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間違いを減らす5つの心理学的アプローチと日本発の“ポカヨケ”戦略

 
 

「自分は間違っていない」と思い込んで、実は大きなミスをしていた。そんな経験は誰にでも心当たりがございましょう。私もそんな体験ばかりで、思い出すだけでも恥ずかしさで死にそうです。

 

もちろん間違えるのは人間として自然なことなんだけど、仕事をやっていると1つのミスが大きな影響を及ぼしちゃうのはよくあること。では、どうすれば私たちは重大な間違いを防ぐことができるのかってことで、心理学者のギャレット・リー・コヒー先生などが、過去の研究をレビューしたうえで、「ミスを犯す確率を下げるにはどうすればいいの?」を掘り下げ、その原因を5つに分類しております。基本は企業のリーダーに向けた内容なんですが、私たちの日常にも当てはまる知見がめっちゃ多いので、勉強になるのではないでしょうか。

 

で、このレビューでは、リーダーが意思決定を間違う理由を“バイアス”に求めてまして、以下のようにまとめてくれております。

 

 

  1.  帰属バイアス(他人のせいにする傾向):最初に挙げられるのが「帰属バイアス」で、これは物事の結果を、誤った原因に結びつけてしまう認知の歪みを指しております。なかでもやっかいなのが「自己奉仕バイアス」で、成功を自分の手柄にし、失敗は他人のせいにしてしまうタイプのバイアスであります。このような思考に陥ると、自分にとって都合が良い解釈しかせず、現実を直視できなくなり、その結果、リスクを過小評価し、危険な意思決定をしてしまうわけですな。


  2. ランダム性を無視する:次に問題となるのは、偶然やランダム性を軽視しちゃう傾向であります。この傾向が強い人は、「成功は自分の能力のおかげだ!」と考えやすくなり、これが過信の気持ちを生んでしまうわけです。このような思考は「過剰なコントロール感」によるもので、「自分の行動がすべてを左右するのだ!」って思い込みが含まれております。しかし、実際には、現実には人生の成功には運や偶然が大きな影響を及ぼすので、ランダム性を無視すると大変な目に遭う。


  3. 自分が無能であることに気づけない:多くの研究では、能力の低い人ほど自信を持ちやすい傾向があることがわかっている。例えば、特定の分野で成功したリーダーが、「別の分野でも同じように成功するに違いない!」と過信してしまうようなケースがこれに当たりますね。逆に、能力の高い人ほど自分のスキルを過小評価しやすいため、他人に自分の意見を伝えることが難しくなることもあったりするのが難しいところ。このような自己認識のミスマッチは、特にリーダーにとって致命的になるんですね。


  4. 自分に都合の良いストーリーを作っちゃう:人間の記憶は驚くほど不正確で、都合の良いように書き換えるケースが多め。そのせいで、過去の成功体験を美化し、失敗を見過ごす回数が増え、楽観的すぎる計画を立ててしまうことにつながっちゃうとのこと。これは「計画錯誤」として知られ、成功の確率を過大に評価する原因となりやすかったりします。「自分は過去にもうまくやった」と思い込むことで、冷静な判断ができなくなるんですね。


  5. 速さを求めすぎちゃう:意思決定を急ぐと、重要なディテールを見落としやすくなるのは当然のこと。スピーディに物事を判断するのは効率的である反面、間違いを引き起こしやすいというデメリットがあるのは間違いないでしょう。

 

 

ってことで、いずれも「確かになぁ」って問題ばかりでして、「わかっちゃいるけど対策が難しいですよねぇ」って感じがするわけです。

 

そこで研究チームは、認知バイアスを克服して致命的なミスを防ぐために、日本の「ポカヨケ」って概念を使おうぜ!と主張しておられます。これは日本の製造業で生まれた「ミス防止」の仕組みで、たとえば「パーキングブレーキをかけた状態でないとエンジンがかからない車」とか、「扉が開いていると動作しない電子レンジ」みたいな仕組みなどが、ポカヨケの典型的な例であります。これをリーダーシップに応用すれば、認知バイアスによるミスを未然に防げるんじゃないかと、研究チームは考えたわけですね。

 

具体的には、ミス防止の効果的な方法として、具体的な方法を3つピックアップしておられます。

 

  1. プレモーテム法:意思決定を下す前に「この決定が失敗した場合、その原因は何か?」を逆算的に考える手法。プレモーテムでは、未来の失敗シナリオを想定し、リスクを洗い出します。特に、組織全体でこのプロセスを共有することで、見落としを防ぐ効果が期待される。この手法については「科学的な適職」で詳しく説明してますんで、興味がある方はどうぞ。

  2. スピードと精度のトレードオフを評価する:上にも書いたとおり、決定のスピードと精度はトレードオフの関係にある。当然ながら、すべての決定にスピードが求められるわけではないので、決断の必要性とその影響を天秤にかけ、どの程度の時間を費やすべきかを慎重に検討してみると、意思決定の精度はガツンと上がる。

  3. 参照クラス予測:計画錯誤を防ぐためには、過去の類似プロジェクトのデータを参考にする「参照クラス予測」が有効。この手法により、過去の失敗や成功から現実的な期待値を設定できる。

 

どれも複数の研究で意思決定のミスを減らす効能が確認されていて、これは確かに良いセレクションですなー。おそらく、この箇条書きだけだと「実際にどうすればいいの?」ってところはよくわからないと思うので、この3つの手法については、今後のブログで追記したいと思います。ちょっとお待ちくださいませ。

 

いずれにせよ、間違いを完全に防ぐことは不可能かもしれませんが、正しい戦略を活用すれば、ミスの確率を大幅に下げることができるのは確実。今リーダーの立場にない人でも、日々の意思決定で上記のバイアスを意識しつつ、ポカヨケの考え方を導入してみると良さそうであります。では、3つのテクニックの詳細は、また後日に〜。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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