ブルーゾーンって本当は存在しないんじゃないの?論争が起きてた件
「ブルーゾーン」ってのは、100歳人が多く暮らす長寿地域のこと。ダン・ビュイトナーさんが広めた概念で、沖縄(日本)、サルディーニャ(イタリア)、イカリア島(ギリシャ)、ニコヤ(コスタリカ)など、特定の地域にはやたらと長寿者が多いことで注目されてまして、その生活スタイルをまねすれば100歳まで生きられるのでは?と考えられているんですな。このブログでもいくつかエントリを書いてまして、私も「おもしろい現象だなー」とか思っておりました。
が、新たにオックスフォード大学のサウル・ニューマン博士が、「ブルーゾーンのデータって間違ってない?」みたいな研究を発表したんですよ(R)。これがなかなか面白かったんで、内容をメモっておきます。
そもそもブルーゾーンとは何か?
そもそもブルーゾーンって考え方は、2000年代初頭にベルギーの人口学者ミシェル・プラン博士らが、「サルディーニャ島って妙に長寿者が多くないか?」って事実を発見したことから生まれたものです。その後、沖縄やイカリア島、ニコヤなどにも同じような現象が起きていることがわかり、これらの地域が注目されるようになったんですよ。
でもって、ブルーゾーンに共通するとされる要素としては、以下のようなものがピックアップされております。
- 植物ベースの食事:野菜や豆類、穀物を中心にしたシンプルな食事。
- 自然な身体活動:特別な運動ではなく、日常生活の中で自然に体を動かす習慣。
- 強い社会的つながり:家族や地域との絆が深いこと。
- 目的意識(生きがい):日々の生活に意味を見いだす態度。
- ストレス管理:「腹八分目」や休息の習慣など、シンプルでゆったりした生活。
いずれも「おっしゃる通りです!」としか言いようがない感じでして、これらの要素は、ブルーゾーンが長寿の秘密を解き明かすヒントになると考えられ、健康的なライフスタイルの指針として広く注目されているんですな。
ブルーゾーンのデータって矛盾がないか?
が、今回ニューマン博士が行った分析では、「ブルーゾーンの報告って間違ったデータを使ってないか?」ってポイントを指摘しておられます。博士の主張をざっくりまとめると、以下のような感じっすね。
1. データが不正確なんじゃないか疑惑
ニューマン博士は、ブルーゾーンで報告される長寿者の記録がエラーに基づいていると指摘しておられます。
- 死亡届が提出されていない:多くのブルーゾーン地域では、経済的な理由から死亡届を提出せず、故人の年金を家族が受け取り続ける事例が多い。特に、沖縄やギリシャのイカリア島で行われた監査では、実際には死亡しているにもかかわらず公式記録上では「生存者」とされているケースが見つかっており、2015年のギリシャの監査では、9,000人の「100歳以上」のうち72%が実際には死亡していることがわかった。
- 出生記録の不正確さ:ブルーゾーン地域の多くは、適切な出生記録がないケースも多い。特に19世紀末から20世紀初頭にかけて、公式な出生届が整備されていなかった地域では、後年に申請された出生記録が信憑性を欠く可能性がある。これにより、実際より年齢が高く申告されるケースが発生しているかもしれない。
- 例外的なケースの存在:いくつかのブルーゾーンでは、「偽のスーパセンテナリアン(110歳以上)」が発見された事例も認められている。たとえば、フランスでは100歳以上の記録が特定の地域で集中している一方で、これらの地域では、不正確な記録がめちゃくちゃ多かった。
2. 統計的な偏りがあるんじゃないか疑惑
さらには、ブルーゾーンで報告される長寿者の年齢データに統計的な偏りが見られる点も指摘されております。
- 特定の日付への偏り:博士の分析によれば、ブルーゾーン地域で長寿者とされる人々の誕生日が、月初や「5の倍数の日」に集中している傾向があった。このようなパターンは、記録が改ざんされたり、データが適当に作成されたりした可能性を示している。「5の倍数」や「月初」の誕生日は、通常の人口統計ではほとんど見られないので、ブルーゾーン地域の記録はどうにも怪しいなーという感じ。
3. 貧困や犯罪率の高さ問題
もう一つの大きな矛盾は、ブルーゾーン地域の社会経済的な背景であります。一般には、豊かな経済状況や安定した生活環境のほうが長寿になりやすいのに、ブルーゾーンでは逆の特徴が見られるというんですな。
- 貧困率の高さ:サルディーニャや沖縄、イカリア島といった地域は、国全体と比較して経済的に劣った状況にある。例えば、イタリアのサルディーニャでは、長寿者が集中している地域の失業率が全国平均を大きく上回り、1人当たりのGDPも低水準。沖縄も過去には日本の中で最も低い所得水準に分類されていた。
- 犯罪率の高さ:いくつかのブルーゾーン地域は犯罪率も高い。貧困と犯罪率が高いのに、長寿者が多いってのはなんかおかしくないか?
ってことで、これを見てみると、「うーん、確かに説得力があるなぁ……」とか思うわけです。これが事実なら、ブルーゾーン研究は割とゆらぐことになりまして、困っちゃうなーってところなんですよね。
個人的な雑感
で、この指摘に私がどう思ったかってことなんですけど、だいたい以下のような感想になりました。
- 年齢記録を精査した研究も多いよ!:ブルーゾーン地域の統計にエラーが起きやすいのは間違いないんだけど、そこらへんはブルーゾーン肯定派も認識してい、細かい精査をしている。具体的には、単なる公的記録の確認だけじゃなくて、公的な出生記録(例:市役所や政府機関のデータ)と、教会の手書きの記録(洗礼記録や死亡記録など)を照合してたりする。たとえば、サルディーニャでは、1866年以降の出生記録をすべて確認し、記録が欠けている場合は教会記録や他のアーカイブデータから不足部分を補っている(R)。
また、研究によっては、長寿記録が矛盾している場合には、該当データを除外するルールを設定している(R)。なので、ニューマン博士が指摘するほどブレが出てるとは思いづらい。 - データの偏りも調整されてることが多いよ!:ニューマン博士が指摘するデータの偏りについても、複数の研究で調整が入ってまして、ブルーゾーンのデータセットを見てみると誕生日の分布は統計的に正規分布に近いと報告されている(R)。つまり、「月初や5の倍数の日に誕生日が偏る」という問題は、調査データでは取り除かれている。年齢データの作成プロセスも透明だし、さすがにニューマン博士が指摘する「意図的なデータ改ざん」とまでは言えないんじゃないかなぁ……って印象。
- ブルーゾーンって貧しくて犯罪が多くないってのもどうかなぁ……:ニューマン博士が挙げる「ブルーゾーンの社会経済的背景が劣悪である」ってポイントについても、個人的には別に矛盾してない気がする。というのも、ニューマン博士は、ブルーゾーンの特徴を地域全体の統計データに基づいて評価してるんだけど、たとえばイタリアのサルディーニャ島の中でも、ブルーゾーンとされるのは山間部の6つの村だけだったりする。この村々は、他の地域と文化や経済が違うので、島全体の統計と単純に比べてもなぁ……って感じ。
あと、沖縄について言えば、戦後にアメリカ文化が導入されてジャンクフードが多めの食生活に切り替わったのは有名な話なので、「現代の経済的状況」を参考に難詰されても「それは関係ないでしょう!」としか言いようがない。
そんなわけで、最初にニューマン博士の主張を読んだ時はビビりましたが、よく考えたら「割と問題の多い指摘だよなー」って気分になりました。まぁ私も両陣営のデータを端からチェックしたわけじゃないので、どっちが正しいとも言いづらいとこはあるんですけども、今のところはあんまクリティカルな批判じゃないかなぁ……って印象ですね。
さて、どうしましょう?
では、このブルーゾーン論争を元に、私たち一般人がどうすべきかってことですが、結論としては「正解がどっちでも、別にやることは変わらなくないか?」ってところに落ち着くんじゃないでしょうか。ブルーゾーン仮説が正しかろうが間違っていようが、肯定派が主張するポイントってのは、科学的に広く裏づけられてますからねぇ。
たとえば、ブルーゾーン肯定派が言う植物性食品を中心とした食事なんて当たり前の話だし、日常的な身体活動が大事ってのもよく聞く考え方だし、家族や友人との絆が寿命を伸ばすのも、相当に確立された知見でありましょう。いわばブルーゾーンってのは、常識的な話にちょっとしたロマンと物語を付け加えたものと考えても良いので(これはパレオダイエットにも言えることですけど)、私たちがやることは別になんも変わらないんですよ。
というわけで、今回の論争は、個人的には「統計データをどう見るか?」って点で、あらためて勉強になった一件でした。いやー、統計って本当にいいもんですね(適当なまとめ)。