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「気が散って集中できない」が幸せをもたらす?マインドフルネスだけでは足りない理由

 

「マインドフルネス」が、メンタルヘルスの定番キーワードになって久しい昨今でございます。おそらくは、マインドフルネスが日常のストレスを軽くしてくれるのは間違いないんだけど、最近の研究(R)では、「マインドフルネスは『常に今この瞬間に集中して幸せに!』って言うけど、気が散ってボンヤリした状態も有効なんじゃないの?」って話になってて面白かったです。

 

「気が散ってボンヤリした状態」ってのは、心理学の世界では「マインドワンダリング」と呼ばれてまして、現在の瞬間から意識が離れ、過去の記憶や未来のことをガンガンに想像している状態を指しております。たとえば、単調な作業中に学生時代の楽しい思い出を思い出したり、次の休暇の予定を考えたり……みたいな感じっすね。

 

一般的に、多くの自己啓発本や心理学の議論では、「マインドワンダリングは無意味!非生産的!」みたいに批判されてますし、専門家の先生も「A wandering mind is an unhappy mind(さまよう心は不幸な心)」といった有名な言葉を残してまして、マインドワンダリング=ネガティブというイメージがいよいよ増しているわけです。

 

ところが、カリフォルニア大学が行った今回の研究では、この見方に一石を投じているんですよ。具体的な内容を見てみましょう。

 

この研究は、参加者にスマホで普段の生活での意識や気分を記録してもらい、以下の項目を測定しております。

 

  • 意識の状態:現在に集中しているか、それともさまよっているか

  • 気分の評価:非常に悪い~非常に良いの7段階評価

  • 思考の性質:感情や視覚イメージ、音楽などの種類を分類

  • 思考のポジティブさ(価値):非常にネガティブ~非常にポジティブの7段階評価

  • 興味深さ:その考えがどれくらい興味深かったか

  • 明確さ:考えがどれくらいはっきりしていたか

 

でもって、以上のデータを分析したら、こんなことがわかりました。

 

  • 気が散ってるマインドは「質」によって違う:マインドワンダリングが気分を下げるか上げるかは、その内容に大きく依存する。楽しい思い出やポジティブな未来のイメージであれば、気分はむしろ向上する。一方、後悔や不安にとらわれたマインドワンダリングは気分を悪化させる。まぁ当たり前の結論ですな。

 

  • 「興味深い」考えは気分を向上させる:特に単調な作業をやっている最中に、自分が興味を持てる思考やポジティブな記憶に意識をさまよわせると、逆に作業への没入感が向上し、「退屈」を集中した時間に変えられる可能性がある。

 

  • 年齢による違い:30歳以上の参加者では、マインドワンダリングが気分に与える影響がより大きかった。これはおそらく、年齢を重ねるほど過去や未来に意識を向ける機会が増えるからなんでしょうな。

 

ということで、「良いマインドワンダリング」であれば、逆に幸福度を高めるし、退屈な作業のパフォーマンスもアップするんじゃないかって結論ですな。ここらへんは、『良い「心ここにあらず」で脳がデカくなるぞ!みたいな話』とも近しい結論ですな。

 

そんなわけで、今回の研究から「マインドフルネスとマインドワンダリングは対立するものではない!状況に応じて使い分けるべきだ!」ってことが言えるわけでして、具体的には、以下のようなガイドラインを守ったら良いかもなーって気がしております。

 

  1.  ポジティブな方向に意識を向ける:意識がさまよい始めたときには、まずは自分の考えがポジティブなものであるかをチェック。もし否定的な考えにとらわれているなら、意識的にポジティブな思い出や楽しい未来の計画に切り替える。たとえば、次の週末の予定を考えたり、過去の達成体験を思い出したりするだけで、気分が改善しますんで。


  2. 音楽や環境を利用する:研究では、音楽がポジティブなマインドワンダリングを促す効果があることも示唆されている。なので、気分をリフレッシュしたいときは、明るい音楽やお気に入りのプレイリストを活用しつつマインドワンダリングしてみる良さげ。また、自然の中を散歩するのも、良いマインドワンダリングの発生をうながす効果もある。


  3. 単調な作業をクリエイティブに:料理や掃除など「退屈だなー」と思うような作業は、マインドワンダリングの効果を最も使いやすい。この時間を使って、新しいアイデアを練ったり、過去の楽しい出来事を振り返ったりすることで、作業へのモチベーションを上げやすくなる。

 

もちろん、現代のマインドフルネスブームにはいろんなメリットがあったとは思うものの、一方では「常に今に集中しなければ」というプレッシャーにつながったのも確かではあります。その点で、今回の研究は、「気が散って集中していない」時間を適度に取り入れれば、むしろ幸福感や創造性が高まるって事実を示してくれてまして、ちょっと心の重荷が下りる人もいるんじゃないでしょうか。なんでもバランスですなぁ。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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