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「紙読書 vs デジタル読書」読解力が高まるのはどっちだ!のメタ分析

 

 

読書で頭が良くなる!って報告は昔からあって、そこらへんについては、

 

 

などにいろいろとまとめてたりします。もちろん「読書で頭が良くなるのではなく、頭が良い人が読書を読むのだ!」って経路もあるんだけど、本を読むことが脳トレになるのはほぼ立証されているところでしょう。

 

でもって、関連してよく聞くようになったのが「本は紙かデジタルか?」って論争です。「デジタルで読む脳 X 紙の本で読む脳」なんて本もありましたように、いまんとこ「紙で読むほうが内容の定着率は高いのではないか?」って考え方のほうがちょい優勢かなーって気がしているところです(まだよくわからんとこも多いですが)。

 

ってことで、新たにバレンシア大学が、「若い人の理解力を高めるには紙とデジタルのどちらが良いのか?」ってメタ分析(R)をしてくれまして、おもしろい結果が出ておりました。この研究は、2000年から2022年の間に発表された、25の研究を総合したもので、世界36カ国から約47万人を対象に行われたデータがベース。その上でなにを調べたのかと言いますと、

 

  • 余暇を文章を読みながら過ごした場合には、デジタルと紙のどちらのほうが、読解力を上げてくれるのか?

 

みたいな感じです。勉強や仕事ではなく、ヒマな時間に情報収集をする際に、デジタルと紙のどちらを使ったほうがよいのかを調べたわけですね。このタイプの研究ははじめてでして、まことにありがたい内容になってますな。

 

では、結論を見てみましょうー。

 

  • 若い人は、紙の印刷物を読む方が、ネットで読むよりもはるかに読解力が高まる。紙で文字を10時間ぐらい読み続けた場合、スマートフォンなどのデジタル機器を使った場合と比べて、理解力が最大8倍向上するっぽい。

     

  • 調査結果を年齢別に分類すると、この影響が最も強いのは低年齢の子供たちだった。思春期前の子どもたちは、オンラインで文字を読む量が多いほど、理解力が低下する傾向があった。

 

ということで、既報どおり紙のほうがオンラインよりも理解力アップには良さそうな感じっすね。最大8倍って数字にはちょっと驚きましたが。

 

この結果について研究チームいわく、

 

まとめると、読解力がまだ未発達な人にとって、余暇時間のデジタル読書は、従来の活字読書ほどには、読解力という点では報われないようだ。活字の読書量が多い人ほど文章の理解力が伸びることはすでに確立されている。この事実と比較すると、今回の結果は特に驚くべきものだ。

 

すべての読書が、読書家にとって有益であるとは言えない決めつけることはできない。重要なのは媒体だ。

 

とのこと。なんで紙のほうが良いかはまだよくわからんのですが、研究チームの推測としては、

 

  • デジタルデバイスは、読書以外のさまざまなことに使えるので、文字を読んでいても気が散ってしまう。
  • オンラインだと、どうしても短時間で速いペースの刺激が続くし、質の低いコンテンツも多いし、言葉づかいも洗練されてないからでは。

 

といったあたりを指摘しておられました。オンライン上のテキストは質が低いうし、デジタル機器は注意が散ってしまうのが原因ではないかと。これをもとに、研究チームは「教育者や親は、生徒たち、特に低学年の生徒に対して、デジタル機器よりも 活字で本を読むことを奨励すべきだ」と強調してたりします。

 

ここで「それならKindleみたいに気が散らないデバイスで、質が高いテキストだけを読めばいいのでは?」と思われる方も多いでしょうが、データを見てみると、

 

  • 内容がしっかりした教育的なウェブページを見たり、プロが書いたニュースのような文章がちゃんとしたサイトを読んだ場合でも、デジタルな読書は理解力に目立ってプラスの効果をもたらさなかった。

 

なんて結果も出てたりします。まぁ同じ著者による過去のメタ分析などでも、「同じ情報を読む場合でも、デジタルよりも紙は理解度が高くなる」って報告も出てますんで、コンテンツの質を問わず紙のほうが優秀な可能性はやっぱ高め。

 

ちなみに、デジタルが紙に劣るメカニズムは他にも指摘されていて、「スクリーン劣等効果」なんて現象もよく耳にするところっすね。これは、人間が文字を読むときは、目から入る視覚情報だけでなく、本を指でなぞる感触、紙のページがめくられるときのソフトな音など、あらゆる知覚を手がかりにしているって考え方です。私たちは、目だけでなくあらゆる感覚を活かしたほうが読解力が上がるんだけど、デジタル機器だとそれが出来ないので、自然と内容が頭に入りにくくなるんじゃなかろうかって仮説です。

 

そうなると、私のように老眼のせいでKindleがメインになってる勢はガッカリしちゃうわけですが、個人的には「読書歴が長い人だと、抽象的な文字をそのまま脳にたたき込むための回線が確立されてるから、そこまで影響がないんじゃないかなー」とかも思ってたりします。実際、今回のメタ分析でも、大学生のデータを見る限りは、デジタル読書で目立った悪影響は出てないみたいですし(というか、ちょっとだけ正の効果が出ている)。

 

まー、いずれにしても、「紙のほうが感覚的な入力が多いので良い」って考え方には説得力がありますが、なにせ私の場合は老化で目が追いつかない状態なので、今度もKindleを愛用していくしかなさそうっすね。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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