今週半ばの小ネタ:恋愛で「自分の好み」にこだわっても意味なくないか?プロバイオティクスは血糖の問題に役立つか?マインドフルネス瞑想で優しい人間になれるか?
ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
恋愛で「自分の好み」にこだわっても意味なくないか?
誰もが恋愛相手の好みを持っているもの。「頭がよい人が好き」とか「面白い人が好き」とか「優しい人が好き」とか、そんな特性を組み合わせつつ、多くの人は相手への好みを決めているでしょう。
で、ここでよく心理学者が問題にするのが、「このような恋愛相手への好みは、本当に私たちが恋愛のパートナーに求める特性と一致しているのか?」ってポイントであります。みんな反射的に「私は優しい人が好き!」とか言うものの、それは果たして、自分がホントに求めているのものなのかって疑問です。
まー、ちょっと考えてみれば、「あの人は『面白い人が好き』と言ってたのに、ぜんぜん逆の人と付き合ってるな……」みたいに思うケースは多いわけで、心理学者たちがこういうった疑問を持つのも理解できる話ではあります。ヒトが自分の本心を意外と理解してないってのは、「科学的な適職」でも強調した話ですしね。
といことで、カリフォルニア大学デービス校などの新しい研究(R)では、「恋愛に関する私たちの好みは本心を反映しているか?」を調べてくれて勉強になりました。
研究チームは、1,300人以上の参加者を対象に、4つの研究を実施。最初の3つの研究では、「参加者が恋愛対象の特徴をどれぐらい好きか?」と「実際にその特徴をどの程度好きになったか?」ってのを調べたんだそうな。要するに「自信がある人が好き!」と言う人に対して、「恋愛相手の自信を本当に好んだのか?」ってところを掘り下げたわけですね。
すると、その結果は「ほとんど相関なし」だったとのこと。みんなが「自分がこれが好きだ」と思っていることと、「実際にこれが好きになった」の間には、弱い関係しかなかったらしい。
たとえば、「自信満々そうな写真を掲載している登録者が多い出会い系サイト」ってのがあったとしましょう。このようなサイトには、当然ながら「自信満々な相手が好き」な人ほど登録したくなるはずですが、実際にはそうでもないというんですよ。現実の世界では、
- 「自信満々な相手を好む人」たちは、自信満々な人たちが集う出会い系サイトに登録することはない
- 出会い系サイトに登録するかどうかは、参加者たちが、無料体験のあいだに自信のある人たちをどれぐらい好きになったかによる
って現象が見られたわけです。このような結果を、チームはこんな風に言ってます。
私たちが恋愛相手に求める好みは、経験にもとづいている。もし私がユーモアのある相手を好むなら、それは私が面白い人とデートをして、その人物を好きになったということだ。
とのことで、私たちが「面白い人が好き」という時は、たまたま「面白い特性を持った人」を好きになった経験があるからで、決して本当に面白い人を好んでいるわけではないのかもしれないんだ、と。
たとえば、あるパーティーに参加したとき、そこで出会った人たちがたまたま面白かったとしたら、あなたは「私は面白い人たちが好きなのだ」と思うかもしれない。しかし実際には、あなたが好きなのはユーモアではなく、その場のパーティーであり、そこにたまたまユーモアがあっただけかもしれない。
その結果、私たちが好きだと思っているものと、実際に好きなものは、まったく違うものに見えてしまう。
自分では面白い人が好きだと思っても、実際に好きなのは、その時の環境や状況だったのではないかって問題提起ですね。この食い違いは確かにあるかもなぁ。
より簡単に表現すると、従来の恋愛観では、
- 私たちは特定の好みを持っている
- その好みに当てはまる人を好きになる
って考え方だったんだけど、この研究で主張しているのは、
- 私たちは、よくわからんがとりあえず誰かを好きになる
- その好きになった相手のなかで、特に目立つ特性を自分の好みとして採用する
って流れのほうが正しいかも知れないってことですね。確かに「人を好きになる」ってのは複雑な現象ですし、いくつかの好みで割り切れるもんでもなさそうですよね。
結局のところ、「自分の好み」は、役に立つ場面もあるものの、実際の体験の代用にはならない。好きだと思うことと、実際に好きになることの違いを理解することは、さまざまな場面で役に立つだろう。たとえば、どこに住むか、何を買うか、恋愛相手に何を選ぶかなどを予測するのに役立つはずだ。
ということで、基本的には「自分の好み」はさほど信じず、「本当に自分が幸福になれそうな相手とは?」みたいな観点から選ぶほうが懸命なのかもしれませんな。いよいよ「科学的な適職」みたいな話になってきましたが。
プロバイオティクスが血糖の問題に役立つかも!という系統的レビュー
プロバイオティクス(腸内細菌サプリ)の効果についてはまだ議論がある状況ではありますが、新しい系統的レビュー(R)は、「プロバイオティクスの健康効果をさらにガッツリ検証だ!」という内容になっていて、勉強させていただきました。
これは北京中医薬大学などの研究で、糖尿病予備軍の人たちにプロバイオティクスを使用した400以上の研究から、最終的に7つの研究を分析し、そこそこ精度が高い結論を出してくれています。要するに、糖尿病とまではいかないものの、つねに血糖値が高めな人たちに、プロバイオティクスは効くのかってことですな。
この研究は合計460人の参加者を対象としていて、7つの研究のうち3つは単一の細菌に焦点を当てたもので、他の研究は3つ以上のプロバイオティクスを採用しております。
でもって、分析の結果をざっくり申し上げますと、
- プロバイオティクスには、糖尿病予備軍への健康メリットが確認された。具体的には、インスリン感受性チェック、ヘモグロビンA1C、総コレステロール、中性脂肪、善玉コレステロールなどの指標にプラスの変化がみられた。
- いくつかの研究では、空腹時血糖値、推定インスリン抵抗性といった他のマーカーについては、これといった変化が確認されなかった。
ということで、研究チームは「プロバイオティクスで糖尿病予備軍の健康に重要な役割を果たすかもだ!」と結論づけておられます。どうやら、プロバイオティクスってのは、いろんな方法で血糖を調節しているかもしれないみたいなんですよ。
具体的には、「腸の細胞からGLP-1って物質の分泌を増やすて、これで血糖値が下がるかも?」「膵臓の機能が高まるかも?」「慢性炎症を抑制するのかも?」みたいなメカニズムが想定されてまして、個人的には「これは良さそうだな……」って印象を持ちました。
まー、これらの結論は、かなり小規模な参加者から得られた結論だし、「具体的にどのプロバイオティクスをどれぐらい使えばいいの?」ってところが謎なので、糖尿の予防にプロバイオティクスを使うべきだとは言えない段階ではあります。とはいえ、プロバイオティクスにはだいぶ可能性がありそうなので、やっぱ注目しとくべきでしょうね。
短時間のマインドフルネス瞑想で他人に親切にしたくなる説
賛否両論ありつつも、少しずつ良い報告が増えてきたのが「マインドフルネス瞑想」。正直、まだまだ全体的な研究の質は高くないものの、やはり注目すべきジャンルでしょう。
そこで新たな研究(R)では、エルサレム・ヘブライ大学の研究チームが、「マインドフルネス瞑想で親切な行動は増えるか?」という問題を調べてくれてて勉強になりました。マインドフルネス瞑想で「他人を助けたい!」って気持ちが高まるかどうかを調べたわけですな。
これは189名の男女を対象にした調査で、まずはみんなが「どれぐらい他人に共感できるか?」をチェック。そのうえで、全体の3分の1に30分のガイド付き瞑想を2回ほど指示し、残りの参加者には「他人への親切の素晴らしさをレクチャーし、さらに残りの参加者にはクラシック音楽を何度も聴いてもらったそうな。
その後、みんなに「恵まれない人たちに対してどう行動するか?」を尋ねたところ、
- マインドフルネス瞑想をしたグループは、音楽グループや講義グループに比べて、恵まれない人々を助けたいと思っていた
って変化が見られたんだそうな。短いマインドフルネス瞑想を2回やっただけにしては、わりとおもしろい変化ではないでしょうか。
もちろん、意図と行動は違うものですが、「瞑想で思いやりが増えるのでは?」って報告は昔から多くありまして、可能性は十分にあるんだろうなー、などと思っております。このブログで何度も書いているとおり、他者への親切ってのは、人間の幸福を決める重要な要素なので、ここは気にしておきたいですね。