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加工食品に仕掛けられた「塩、砂糖、脂肪」の罠 | 「フードトラップ」

Saltsugarfat

マイケル・モス「フードトラップ」を読了。ピューリッツァー賞受賞ジャーナリストが、加工食品の歴史を追った硬派なノンフィクションであります。

 




全体のテーマは「なんで加工食品はこんなに人を夢中にさせるのか?」というもの。加工食品の中毒性については、当ブログでも「食事報酬こそ肥満の元凶」って話を何度かしてきましたが、本書では、脳を狂わせる原因を「塩、砂糖、脂肪」の三大成分にしぼりこんで、いかに食品業界が売上をのばしてきたかを詳細にレポートしております。

砂糖

本書によれば、加工食品の中毒性がパワーアップしたのは1970年代のこと。実験心理学者のハワード・モスコウィッツ博士が、糖分の魅力を最大に引き出す方法を調べ始めたのが大きいそうな。


具体的には、あらゆる糖分の量を組み合わせて味覚テストを行いまして、コンピュータモデリングで「ヒトが糖分にハマりやすい」数値を割り出していったらしい。この数値は「至福ポイント」と呼ばれてまして、いまもさまざまな加工食品に使われているんだとか。


さらに、2001年には、調味料で有名なマコーミック社が人間の味覚に関するリサーチを行い、「消費者が食品にのめり込むのに空腹感は関係ない」こと実証。あらゆるメーカーが糖分の至福ポイントを追求しはじめた結果、市場の加工食品は砂糖まみれになっていったんだ、と。

脂肪

もっとも糖分に関しては、ある一定量を超すと魅力が減っていくんだそうで、無限に使用量が上がっていくわけでもないらしい。一方で「脂肪」のほうはタチが悪く、糖分と違って上限がないせいで、メーカーの使用量も天井しらずなんだそうな。


また、脂肪については、メーカーによる脳研究も盛んで、どんな匂いや食感と組み合わせれば脳神経が喜ぶのかまで調査が進んでいる模様。実際、ハーシー社の実験では、ポテトチップスを食べたときの「サクッ」って音が大きくなるほど、商品の魅力度があがることがわかったらしい。すげえ。


クラフトフーズ社で大ヒット加工食品を生んだボブ・ドレーンいわく、

われわれの大脳辺縁系は、糖分、脂肪分、塩分(自然界では貴重なエネルギー源だ)に目がない。なら、これらが入った製品を作ればいい。利幅を稼ぐために低コストの原料も使おう。次に、『スーパーサイズ化』して販売量をさらに増やす。そして『ヘビーユーザー』に照準を合わせて、広告とプロモーションを展開する。


とのこと。

加工食品に塩味が欠かせないのは常識ですが、糖分や脂肪とは違って、塩に関してはまだ未解明な部分が多いらしい。ただし、塩味のセンサーが口や腸管の全体にひろがっていることはわかっており、とにかく人間は塩を欲しがる生き物なんだそうな。


当然、加工食品の塩分は増える一方で、体への影響も悪化する一方。実際、メーカーのお偉いさんたちの大半は、自社の製品を食べていないらしい。

私が話を聞いた重役の多くは、自らが手がけた商品を避ける食生活を心がけていた。(中略)元クラフトのジョン・ラフは甘い飲み物と脂肪分の多いスナック菓子をやめた。ネスレのルイス・カンタレルは、夕食は魚と決めている。元フリトレーのロバート・リンはポテトチップを食べず、加工度の高いほかの食品もほとんど食べない。ソフトドリンク開発の達人ハワード・モスコウィッツは炭酸飲料を飲まない。


加工食品の関係者ほど加工食品を遠ざける暮らしをしているという、まことに味わい深いエピソードでした。日本の状況も知りたいですねぇ。

まとめ

そんなわけで、現代人がいかに塩分・糖分・脂肪分に慣れきっているかを痛感できる一冊。なにせ当代一の科学者たちが、消費者の脳をコントロールすべく全力を尽くしているわけですから、簡単にはあらがえないのも当然でありましょう。


もっとも、各メーカーも「このままでいい」とは思っておらず、さまざまな対策を打ち出しているものの、なかなか現状は厳しい模様。フィリップモリス食品部門のマネージャーいわく、

「人々は品物を見て、『糖分が多すぎる』とか『塩分が多すぎる』と言うだろう。だがそれが消費者の求めるものなのだ。われわれが彼らの頭に銃を突きつけて食べさせているわけではない。糖分や塩分を減らせば、売れ行きが落ちる。そして競合企業がわれわれの市場を奪う。罠にはまったような状態なんだ」


とのこと。消費者が罠にかけてたら、いつしかメーカーも罠にはまっちゃったという、グリム童話にでもありそうなお話でした。いやー、このあたりは文句を言ってもしかたないんで、加工食品の誘惑を意識しつつ自衛していくしかないですかねぇ。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。