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【質問】同じ言葉を何度もくり返すと「なんか変だ!」と思うのってなぜですか?

 


こんなご質問をいただきました。

 

同じ言葉を何度もくり返したり、紙に書いたりすると、なんかそのうちよくわからなくなってくるんですが、あれはなんですか?なんか変な単語だなぁみたいな感じです。

 

ってことで、ある単語をよく使っていると「変な単語だ……」「何か変だ……」と思いはじめる現象はなんなのか、と。たとえば、「水」みたいな普通の単語でも、何百回も見たり書いたりすると、未知のワードに見えてきたりするんですよね。

 

結論から言えば、これは「意味飽和」って現象で、脳の正常な反応によって起きる現象です。簡単にまとめると、

 

  1. ある言葉に繰り返し触れているうちに、脳が慣れまくってくる。

  2. そのうち、あまりに同じ単語に脳が慣れすぎてしまい、その単語に脳のニューロンが反応しなくなる。

  3. 脳の別のエリアが「ニューロンが反応しないのは何故だ?」と思い始め、「この言葉には何か間違ったところがあるに違いない」と結論づける。
  4. その言葉が変に見える!

 

みたいな流れです。カフェインを何度も飲んでると、どんどん脳が慣れて覚醒作用がなくなっていくのと同じようなメカニズムが働いてるわけですね。

 

同じような現象は他にもありまして、特定の図形や顔を頻繁に見すぎると、それらは逆に不思議なものに変わっていくし、ひとつの音を頻繁に聞きすぎると、その音は聞こえなくなり、やがて変な感覚に切り替わっていきます。おもしろいもんですねぇ。

 

また、意味飽和には大きく2つの種類がありまして、

 

  • 含蓄的飽和:ある単語が、本来の意味を失い始めること。たとえば、「水」は透明の液体を表す言葉でなくなり、文字で読んでも音で聞いても違和感を覚えるようになったりします。

 

  • 連想的飽和:ある単語が文脈を失い、元の単語に関わる他の単語を見つけるのが難しくなること。たとえば、「水」を見ても、「透明」「流れ」「飲む」といった他の連想ワードも浮かばなくなったりします。

 

この2種類の飽和が重なると、言葉はどんどん無意味で奇妙なものに感じられるようになるわけです。

 

このような現象は、日常の生活でもちょっとした問題を引き起こすことが知られてまして、

 

 

  • 仕事の注意力をそぐ:ひとつの作業を何度もくり返していると、やはり意味飽和が起きてしまい、注意力が下がってしまうようなケースが多め。そのせいで、書類にいつもつけているタイトルを挿入し忘れたり、ページのナンバリングを忘れたりといった凡ミスが起きるのは、脳に慣れが起きたせいで、いつもそこにある情報をノイズとして扱いはじめたのかもしれない。

    この問題を解決するには、退屈な作業にバラエティを持たせるしかなく、普段のルーチンを違う順番でやってみたり、いつもよりさらにハイスピードでやってみたりすることで、この慣れを減らすことができ、集中力を取りもどせると考え得られております。

 

 

  • 暗記ができなくなる:完全に暗記したはずの単語が、突然「あれ?これって間違ってない?」いると感じ始めることも多め。そのせいで専門用語を何十回くり返しても覚えられなくなったりする。

    この場合は、単語を覚える神経回路に少し余裕を与えることで、ニューロンの反応を修正するしかない。これをやるには、単純に時間を与え、少し間を空けてから、その単語の学習をリハーサルするのが吉。事実、時間を空けてリハーサルをすると記憶力が向上することはよく知られており、ぶっ続けで記憶しようとするよりも効果が高いことが多い。

 

 

みたいな問題が指摘されております。脳の慣れが行き過ぎちゃうせいで、重要な情報まで無視するようになっちゃうわけっすね。

 

しかし、この現象は、逆に実用的に使うこともできまして、意味飽和によってメンタルを改善できたりするんですよ。ざっくりまとめると、以下のような感じです。

 

 

  • 不安や恐怖心が減る:意味飽和を使うと「言葉の強烈さ」が減るので、自分を悩ませるようなネガティブ思考のインパクトを減らすことが出来る。たとえば、「自分はダメだ」って思考が頭に浮かぶせいでメンタルが病んでしまう場合は、

    「自分はダメだ!自分はダメだ!自分はダメだ!自分はダメだ!自分はダメだ!自分はダメだ!自分はダメだ!自分はダメだ!……」

    みたいに、同じフレーズをハイスピードで何度もくり返すと、どんどん「自分はダメだ」ってワードが無意味に感じられるようになり、最後には感情的な苦痛が減ることが示されている(だいたい30秒ぐらいくり返すのが一般的)。「ティチナーの言葉反復戦略」と呼ばれ、いまも心理療法で普通に使われるテクニックだったりする。

    この状態は「減感作」とも呼ばれ、不安や恐怖を減らすためのテクニックとしてよく使われる。たとえば、「高いところが怖い!」って人に、まずは高いところの写真を見せ、次に椅子の上に乗るように指示し、その次はテーブルの上に乗り、さらに次は窓から下を見て………みたいに恐怖刺激の強度を増やしていけば、情動反応は弱まり始める。

 

 

ってことで、自分を悩ませる思考の威力をやわらげる目的であれば、意味飽和も役に立つんですな。頑固な思考にお悩みの方はお試しをー。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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