今週末の小ネタ:Apple Watchで痩せられる? 運動はマインドセットが超大事? 運動する気が起きないのは腸内細菌のせい?
ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
Apple WatchやFitbitで痩せられる?
アップルウォッチが初めて世に出たのは2015年のこと。それ以来、ずっと議論になっているのが、「フィットネストラッカーやスマートウォッチを買えば体重は減るんだろうか?」ってテーマです。アップルウォッチやフィットビットを使うと、本当に運動量が自然と増えて、体重は減るのか?って問題ですね。
このテーマについては研究例が少ないんですが、近年はいくつか調査が出てきましたんで、内容を簡単に見てみましょう。
- シンガポールで発表された研究(R)によると、フィットビットを装着している人は、装着していない人よりも、運動量を維持するのにちょっとだけ成功したが、1年後の変化は、体重や血圧に明確な違いをもたらすほどではなかった。
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ピッツバーグ大学などが発表した研究(R)では、フィットネストラッカーに関する最大規模の調査を実施。これれによると、一般的な活動量計を18ヶ月間着用した男女は、着用しなかった成人に比べて、逆に体重の減少が少なかった。また、活動量計を装着していた人は、一般的に運動量も少なかった。
ということで、いずれの研究にせよ、「目立った効果はなさそう」または「逆に運動の量が減るから意味がない」ぐらいの結論になっております。うーん、これはかんばしくないないっすね。
まぁこのブログでさんざん言ってるとおり、運動のカロリー消費量は非常に低いので、いかにフィトネストラッカーで活動量が増えたとてダイエットに役立つのかは謎であります(運動はライフスタイルの改善に役立つので、その点でダイエットに役立つ側面はありますが)。ただし、それ以外に考えられる問題としては、
- 自分の運動量を測定することにより、「運動そのものを楽しむモチベーション」がなくなってしまい、エクササイズがただの作業のようになってしまう。
- 運動をサボったあとでフィトネストラッカーを見ると、数字で現実をつきつけられてしまうため、一気にモチベーションが失われてしまう。
- フィットネストラッカーで仲間の情報をチェックできると、それがプレッシャーになり、やる気が失われてしまう。
みたいになります。どの原因も、人間のモチベーション管理においてよく見られる現象なんで、フィットネストラッカーが逆効果になってしまう可能性はあるかもですね。
もちろん、フィットネストラッカーのデータそのものは貴重なんで、現時点では、上記の問題点をクリアできるような使い方を模索するしかないんでしょうなぁ。
運動はマインドセットが超大事
「『自分は運動不足だ!』と思い込むだけでも健康に悪い!」ってデータ(R)が出ておりました。
これはスタンフォード大学のの研究で、それまで自分の歩数を数えたことのない男女162人が対象。みんなに4週間フィットネストラッカーを着用してもらい、みんなに1日平均7,000歩を歩くように指示したんだそうな。その際に、フィットネストラッカーにちょっと細工をこらしまして、
- 半分のグループは、フィットネストラッカーが「1日に約7000歩歩いている」と正確な数字を表示する
- 残り半分のグループは、フィットネストラッカーが「1日4,000歩歩いてます」と嘘の数字を表示する
って感じで、一方のグループにだけ「実際よりもあんまり動いてない!」と思わせたとのこと。これに加えて、参加者の何人かには、以下のような指示を出してます。
- 「日常の家事」や「スーパーまで歩く」など、通常はエクササイズとは見なさないような活動を意識して、「過去1週間にどれだけ動いたか?」を考え、さらには、「その活動がどのように健康に役立っているか?」ってのを熟考、「意外と動いている自分」をちゃんとほめる。
といった感じで、「自分が普段の暮らしでどれぐらい動いているか?」に意識を向けさせ、このような内省を毎週くり返してもらったんだそうな。
すると、結果はこんな感じになりました。
- 「1日約7000歩を歩いてます」と言われた人は、ほとんどが気分が良くなり、自尊心が高まり、食生活も改善し、高脂肪食が減り、野菜の摂取量が増えた。
- ただし、全体的な運動量が増えたわけではなかった。
ということで、「1日に割と歩いています!」と自覚した参加者は、自分の日常に自信を持つようになり、そのおかげでライフスタイルに良い影響が出たみたいですね。こういう効果を得るためなら、フィトネストラッカーも悪くないのかもしれませんな。
一方で、「1日4,000歩しか歩いていない」と思わされた人たちは、自尊心が低くなり、気分が暗くなり、食習慣が悪くなり、安静時の心拍数と血圧がわずかに上昇し、健康状態も悪化したらしい。まぁそりゃそうですよね。
というわけで、この研究で最も重要なポイントは、
- 運動はマインドセットが超大事!
ってことですね。実際には7000歩を歩いていても、「自分は4000歩しか動いてない……」と思っちゃったら、せっかくの運動の効果が無になっちゃうかもしれないわけですから。
研究チームいわく、
(運動のマインドセットを改善するには)、自分が過去の数日間をどのように過ごしたかを考え、書き出すことから始めてください。正式なエクササイズだけでなく、趣味の散歩、子どもとの遊び、部屋の掃除、ガーデニング、犬を追いかけたり、階段を使ったりした頻度もチェックしましょう。
その上で、実際にどれだけの運動をしたか考えてみてください。あなたの健康を増進し、病気を回避し、満足感を保つのに十分だと感じますか?
とのこと。とにかく、自分が日常でどれぐらい動いているかを考え、そこを意識するのが大事だってことですね。ここらへんは「不老長寿メソッド」で強調したところと似ていて、私も非常に共感できました。
運動する気が起きないのは腸内細菌のせい?
「抗生物質で運動のモチベーションが下がるかも?」と思わせるデータ(R)が出ておりました。あくまでマウス実験ながら、ちょっと気になる内容ですねー。
これはカリフォルニア大学などの調査で、よく運動をする健康なマウスに抗生物質を与えて腸内細菌を死滅させ、どのような違いが出るのかをチェックしたんだそうな。すると、やはり腸内細菌が死んだマウスには大きな変化が見られまして、
- 抗生物質マウスにランニング・ホイールを自由に使わせたところ、過去よりも走行距離が急激に減少。毎日平均して約21%も走行距離が減り、その後の12日間の研究ではほとんど回復しなかった。
って感じだったそうです。データを見てみると、どうやら抗生物質マウスたちは、腸から脳まで信号が送られなくなり、ドーパミンの分泌量が減ってモチベーションが下がってしまったらしい。それと同時に、マウスたちの腸内にあるいくつかの特定の菌株の量が多ければ多いほど、脳内でドーパミンが多く生成される傾向もあったそうで、これはなかなかすごいもんですな。
研究チームいわく、
動物たちは、腸内細菌がもたらすランナーズハイによって運動のモチベーション高めていた。
とのこと。もちろん人間とマウスは全然違う生き物ですが、神経や中脳のプロセスは割とそっくりでして、運動のモチベーションが腸内細菌に左右される可能性はあるんじゃないでしょうか(それだけが原因じゃないですが)。
まー、いまのところ、運動のモチベーションに関わる腸内細菌は何も特定されてないので、この研究をすぐに実生活に活用するのは難しいですけど、日々のモチベーションを下げないためにも、腸内細菌をいたわっておきたいところです。