今週の小ネタ:性格を改善する方法、「期待値を下げろ!」ってアドバイスは正しいのか、ナルシシストをうまく褒めるには?
ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
性格を改善するには“目的意識”が超大事
「20歳までに決まった性格は一生変わらない」などと昔はよく言ったもんですが、近年では「オッサンになっても性格って変えられるのでは?」って意見が増えてきたのは、このブログでも過去に何度か書いたとおり。「私は心配性だから、ずっとこのままだろう」とか「社交的な性格は生まれつきで、内向的な自分には無理」と思っている人でも、実際には希望があるみたいなんですよね。
で、最近の研究(R)でも、「性格が変わらないってのは間違いだ!」って主張が展開されていてよろしゅうございました。性格は人生のあらゆる段階で変化する可能性を秘めており、特に「目的意識」を手に入れることで、その変化を促進できるというんですな。
これは啓明大学などの研究で、アメリカの「健康と引退に関する長期研究」(HRS)のデータを使い、11,000人以上の高齢者(平均年齢64歳)の性格と目的意識を10年以上にわたって追跡調査したんですよ。その結果、何がわかったのかと言いますと、
- “目的意識”が高い人は、性格が以下のように成長していた。
- 神経症傾向の低下(不安やイライラが減少)
- 誠実性の向上(計画的で勤勉な性格に)
- 外向性の向上(人付き合いが楽しくなる)
- 協調性の向上(他人への寛容さがアップ)
- 経験への開放性の向上(新しいことにチャレンジしやすくなる)
みたいになります。どうやら、私たちの性格ってのは「固定的なもの」ではなく、「意図的な努力や成長戦略によって変化可能なもの」みたいなんですよね。
では、ここで重要視されている「目的意識」がどのようなものかってところが気になりますが、簡単に言えば、「自分のエネルギーや行動をどこに向けるか」が明確になっている状態を指しております。このような意識があると、「これまでの経験には意味があり、これからも意義ある未来を作れる!」みたいな感覚が生まれ、これが性格の改善に結びつくというんですな。
でもって、この目的意識を高めるために役に立つのが、研究チームが提唱する「PATHS理論(Purpose As Trait, Habit, and State)」ってやつです。この理論では、目的意識を次の3つのレベルで捉えまして、
- 特性:長期的な人生目標。「自分の人生で達成したいことは何か」を考えること。
- 習慣:毎日の行動の中で「意義ある行動」を取り入れること。
- 瞬間:今この瞬間に「やっていることの意味」を感じること。
といった要素を満たした時に目的意識が生まれ、ひいては性格の改善につながっていくというんですよ。なんとなくわかりますな。
そう考えると、具体的なアクションプランとしては、
- 小さな趣味を始める:以前から気になっていたことを少しだけ始めてみる。例えば、「ペットの絵を描く」「簡単な料理に挑戦する」など、特別なスキルは不要。
- 短期的なゴールを設定する:目的意識は、いきなり大きなものを設定しなくても大丈夫なので、「1週間で3回散歩に行く」「1日に1回、自分を褒める」など、簡単なゴールを作るだけでもOK。そこから少しずつ長期的な人生目標を育てていけばいいんで。
みたいになるでしょうね。いずれにせよ、性格は一生変わらないって説はだいぶ廃れてきたので、小さな行動を通じて目的意識を育てるように心がけてみちゃいかがかと思う次第
「期待値を下げろ!」ってアドバイスは正しいのか
「期待値は下げておけ!」みたいなアドバイスをよく耳にするわけです。例えば、好きな相手にメッセージを送った後に「まぁレスが来ない可能性は割とあるよな」と考えてみたり、仕事で昇進の結果を待つときに「まぁどうせ無理だろうけどね」と思ったりして、本当にダメだったときにダメージを負わないように心の予防線を張っておくわけですな。
では、この手法は本当に意味があるのかってことで、マイアミ大学などのチームが良い研究(R)を行ってくれておりました。
この研究では、「あえて期待値を下げる」ってやり方を、「ブレイシング(bracing)」と呼んでおります。「期待値を下げれば結果がダメでもメンタルの崩壊を防げる!」みたいな考え方ですね。
しかし、この方法には思わぬ副作用がありまして、ブレイシングに頼ると、以下のような問題が起きるというんですな。
- 未来を正確に予測する力が低下する:期待値を下げる思考をくり返すと、良い結果が起きたときに「思っていたより良かった!」というポジティブな驚きを感じづらくなるどころか、悪い結果に対して過剰にショックを受けるようになる。
- 「期待が結果に影響を与える」という誤解を招く:何度も期待値を下げまくっていると、例えば「楽観的に考えたら結果が悪くなる」といった、いわゆる「マジカルシンキング(魔法的思考)」が強化されてしまうことが多い。その結果、何かに希望を持つこと自体を避けるようになる。
この結果は、625人の大学生を対象にした試験で判明したもので、この実験では、学生たちに4回の試験を受けてもらい、それぞれの結果を待つ間に、どのような感情や予測をしたのかを記録してもらったんだそうな。その結果がどうだったのかと申しますと、
- ネガティブな予測が強まる傾向:期待値を下げた学生は試験が進むにつれて、どんどん期待値を下げる傾向が見られた。この現象は、試験が進むにつれて顕著になった。
- ネガティブな感情が予測に影響:試験の結果を待つ間、不安やイライラといった感情が強い学生ほど、次の試験の点数を悲観的に予想する傾向があった。
ということで、確かに期待値を下げておくと、少しは感情のダメージを減らせたみたいなんですが、それが大きく外れた場合、つまり「思っていたよりもはるかに悪い結果」を受け取ると、かえってショックが大きくなるみたいなんですな。
つまり、この研究を見る限り、「期待値の低下は必ずしも役に立たない」だけでなく、むしろ以下のような悪影響をもたらすのだと言えましょう。
- 感情の落ち込みを長引かせる:失望感を抱き続けることで、結果をより悪い方向に予想してしまい、次の挑戦に消極的になる。
- 学びの機会を奪う:予測が外れるたびに「どうしてそうなったのか?」を振り返る機会を失い、未来の予測精度が下がる。
こう考えると、期待値を下げるってアドバイスは、短期的には良い影響があるかもしれないけど、長期的にはゴールの達成率を下げちゃうのかもしれませんな。この問題を防ぐ方法はいろいろ考えられましょうが、個人的には「感情と予測を分ける」ってのを徹底してみるのがよさそう。「気分が落ち込んでいるときは、予測が悲観的になりがち」と理解して、感情を切り離す練習をしてみるのが良いのではないかと思った次第です。
ナルシシストをうまく褒めるには?
ナルシシスト対策ってのは難しいもんです。前にも書いたように、上司がナルシシストだったりすると、
- 部下を搾取してもよいと考え、パワハラが多発する
- 努力をしないので、長期的なパフォーマンスが下がる
- 他人に共感しないので、部下の悩みを全スルーする
みたいな事態が起きるわけですな。この問題は、親やパートナーがナルシシストだった場合にも当然当てはまりまして、できるだけ対策しておきたいところなんですよね。
個人的には、可能な限りナルシシストとは距離を置くべきだと思いますが、状況によっては「その人に好かれる」必要が出てくることもあるでしょう。新しい上司や、恋人の家族との初対面みたいな場面では、ナルシシストとの邂逅は避けがたいところでしょう。
そこで問題になるのが、「お世辞」の使い方であります。ナルシシストがお世辞を好むのは間違いなく、うまい具合にウソ臭くならずに使えば、彼らから受けるダメージを減らすこともできるだろうと思われるわけです。
そこで参考になるのが、近ごろ北京交通大学などが発表した研究(R)で、ここで研究チームは、職場での「お世辞」とその効果について分析してくれてます。その結果をもとに、「ナルシシスト効きやすいお世辞とは?」を見てみましょう。
この研究では、お世辞の種類を大きく2つに分けてまして、
- 過剰なお世辞:事実を大げさに誇張して褒めたり、大げさなジェスチャーを使ったり、相手のスキルや能力を不相応に持ち上げるタイプのお世辞。「あなたがいなければ、このプロジェクトは完全に崩壊していました!」「あなたの話すことは常に完璧で、全く欠点が見当たりません!」みたいなやつで、大半の人には「嘘くさい」と感じられがち。
- 自然なお世辞:状況に適した内容で褒めたり、具体的な行動や成果を称賛したり、控えめで誠実な表現を心がけたりといったタイプのお世辞。「あなたがまとめたレポート、とても分かりやすく参考になりました。」「あなたのリーダーシップ、本当に心強いです。」みたいなやつで、嘘っぽさが少なく、一般人には好意的に受け取られる可能性が高い。
って感じにしています。当然、大半の人は自然なお世辞を好む傾向がありまして、「誇張された称賛」や「不必要な持ち上げ」を使うと、だいたいは相手に恥ずかしさを引き起こしちゃうので逆効果。なんだけど、この研究によると、ナルシシストの場合は少し事情が異なるそうで、
- ナルシシストは過剰なお世辞にも良い反応を見せる:ナルシシストは、一般的な人々よりも過剰なお世辞を好む傾向がある。そもそも「もっと褒めて!」って気持ちが強いため、過剰な称賛にも喜びを感じやすい。
- ただし、ナルシシストに自然なお世辞はさらに効果的:ただし、ナルシシストでも「自然なお世辞」のほうがより強いポジティブな感情を引き起こすとの結果も出ている。具体的な行動や成果に紐づいた称賛は、ナルシシストの自己評価をさらに高める効果があるからだと思われる。
って結果が出たらしい。要するに、「ナルシシストはどんな方法でも良いからとりあえず褒めておけ!」みたいになりまな。ある意味ラクで良いですね。
逆に言えば、ナルシシスト以外のほうが正しく褒めるのは難しいみたいなんで、相手が自己中心的で称賛を求める傾向が強くない場合は、「あのプレゼン、具体的なデータを用いて説得力がありました」みたいに具体的な行動や成果を指摘するタイプの褒め言葉を使うのが良さそうっすね。