偏見や先入観で誤った判断をしないための5つのユーザーズガイド
ここ数年、心理学や経済学方面でずっと熱いのが「認知バイアス」のネタ。ヒトの心は偏見や先入観に左右されがちなのに、本人はその間違いに気づけないって話であります。
上手くバイアスを避けるのは難しいんですが、前もって意識しておけば、そこそこの対策はできなくもない感じ。そこで参考になりそうなのが、2014年6月に出た「バイアス回避のためのユーザーズガイド」(1)であります。
これはデューク大学とペンシルバニア大学の共同研究で、もとは意思決定論の専門誌に掲載されたもの。ここ数十年の認知バイアス研究を総まとめにして、大きな結論を出したナイスな論文であります。そのポイントは、ざっくり以下の5つ。
1 メンタルタイムトラベル
将来の自分を想像してみる方法。といっても、バラ色の未来を想像しても意味がないので、あえてダークな光景をイメージするのがコツだそうな。
この戦略を使うには、いまの決断が失敗に終わった未来を想像するとよい。たとえば、いま「マイホームを買うべきか?」といった問題に対処したいなら、2035年の時点で「なんで20年前にくらべて、こんなに自宅の資産価値が下がっちゃったんだろう?」と悩む自分を思い描くのだ。
多くの人は、未来の失敗に対する想像力が足りないか、たんに自信過剰のせいで決断を間違ってしまいがち。しかし、あえて不吉な未来をイメージすることで視点が広がり、バイアスを避けやすくなるんだそうな。WOOPの法則でも、目標の障害を思い描くのが重要なポイントになってましたが、ちょっと似てますね。
2 ストレスが大きいときは決断しない
まず前提として、人間である以上は「客観的な決断」などは絶対に不可能。ヒトの意志はつねに周囲の環境に左右されてまして、なかでも影響が大きいのがストレスであります。
怒りやイライラといった心理的ストレスはもちろん、空腹、疲労、身体的な不快感など、とにかく自分にとって嫌なことはすべて意思決定に影響をあたえちゃう。有名なのはダニエル・カーネマンの研究(2)で、仮釈放手続きの統計データをとったところ、陪審員たちが食事をした直後のほうが、空腹時よりも寛大な判断を下す確率が高かったそうな。
そんなわけで、大事な決断が必要なときは、できるだけストレスが少ない状況で行うのが吉。
3 見積もりは自分だけで2回行う
予算の決定や作業時間の割り当てなど、数字に関する決定をしたいときは、最低でも2回は見積もりをとるのが基本。研究者いわく、
同じ問題に対して2度考えることで、私たちは、自動的に記憶のなかから違った証拠やサンプルを引き出す。その結果、異なった答えが生まれることになる。
とのこと。ここで重要なのは、あくまでも「自分1人で同じ問題について2度考える」ところで、他人の意見を参考にしたときよりも、およそ0.5ポイントも正確性が高いってデータがあるんだそうな。
4 前もって明確なプランを書き出す
たいていの人は、長期的な目標(ダイエットとか)があっても目先の欲望(ケーキとか)には負けちゃうもの。ただし、事前に明確な行動プランを紙に書いておくだけで、目標の達成率はガッツリと高くなる。
研究者いわく、
明確な計画には、実行の先送りや物忘れをふせぎ、目標を達成する明確な効果がある。
とのこと。論文で引用されているのは2012年の研究(3)で、インフルエンザワクチンの具体的な場所や日程を書き出すように指示された被験者は、接種率がガツンと高まったそうな。このあたりの手法は、心理学の世界では定番の「if-thenプランニング」と同じですね。
5 自分の意志力のなさを認める
論文によれば、多くの人は「いざとなれば頑張れるだろう」と思い込みがちで、そのくせ自制心が必要な状況(カロリー制限とか)では、あっけなく欲望に負けてしまう傾向が高いんだ、と。
というわけで、まずは自分の意志力を当てにしないのが初めの一歩。たいていは未来の自分のほうが力が強いので、現在の時点で未来の行動をキッチリと決めておき、あとは無心でその決定に従うのがベターとのこと。
意志力なんて当てにするな!ってのは、行動経済学でよくいう「事前にアーキテクチャーを作っておけ!」ってアドバイスによく似ておりますね。
まとめ
そんなわけで、「バイアス回避のためのユーザーズガイド」による5つのポイントでした。マイナスな未来を想像したり、事前に行動プランを決めておくといった手法は、エッティンゲン博士のWOOPの法則でもおなじみのものでして、いまのところアカデミックな世界の総意なんでしょうな。