セロトニンはうつ病と無関係?それじゃあ私たちがメンタルを壊す原因ってなんなの?
こないだ「『セロトニン不足がうつ病の原因だ!』ってのは認められてないよー」って話を書いたんですよ。いままでの研究を総合すると、脳内のセロトニン濃度が下がるとうつ病の症状が現れるって仮説には一貫した証拠がなく、どうやら否定的な見解のほうが多いみたいなんですよね。
では、セロトニンがうつ病と無関係なら、いったいうつ病の原因ってなんなのよ?ってのが気になるわけです。セロトニンが無関係とはいえ、実際に世界中で数億人がうつ病に悩んでいるのは間違いないわけで、この問題はどうやって説明すればいいのか?ってとこですな。
これについては複数の原因が想定されていて、「これだ!」ってのは言いづらいとこもあるんですが、現時点で可能性が高そうな「うつ病の理由」をいくつかまとめておきましょう。
1. 脳の再配線の失敗
ご存じのとおり、人間の脳は常に配線し直されていて、学習や環境の変化などに応じて、神経細胞や「グリア」と呼ばれる非神経細胞との結合の数や強さを積極的に変化させております。いわゆる「神経可塑性」と呼ばれるプロセスで、この機能があるおかげで、私たちの脳は日々の変化に対応できるわけですな。
で、近ごろ、うつ病の人ってのは、ニューロンの結合の質、数、種類に問題がある可能性が指摘されてまして(R)、これが症状を説明するのに役立つと言われてるんですよ。ここ数年で「幻覚剤でうつ病が改善する!」って報告がやたら増えたのも、LSDやマジックマッシュルームが、神経可塑性に良い影響を与えるかもしんないからだったりします。
まー、いまんとこメンタル治療のために幻覚剤を使うのはオススメできないので、「運動をする」とか「新しいことを学ぶ」といったライフスタイルの改善を積み重ねて、神経可塑性にポジティブな影響を与えていくしかないわけですが。
2. 炎症
「炎症」は「最高の体調」のメインテーマ。体内の炎症が複数の問題を引き起こすのは新型コロナでも明らかですが、神経科学の世界では「炎症はうつ病の危険因だ!」って考えられてまして、血中の炎症レベルが高いほど、脳機能の悪化につながることが分かっております(R)。
なぜ炎症が悪いかと言いますと、まずは神経細胞へ物理的にダメージを与え、これによってニューロンの機能が低下。さらに、炎症は神経可塑性の働きをジャマして、キノリン酸のような有毒な分子の発生につながり、ニューロンの健康がさらに損なわれ、うつ病の発生につながっちゃうんですよね。
この問題の解決策は「最高の体調」に書いたとおりで、食事の質、睡眠、運動、ストレス軽減などが基本的なポイントになるでしょう。くわしくは本書をお読みください。
3. 腸と脳のつながり
腸と脳はつながってるよー!ってのは、以前にも書いた話であります。腸には何兆もの細菌が生息してますが、私たちの免疫細胞の大部分は腸に集まっているため、腸ってのは情報伝達の主要なハブになってるんですよ。
事実、さまざまな研究(R)により、腸と脳は常にコミュニケーションをとっており、このデータ交換が私たちの気分から知能の働きまであらゆるものに影響を及ぼしているかも?と提唱されてたりします。要するに、腸の健康状態がメンタルに大きな役割を果たしてるってことですね。
ここらへんについては「最高の体調」にも対策を書きましたが、ニコニコのブロマガにも「腸内環境フィックス大全」みたいなものを書いてますんで、あわせてご参照いただければと。
4. ホルモンの変化
脳機能のコントロールに関して、様々なホルモンが重要な役割を果たすと考えられております。具体的には、「視床下部-下垂体-副腎軸(HPA軸)」(別名、ストレスシステム)の不調が、うつ病のリスクを著しく高めると考えられているんですな。
例えば、大うつ病を発症した人は、その前にストレスとなる出来事を経験している可能性が2.5倍高く(R)、1回の高ストレスな出来事でうつ病発症リスクが1.4倍上昇するなんて報告があったりします。つまり、ストレスがHPA軸のバランスを崩し、脳に海馬に悪影響を与え、炎症を増加させ、神経可塑性にダメージを与え、さらには神経細胞を死滅させることによって、うつ病に関与している可能性があるんですよね。
HPAの機能を調整するにはストレスのコントロールが重要で、毎日の瞑想、定期的な運動、自然の中での時間など、多くの戦略が有効でして、こちらも試したいとこですなー。
ってことで、いろいろ書いてみましたが、これらの原因とてまだ氷山の一角みたいなとこもありまして難しいんですよね。とはいえ、私たちの脳がいろんな方向からダメージを受けちゃうのは間違いないところなんで、ぜひ優しくしてあげたいところです。