでは?」と思ってますが、「グルテンフリーで健康に!」って声が多いのも事実ではあります。

 

 

で、新しい研究(R)は、「健康な人がグルテンをたくさん食べたらお腹の調子は悪くなるの?」ってとこを調べてくれてて参考になりました。これは5,115,265人の人間を追跡した調査で、IBDやセリアック病がない人を追いかけたうえで、グルテンの摂取量との関係を調べたところ、

 

  • グルテンを摂取してもお腹の調子の悪化とは関係しなかった

 

って結論だったそうです。つまり、もともとグルテンに体が弱い人だと問題があるんだけど、それ以外の人がグルテンを減らす意味ってないんんじゃないの?ってことですね(ことお腹の調子については)。

 

 

ちなみに、その他の知見としては、

 

  • グルテンペプチドが血流に入り、全身性の炎症を引き起こすと主張する書籍もあるが、最近の研究では、セリアック病でない限りこの主張は誤りであると思われる。グルテンペプチドが腸管内腔から血中に移行する量は極めて少ない。

 

  • さらに、これらのペプチドは血中に到達すると、ペプチダーゼによって急速に分解され、生物学的活性を全く失ってしまう。

 

  • また、多くの書籍やウェブサイトでは、グルテンによって体重が増えると主張しているが、最近の研究(R)では、グルテンペプチドが脳の食欲制御中枢に影響を与えたり、体のエネルギー消費量を変化させるという証拠はないと結論づけている。

 

  • 実際、太り過ぎの人を調べた調査でも、体重と小麦の消費量とは無関係だとの結論が出ている。同様に、グルテンの消費量とBMI(体格指数)にも関連がない。

 

というわけで、現時点でいろんな文献をまとめてみると、グルテンに敏感でない限り、やはりグルテンフリーにこだわる意味はなさそうだよなーってとこですね。よろしくご査収ください。

 

 

 

「読み書きが苦手!」な人には、すごい能力があるんじゃないか説

ディスレクシアって問題がありますわな。学習障害のひとつのタイプとされていて、知的には問題がないのになぜか文字の読み書きに困難を覚える障害で、かのトム・クルーズ先生がこの問題に悩んでいるそうな。日本では全人口の5〜10%が罹患していると考えられているものの、診断されていない人も少なくないため、もしかしたら5人に1人ぐらいはいるのかも?とも言われてたりします。



これはかなり対策が難しい問題なのですが、新しいレビュー(R)では、「ディスクレシアには進化上のメリットがあるのでは?」と提唱していて勉強になりました。

 

 

これはケンブリッジ大学などの研究で、先行研究によれば、ディスレクシアの人は以下のような特徴を示すことが多いんだそうな。

 

  • 全体像を把握する能力に優れ、一見すると異なる概念のあいだに関連性を見出すことができる。

  • 絵、芸術、文学などの分野で、より高いレベルの創造性を発揮する。

  • 起業家、エンジニア、デザイナーに多く、アメリカの起業家を対象としたある調査では、35%が失読症だった。

 

ということで、どうもディスクレシアの方というのは、新しい情報を探して既存の知識と結びつけるのがうまいらしい。そのおかげで、デカい発見や発明につながるケースが多いわけですな。

 

 

では、なぜこういう現象が起きるのかと言いますと、著者チームは「進化的な観点」を使って解説を試みておられます。そのメカニズムをざっくり説明すると、こんな感じ。

 

  1. 人類の祖先が食料を調達していたかを考えてみると、未開の地をガンガンに探検していく「探検家タイプ」と、既存の資源の近くにとどまりそれを利用することを好む「定住タイプ」の2種類がいたと考えられる。

  2. 「定住タイプ」は既存のリソースの位置や利用条件を覚えておかねばならないため、文字のような抽象情報を理解する能力が発達する。一方で「探検家タイプ」は、見知らぬ世界を切り開くため、新しい情報を結びつけるような能力が発達する。

 

というわけで、読み書きの能力ってのは「定住」に適したものなので、「探検家」の能力とはトレードオフが起きるのではないか、と。言われてみれば、確かに「ありえるかなー」って感じですね。個人的に、この説が正しいかと言われれば疑問もあるんですけど、「ディスクレシアの人たちには探索傾向がある!」ってのは間違いなさそうでして、「どうも読み書き能力が……」って問題にお悩みの方は、そこらへんを意識してみるとよさそうですね。

 

 

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。